「もっと高くまでいきたけりゃ、散々悩んで、いったんしゃがまないとね」(大貫亜美)とは、言わずと知れたPUFFYの名曲「フィッシュ・オン」の歌詞、って知らないですよね。 2011年、デビュー15周年のアルバム「Thank You」に収められている1曲です。 (どうでもいい? すいません。 大好きなフレーズなんです。)

 

先日、「アドテック関西」というイベントの京都の回に、かつての同僚、株式会社クー・マーケティング・カンパニーの音部さんに引っ張り出されまして、似合わない「基調講演(対談)」をやらせていただきました。

豪雨のただなかの開催だったので、多くの方が参加できなかったようですが、それでも100名くらいいらっしゃいましたでしょうか。 ありがとうございました。

いやいや、緊張しました~(そう見えないらしいのが、ある意味、難点・・・やはり30人以上は、向いてないですね、私。 ただ、音部さんとこういう形で一緒に話ができたのは、とても楽しかったです)。

 

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タイトルは、「イノベーションを追い続ける前に ~いったんしゃがんで考えるブランドマーケティングの課題~」。

 

メディアや表現手法、リサーチ手法を中心にして、今、マーケティングの世界は(も)、デジタルを起点にした変化が激しく、変化を追い続ける、変化に置いていかれないようにすることが、ともすると仕事化・目的化してしまっているような現状に対して、「いや、大事なこと、忘れないでね、他に時間と頭を遣うべきこと、あるんじゃないの?」というお話をさせていただきました。

お話し、というより、年寄りマーケターによる説教、といったほうが妥当ですかね。

それでも、講演後、「私、思えばずっと走り続けていました、走りながら考えていました」という感想もいただいたので、少しは役に立ちましたかね。

 

で、ここ(ブログ)でも、そのときの話を書き残しておこうかな、と。

(日頃からブログで言ってることばかりなので、新しくはないんですが、講演ののちに、「私の上司がおふたりの話を聞いて、ずいぶん感銘を受けたらしいんですが、『おい、ともかくいったんしゃがめ!』って・・・どういうことか、よくわからないで困っています」という声も聞こえてこなくはないので、簡単にまとめておきます。)

 

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トークの要点は、以下の3つです。

1.変化の多くはHOW(施策)環境の変化で、それを追いかけて走ってばかりいると、行先(長期戦略)や、今どこにいるのか(ビジネス状況や結果のレビュー)を見失いがちなので、注意しましょう。 いったんしゃがんで、落ち着いて、

2.変わらない・変えてはいけないもの=ブランドの長期戦略を練りましょう。

3.さらに、ブランドを構築するためには、お客様の目に触れる、手に取ってもらう、ともに時間を過ごすもの(商品・サービス・デザイン・広告表現)は、ていねいに、同じ人格(と大義)を体現したものを作りましょう。

その「まとめ」として、ふたりからのメッセージとして最後にお伝えしたのが、

「変化を追い続けるよりも、変化しないものに、ちゃんと時間と頭を遣ってみる」

ということでした。

 

1については、みなさん、「そんなのわかってるよ、でも走りながら考えて、ベストの判断をしている」とおっしゃると思うんですけど、実際に、日ごろ、お付き合いしている企業・ブランドの現状を見ていると、「そうでもないんじゃないかな」と思います。

少なくとも、みなさん、すごくお忙しそうにしてらしゃいます。

もはや、以前のように、何か月もかけて広告やデザインを作って、何か月も実施して、その後、ようやく結果を知ることができる、という時代ではなく、多くの表現物がすごいスピードで作られ、世に出され、消費されているわけですから、今やマーケティングは、最も労働集約的な仕事のひとつになってしまっています。

