最近は、どこに行っても何でも揃っていてとても便利ですが、反面、どのお店でも同じようなものが置いてあって違いがないとも言えます。 商品だけでお店らしさを表現するのは至難のわざ。 なので、ショッピングのプロセスを楽しく、ユニークにしようと力を入れているお店も多いようです。
そもそも、“買い物が楽しい”って、どういうことなんでしょうか?
出不精の私でも、ショッピングに出かけるとやっぱり気分が上がります。
先日、ぶらぶらと買い物を楽しみながら、“なぜ、買い物は楽しいのか”についてあらためて考えてみました。
私たちがよく使う調査手法の一つに、「ショッパー同行調査」というのがあるのですが(ターゲットのショッパーと一緒に買い物しながら、または、そばで観察しながら、買い物の仕方や動線、気持ちの変化などを把握する調査)、いわば、”ひとりショッピング調査”をやってみたというわけです。
「あのときどうしてウキウキしたのか?」、「なぜ、急にテンションが下がったのか」など、思い返しながら自問自答してみました。
そこであらためて気が付いたことと、今まで数多くやってきたショッパー調査のインサイトをもとに、こうなんじゃないかという仮説をまとめてみました。
ウインドウショッピング好きな女性には特に「そうそう!」と共感してもらえるのでは?
女性と男性の買い物の仕方は違うと一般的には言われてはいますが、男性でも共感できる部分があるのではないかと思います。
「買い物が楽しい!」と感じるのは、どんな時で、その時にどのような気持ちの変化が起こっているか。 それをじっくり考えてみて気づいたことは、
“商品を購入した瞬間”が一番楽しいわけではない、ということ。
自分のものになったことを喜ぶ気持ちもあるのでしょうが、買い物の醍醐味は決してそれだけではなさそう…
むしろ、それに至るまでの過程の、商品を見ながら想像を巡らせている時間が最も楽しいのでは? あれこれと商品を見ているときに、目にしたものから芋づる式に記憶が呼び起こされたり、想像がどんどん膨らんだりして、(買い物をしているにもかかわらず、商品選びはそっちのけで)“心ここにあらず”の状態になっているのが、楽しいと感じる瞬間なんじゃないでしょうか。
たとえば、靴売り場で素敵なパンプスに目が留まり“こんな色のヒール、持ってたな~”から始まり、“そういえば、お気に入りのあのスカートと合わせてたな…”、とか、“それでよくお出かけしたなぁ”など、一通り過去の楽しい体験を思い出したり、
同時に、“この靴だと今度のイベントにはいて行けそうだなぁ”、“あのワンピースと合わせるとかわいいな”など、いつ、だれと、どんなところで、どんな服と合わせようか、そうしたらどんな風に見えるだろう、どんな気分になるだろう・・・と、思いを巡らせたり。
ポジティブな想像(むしろ妄想)が自由に膨らむほど、それが解放感につながって楽しくなるような気がします。 そして、ドーパミン(?)のような快楽物質が出ている気にさえなります。
手に入れなくても十分に楽しい(かえって、手に入れてしまうと妙に冷めてしまうことも)。 ショッピングには、所有欲を満たす喜びとは違う側面があるようです。
そんな楽しい買い物中に、店員さんに「これ、一番売れているんですよ」とか、「やわらかい革なので歩きやすいですよ」などと、関係のない情報で妄想をさえぎられたりすると、あっという間に現実に戻って、楽しくなくなってしまうこともよくあることです。
模様替えをしようとカーテンの専門店に行ったときのことです。 部屋の写真を片手に、どんな雰囲気にしようかとあれこれ見ていました。 店員さんが「何かお探しですか?」と声をかけてくれたのですが、“この人に相談して大丈夫かなぁ”と、ちょっと返事に詰まっていたら、なぜかカーテンの遮光等級につての説明が始まりました。 とても流暢に一所懸命説明してくれたので、ひとしきり聞いて、そそくさと帰ってきてしまいました。
「カーテンがある“自分の暮らし”がどんな風になるかは興味があるけど、“カーテンそのもの”には実はそんなに興味ないんです… ごめんなさい。」という気持ちでした。
販売側は、“ショッパーは買い物の最中、商品に注目していて、その良し悪しを比較検討している”という前提で商品の特徴について詳しく説明したりしますが、実のところ、(日用品などのスペック指定の目的買いは別にして)ショッピング中のほとんどの時間は商品ではなく、自分のことに考えを巡らせているのかもしれない。
そう考えると、“楽しいお買い物を提供する売り場”とは、記憶や想像力を刺激するような店づくりで、自由な妄想をさえぎらず、むしろそれを膨らませるような情報や、相づちを入れてくれる店員に出会えるお店なのでは。 もしくは、商品の話ではなく、それがあるとどんな生活になるのかをショッパーの視点で助言してくれるような。 そんなお店があれば、時間を過ごすのが楽しくて、ついつい足を運んでしまうんだろうな、と。
スペックや値段、または、「売れ筋ですよ」といったエンドースメントは、最終的に買うかどうかの意思決定には必要ですが、“楽しい”かどうかとは、また別の思考回路なのでしょう。
たとえば、おつかいを頼まれて、買い物リストの商品を順にカゴに入れるだけのとき。
気分がのらないのに(もしくは、のる前に)店員さんにつかまってしまって、何か買わざるを得ないとき。
または、使用・所有することが別段楽しくないものを買うとき。
多くの人にとって乾電池やトイレットペーパーなどの日用品は楽しくない部類に入るのではないかと思います。 身に着けるもの(特に靴やメガネなど)は、個人差が大きそうですね。
逆に言うと、「買い物を楽しくするには、まずは、使うこと・持っていることを楽しいと感じさせなければいけない」ということなのかも。 靴やメガネだって、身に着けて楽しいものにできれば、ショッピングも格段に楽しくすることができそうです。
上記で出てきた、(悪気はないのでしょうが)楽しい妄想をじゃまする店員さん。 そして、空調やにおいなどのお店の環境です。 くさいのは言うまでもなく、好みではない香りのお店では楽しさも半減します(私は、デパートの化粧品フロアのにおいがどうも苦手で、長居できません)。
もう一つは、ショッパー自身のコンディション。 荷物が重かったり、歩きすぎて足が痛かったり、お腹がすいていたり。 とるに足らないことのように思いますが、こういったコンディションは、高いテンションのまま楽しく買い物できるかどうかを大きく左右します。 歩き疲れて今日はショッピングの気分じゃないなと思っていても、お茶をしてひと息ついたら、その後突然買い物に火が付いたという経験、みなさん一度はあるのでは?
接客をするうえで、荷物を置いてもらったり、イスをすすめたりするのは、親切心からだけではなく、お買い物を楽しむコンディションを整えるという意味でも大切なんだと感じました。
想像力をくすぐるお店や商品、それを促す接客、そして、じゃまをしないお店の環境が“楽しいお買い物”の最低限の要素なのではないでしょうか。
今回は、「お買い物の楽しさ」について考えてみました。 「お買い物の納得感(正しい選択ができたか)」は、はまたちょっと別の視点が必要なのかもしれないので、考えておきます。
以上、ひとりショッピング調査の報告でした。
和。