「え? これを? 20代の女性に売れるようにするんですか?」

しかし、話しはさらに(根)深かったのですよ。


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「ホントに?」って思われるかも知れませんが、実話(を編集したもの)です。 昔話ですが、ひとつ前のK。の記事で思い出してしまいました。

そろそろ時効だと思うので、書いてしまいます。

ひとつひとつは「ありがちな間違い」だったりするんですが、それがいっぺんに起こっているところがすごい。 (そんな、ホント?)と、笑いながらお読みください。

どこの会社のどの商品というのがバレるといけないので、設定や商品カテゴリなどは変えて「フィクション」にしています。

(ずいぶん前に、「間違いだらけ(オリエン篇)」を書きましたが、それはこちら。)

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「お。さん、製品のコンセプトとデザインについて、ご相談したいことが・・・。」


あるとき、とあるメーカーさんからお呼びがかかりました。

名前は明かせないんですが、多くの方がご存じのブランドを持つ会社さんです。

会議には先方の企画部の方が2名いらっしゃって、「これなんですが」と商品を出されました。

その会社のメインのブランドで、小学生~ローティーンがターゲット、どちらかというと男の子向けの製品を中心にしたブランドです。 私もそうですが、多くの方の「子ども頃の思い出」の片隅にあるような。

(ふむふむ、これは楽しそうな仕事だぞ~)と気持ちが盛り上がってきたとき、


担当: 「ご相談はですね、この商品を20代の女性に売れるように、全面リニューアルすることになって、商品コンセプトとパッケージデザインを開発しなければならないんですが、どうすればいいか、どのデザイナーさんに頼めばいいか、アドバイスをいただきたいのです。」

お。: 「え? これを? 20代の女性に売れるように?」

担当: 「はい、そういうプロジェクトです。」


(まさに、ぽか~~~んって感じです。 すいません、商品名を明かせれば、みなさんにも「ぽか~~~ん」としていただけるんですが。 気を取り直して、)


お。: 「すいません、いくつかわからないことがあるんですが・・・。」

担当: 「はい、どうぞ、なんなりと。」

お。: 「どうして、20代女性なんですか? 小学生の男の子のブランドですよね?」

担当: 「いえ、そういうわけでもないんですよ。」

お。: 「え? そうじゃないんですか?」

担当: 「実は5年ほど前になりますが、ずっと売り上げが下がっている中で、思い切って女性向けに売ろうということになって、以来、成人女性をメインのターゲットにしています。」


ある意味(ああ、どうやら私が知らなかっただけですね。 では、先入観を取り払って、しっかり理解せねば。)


お。: 「そうだったんですか。 世の中、いろんな市場が伸びなくなって、大変ですからねぇ。 では、ターゲットを変更してからの売り上げはどうなんですか?」

担当: 「そこなんです。 減少幅は小さくなったんですが、相変わらず昨対割れが続いています。 そこで、今後のビジネスの伸長も考えて、若い世代に使ってもらおうということになったんです。」

お。: 「あら・・・。 ターゲットを変えたときに、製品やデザインは変更したんですよね? ここにあるのは、昔からある、男の子向けのモノ?」

担当: 「いえ、特に製品やパッケージデザインは変更しませんでした。」

お。: 「だから売れなかった?」

担当: 「いえ、そのようには考えていません。」


(なんか、混乱してきましたよ。 小中学生くらいの男の子向けとして確立された製品で、売れなくなってきたから、いきなりオトナの女性にターゲットを変更した、すごい変更です、が、製品もデザインも変更しなかった、しなくていいと判断した?)