実際、そこまでしなくてもいいカテゴリでも、そういう「空気」に圧されているような場合もあり。

そんな中で、よく目にするのが、「一歩引いて全体の状態を見ることや、そもそもやるべきだったことに対する結果の相対化」ができていないこと。

みなさん、PDCAと言いながら、直前・直近の施策の結果は見て、反省や学びを活かすことはやってらっしゃるんですが、「それってそもそも何が目的だったのか?」、「一連の活動の結果、ブランドとして何を確立するべきだったのか?」、「それらは、ブランドの長期戦略=エクイティ、ベネフィット、ブランドの人格や価値観を積み上げていくことに貢献できているのか?」という視点というか、そういうのが、希薄になってしまっているように思います。 (だからこそ、弊社はお仕事をいただけるんですが、ね。)

そういうのを「いったんしゃがんで=ちょっと活動を一旦停止して=考えてみませんか?」と。

 

「じゃ、いったんしゃがんで何を考えるの?」の答えのひとつが、2=ブランドの長期戦略なわけです。 (時間も限られていたので、もうひとつの重要項目である消費者理解については、触れませんでした。)

ブランドとは何でできているのか、について、音部さんは、それは(積み重ねられて人の心と記憶の中に形成された)意味の集合だとおっしゃいます。 私たちが日ごろざっくりと「エクイティ」と呼んで済ませているものの正体を、彼は「意味」だと規定しているわけですが、なかなか秀逸な定義だと思います。 約束・プロミスとおっしゃる方もいらっしゃいますが、それはどちらかというと発信者側の意図に近いので、「エクイティ=人の心と記憶の中にあるブランドの無形資産」だとすれば、「意味」のほうが、しっくりきますね。

意味には、それこそ価格や販路に関するものなど、いろいろなものが含まれますが、それらの中で最重要のものが、ベネフィットと大義(音部)・人格(お。)です。

ベネフィットとは、商品やサービスの特性や機能のことではなく、それが解決してくれること、結果、私の生活に与えてくれるもの、のことを指します。 このブログでも、何度も議論していますね。 機能や特性は世の中が変化すると、変化したり必要でなくなったりしますが、ベネフィットは人が生きている限りなくならない(なくなりにくい)ものです。

大義・人格とは、そのブランドが持つ(人としての)価値観や世界観、何を目的に生きているブランドなのか、何のために存在しているのか、どんな生き方をしたいと思っているのか、何をよしとし、何を信じているブランドなのか、です。 ブランドキャラクターとも言いますが、決して、どんな見た目で、どんな服を着ているひとなのか、ではありません。 それらは変化してしまったり、時代遅れになったりしますからね。

当日、例としてお話ししたのは、アイスクリーム・氷菓カテゴリの2大ブランドのひとつ、「ガリガリ君」でした。 (もうひとつは、ハーゲンダッツね。)

手ごろな価格で、気楽に、すっきりした味と気分を与えてくれる、という機能を持っていますが、そういうの、他にもたっくさんあります。 (というか、氷菓カテゴリはほぼすべてそうです。)

しかし、ガリガリ君には、ちゃんと「意味としてのベネフィット」がある。

当日、音部さんはそれを「ま、いいか、悪くないよね、と思わせてくれる、ちょうどいい時間つぶし」と表現されました。 暑い夏の日の午後、遊び疲れたとき、でも、今の楽しさから離れたくない、「楽しかったね」と言わなくてもその気持ちを共有できる「時間つぶし」。

いいですね~。

ガリガリ君は、その大義・人格こそが素晴らしいと思っている私は、それに対して、「がきんちょ(の頃の)楽しい時間、夏休みも遊びの時間も、いつか終わることは知っている、でも、この時間がずっと続いたらいいのになぁ、世の中そうだといいのになぁ」、ガリガリ君は、そんな風に世の中を見ている・とらえている、そういう人格なんだとお答えしました。

それらが、多くの「がきんちょ(の心を持ったすべてのひと)」に「だよね~、ま、いいか」と共感されているから、あれほど強いブランドで居続けられる、と私たちは考えます。

そういう、「ブランドは何を目指していて、どこに行きたいのか」を、時代や環境が変化しても、変わらない・変わりにくい価値として定義すること、それこそが、しゃがんででも考えるべきことなんじゃないかしら、と。

 

3つめの話題は、当日いらっしゃっている多くの方が、実務としてマーケティングコミュニケーションの施策に携わってらっしゃる方々だったので、日々のブランド作りのヒントとしてお話しさせていただきました。

ブランドとは人、だから、信頼されるだけでなく、愛されもする(嫌われもする)。 であれば、そこから発せられる表現=商品やサービスのベネフィットや機能・デザイン・広告などの表現物のすべては、同じ人からだとわかるもの、同じ価値観や生き方を持った人格だと感じられるものでないといけないし、ブランドが、積み重ねられて人の心と記憶の中に形成された意味の集合だとすれば、そのすべてには一貫した大義がないといけないわけです。

生活の中で、誰かに信頼され、好きになってもらおう、愛してもらおうと思ったら、いい加減なメッセージを送りつけたり、適当に見繕ったまぁまぁのプレゼントをポンポン渡したりしないはず。 おそらく、じっくり相手のことと、自分が伝えたいこと、相手に感じてほしいことを考えて、ていねいに作ったものを贈るはずです。

では、マーケティングでも、同じことをしてくださいね、っていうだけのことです。

別に、お金をかけなさいと言っているわけではありません(それが逆効果なこともありますし)。

ポイントは、ていねいに、です。

今の時代、発信するものの量と頻度が高くなっているのであれば、余計にていねいさが重要になります。

ていねいに考え作られていないモノに潜む、「まぁ、これくらいでいいか、とりあえずCPAが上がれば」とい気持ちは、驚くほどちゃんと相手に伝わります。

また、ていねいに作られたものに対して、人は、「かわいい・かっこいい・ステキ・いいものだ」という感覚を持ちます。 (わざと「ていねいに」雑さを演出しているものも含みますよ。)

そして、そうした「ていねいに作られたもの」が、いくつも目に留まり、手に触れたとき、そのひとは、そのブランドに「何となく好き、何となくいいやつ」という感情を抱くようになります。 ブランド=意味の蓄積の始まりです。

「信頼され、愛されたいなら、お客さまが、目にする、手に触れる、ともに過ごすものは、ていねいに作る」。

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などなどと、まさに「お説教」だったわけですが、これをきっかけにして、「変化を追い続けるよりも、変化しないものに、ちゃんと時間と頭を遣ってみる」人が、少しでもいてくれたら、いい世の中(マーケティング界)になるんじゃないかなと思います。

 

講演の締めくくりとしては、「いかがなものか?」と思いましたが、音部さんが「おもしろい!」と言ってくれたので、最後に私の亡父の言葉を紹介させていただきました。

私が小学生のころ、自分の会社を倒産させてしま(いそうにな)った父が、久しぶりに帰宅して、私に言った言葉です。 こんなことを小学生に言うのは、いかがなものかと思いますが。

 

「策士は策に溺れ、敗者は多策に沈む」

 

ですって・・・。

 

音部さん、アドテックのみなさん、分不相応な立派な機会をいただきありがとうございました。

 

お。

 

 

・こちらが音部さんの会社のHPです(冒頭と同じリンク)。

CoupMarketing Company(クー・マーケティング・カンパニー ~ ブランド戦略立案と組織構築を支援)

 

・また、このブログでもっと説教を読みたい、えとじや風の(ひねくれた?)マーケ解釈を楽しみたいなどと思われた方は、下記のカテゴリにそれぞれに関連した記事が出てきますので、つまみ食いしてみてください:

Ø  ブランド戦略・エクイティなど: 「ブランド作りの土台を固める(エクイティ)」

Ø  ベネフィットやコミュニケーション戦略: 「ブランドを育てるモノを作る(コンセプト)」

Ø  デザイン・広告などコミュニケーション施策: 「そして、ブランドを育てる・育て続ける (コミュニケーション施策)