お。: 「ともかく、今後、何をしようとしているのかを、ご説明いただけますか?」

担当: 「はい。 女性にターゲットを変更しても、売り上げは少ししか伸びない。 調べてみると、多くが40代くらいの女性で、その後、50代くらいになると買わなくなってしまうようなんです。 だったらもっと若いうちから使ってもらえばいいだろう、と言うので、今回、商品のコンセプトに変更を加えてもいい、少なくともパッケージデザインをもっとパ~~っとおしゃれにして、若い女性に受けるようにしなさい、かとうさわしさんとか有名デザイナーに依頼すればいいんだよ、と。 で、かとうさんでいいのか、あるいは誰にどうやって依頼すればいいかお聞きできますか?」


(おや、言葉遣いが、ちょっと変ですね。 聞いてみましょう。)


お。: 「『しなさい』というのは?」

担当: 「社長です。」

お。: 「担当者さんはどのようにお考えなんですか?」

担当: 「私もそう思います。」


(思ってないんじゃない、実は? ま、いいか。)


お。: 「ところで、販路ですが、御社はもともと教育関係というか、そういうところに強いんですよね?」

担当: 「はい。」

お。: 「でも、オトナや若い女性がターゲットということになると、」

担当: 「はい、今後は、バラエティショップとコンビニはもちろん、ドラッグなど一般販路、さらにはネット販売を中心に考えていくことになります。」

お。: 「なるほど、御社の営業はそちらには強いんですか?」

担当: 「いえ、全く。 一部ホームセンターなど取り扱いが無くはないんですが。」

お。: 「ネットも?」

担当: 「初めてです。 まずは、あまぞんとらくてんから始めて、あとは有名タレントさんのブログに取り上げてもらいなさい、と。」

お。: 「社長に?」

担当: 「社長が。」

お。: 「で、いつ発売ですか?」

担当: 「この秋にはスタートします(この会話のころは春)。 ですが営業が売り込みをスタートしないといけないので、2カ月後にはデザインが完成していないと間に合いません。 弊社は売り上げが3~4月に集中しがちで、秋~冬に売り上げが欲しいというのもあります。」


(2か月で製品そのものに変更を加えるのは無理っぽいですねぇ。 今の、見るからに男の子向けなモノを20代女性に「きゃぁ、ステキ」って言ってもらうのは、至難の業。 そして、2ヶ月以内にデザインを完成させて、ほぼ伝手の無い販路に売り込み、同時に初めてのネット販売に突っ込んでいく。

あぁ、こりゃ無理だわねぇ、たぶん・・・。

にしても、何から何までちぐはぐなので、少し聞きこんでみることにしましょう。)


お。: 「少し戻ってお聞きしますが・・・。」

担当: 「はい、どうぞ。」

お。: 「そもそも5年前、なぜ商品そのままで女性向けにして売れるという判断を?」

担当: 「調査の結果です。」


(お、調査とかするんですね、それ早く言ってよぉ。)


お。: 「どんな調査ですか?」

担当: 「ある販売店の会員情報なんですが、そこのデータを調べてみたら、なんと購入者の半数以上が35~55歳くらいの女性だったんですよ!」

お。: 「ん?」


(ん?????)


お。: 「はぁ・・・。 では、もうひとつお聞きします。 その5年くらい前ですか、売り上げが下がっていてターゲットを変えたとおっしゃいましたが、売り上げはどれくらい下がっていたんですか?」

担当: 「今は、昨対でマイナス3%くらいですが、5年前は5~8%前後、数年にわたって下がり続けていました。 お察しの通り、この商品は弊社の基幹商品ですので大変で、 小規模でしたがリストラとかもありました。」

お。: 「そうでしたか・・・。 で、そのとき、それほどまでに急激にビジネスが落ちた原因は何だったんでしょうか?」

担当: 「少子化です。」

お。: 「ん???」


(ん??????????)


お。: 「すいません、確かに少子化は起きてますが、それで年率8%の減少にはなりませんよね? 現段階では、あれはじわじわ起きているものであって・・・。」

担当: 「当時、そういう結論だったと聞いています。」

お。: 「お二人は担当ではなかったんですか?」

担当: 「私たちはその後に転職してきたので。 当時、非常な経営難で、新社長が呼んできた経営コンサルの方に入ってもらって、いろいろ分析された結果、少子化の影響だ、ということでしたので、ターゲットを変更しなさい、と。 で、調べてみたら、実は40代の女性が買っていた、と。」


(はぁ・・・・・・・・・・・・・・、と長~い溜息。)


お。: 「すいません、ちょっと整理してみますね。

5年前に続いていた年率8%のビジネスの減少に、原因は少子化だと結論づけた。

子ども相手の商売は先がないと判断して、ターゲットを変えることになった。

で、販売店の購買者データを見てみたら、実はすでにそのときに40代女性が購買者の半数を占めていた。

なので、ターゲットは成人女性だ、ということになって、その後、40代の女性を相手にそこそこのマーケティング活動を行ってきた。

結果として、減少幅は小さくなったが、相変わらずビジネスは下降気味。

そこで今回思い切って、20代女性をターゲットにすることにした。

そのために、ともかく大幅リニューアル、パッケージデザインを変更して、御社が得意ではない販路に飛び込んでいく、ということ合ってますか?」

担当: 「合ってます。」

お。: 「とてもとても大きなチェンジになりますが?」

担当: 「思い切ってやってみろ、と社長が。」

お。: 「御社の基幹商品ですよね?」

担当: 「やってみなければわからない、と社長が。」


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長くなってしまいましたが、こんな感じの会議でした。

で、どうしたかって?

以下のようにお伝えしたら、音沙汰無くなりました(ので、お仕事にはなりませんでしたわ)。

でも、その後、商品は変わっていないように思うので、暴挙は止まったのかな。


お。: 「少子化が原因で年8%もの減少が続くわけがありません。 他に原因があったはずですが、それを安易に『少子化のせい』にしたのが間違いの始まりなので、まずはそこに戻って、本当の原因を探りましょう。 お手伝いします。

ちなみに、販売店の購入者データを見て、とのことでしたが、購買者が40代女性なのは、お子さんのためにお母さんが購入されているからじゃないですか。 使っているのは、相変わらず子どもたち。 だから50代くらいに入ると買わなくなる、お子さんが使わなくなるから。 もう少しちゃんと調べましょう。 消費者調査とか要らないですよ、知り合いに聞くとか、お店でインタビューすればわかります。

ビジネスを伸ばすためには若い女性だ、なんでもかんでも20代女性、っておかしいはずです。 これはホントにいろんなところで出会う『よくある勘違い』ですが。 売れっ子デザイナーに頼めばなんとかなる、というのも。

今、使ってくれているひとたちを理解しましょう。 その中から、「今後・もっと使ってくれるはず」のひとを探していけばいいことです。

あと、これはマーケティングと直接関係ないと思われるかも知れませんが、販路についても、同様にちゃんと戦略を練りましょう。 まぁ、そもそもの前提が間違っている可能性が高いですが、ただ、営業部にとっては一大事で、投資も必要になるはずなので、早く結論を出さないといけませんね。

ともかく、まず、5年前の分析を再検証するところから、始めませんか?

今でも、昔と変わらず、小中学生が使ってくれているんですよ。 きっと今でもとても強いブランドなはずです。 あるいは、強さを取り戻せるはず。

今後、少子化は確実に続きますが、ここで勝たないとじり貧、でも、御社の営業の強みを考えても、ここでしっかりNo.1になっておけば、他社が投資してこないおいしいマーケットになりますよ。」

担当: 「・・・(無言)・・・。」


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まさか、みなさんの会社でここまでのことは起きていないと思いますが、ひとつ教訓があるとすると、ときには「そうと決まっていること」に対して、「一旦しゃがんで考える」、見直してみるというのは、大事かも。 直前の結果に対する対処としては間違っていなかったとしても、長期的に見るとおかしなことになっている、というのは、ときどき見かけますから。

あと、先日のK。の記事「スマホのせいで」にあるような、あるいは、かつて和。が「どこかで聞いたことのあるような理由でまとめてしまう」と書いていたような、分析と呼べない分析から「言い訳にしかならない」結論を引き出して、間違った決断をしてしまったりしていないことを祈ります。

あ、私にとっての学びは、こういうときは「はいはいって話を聞いてあげれば、お金になるのにね」ですかね。 きっと担当者さんもわかってたんだと思います。 ただ、彼女にとっての「仕事」は社長がやれと言っていることをさっさとやることであって、根本的・戦略的な問題を蒸し返すことではなかった。

なのに、私の説教につきあわされて。

大変、失礼いたしました。


お。