「センスって良くなるんですか? どうすればいいんですか?」
それは自分で考えて、と言いたいところですが、この質問、あまりに多いので、少し書いておこうかな、と思いまして。 実際に、多くの方にとって、切実な悩みでもあるようですし。
そして、ひとつ前の和。の記事にも、自主練のことが出てきたので、関連といういことで。
たぶん、長くなるので、2回くらいに分けて書きます。
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さて、セミナーやコンサル先の会議のあとや雑談のときに頻出する質問たち:
「デザインを判断するには、センスがないとダメですよね?」
(もちろんです)
「では、やはりデザインの学校とか行ってないとダメですか?」
(あたし、行ってませんが・・)
「広告の良し悪しを(制作前に)見分けるにはどうすればいいんですか?」
(制作後でもわからないときもあるくらいだしね)
「女性向けのサービスの施策を男性が判断するのはどうなんでしょう?」
(けんか売っとるんか!)
「製品コンセプトは調査で判断すべきなんですよね?」
(その前に、やることあるし、調査が答えを出してくれるわけではないですよ)
「ブランド戦略って、どうやって検証するんですか?」
(最後は、あなたのプロとしての目とセンスです)
「え、そんな(いい加減な)ことでいいんですか?」
(そんな(いい加減な)こと? あなたも私もそれでお給料いただいてるんですけどね)
「はぁ・・・、では、どうすればセンスが良くなるんですか?」
センスの良し悪し、実は、デザインや広告の見た目のことだけではないんですよね。
あらゆる決断=Decisionについてくるものです。
勘、とか、直感、って呼ぶと、すごくいい加減なことのように聞こえるので、センスと呼んでみているだけで、ほぼ同じ意味です。
決断のよりどころとなるデータがある場合もあれば、無いこともある。
たとえあったとしても、それは結果を保証するものではないので、最後は、センスということになる。
じゃぁ、賭けなのか、当たることを祈るしかないのか。 そうなんですが、それにしては、当たりの多いひと=センスがいいひとというのが、やはり、いるわけです。
あこがれます? ですよね。
彼らはどうしてそうなったんでしょう?
私でも、どうにかなるものでしょうか?
(ただし、マーケティング以外の「決断」に関しては、私は詳しくありませんので、以下そのつもりで読んでいただければ、と思いますが。)
こうしたらいいかも、という話に入る前に、「センス」というものについて、ちょっと考えてみましょう。 (100%私見、勝手な考え方ですが。)
センス=Senseです。 つまり、感覚。 つまり五感(あるいは六感?)。
なので、感情や理屈とは別物です。 しかし、あなたが感情や理屈を持つにいたる刺激は、(ほぼ)すべて感覚を通じたインプットによるものであると同時に、その「感覚」をどう処理すべきかについての、あなたの生物としての経験の積み重ねとの「照合」の結果でもあるわけです。
「経験と勘・直感」という言い方をするのは、このことですね。
つまり、センスがいい・悪い、というのは、感情や理屈を形成する前の、(なんか、いいかも)とか(おや、変だぞ?)という感覚が、うまく働くことが多い=センスがいい、であり、うまく働くことが少ない=センスが悪い、という意味なわけですね。
(ちょっとずれますが、大事なことを。 マーケティングの対象者であるお客様・消費者も人間ですので、感情や理屈の前に、感覚が働きます。 だからこそ、センスって大事なんです。 ま、余談ですし、すでに何度も書いてますね。 失礼。)
さて、そうなってくると、「勘・直感」と同じく、結局は当たりはずれなのか、当該のセンスが備わってなければ、どうしようもないのか、という疑念が湧いてきます?
いえいえ、センスって、ある・ない、良い・悪いと言いますが、同時に、「センスを磨く」って言いますよね?
つまり、磨ける=鍛えることができる、ということです。
(ほとんどのひとにとって。 ごくごくまれに、できないひと、いますけど。)
では、どうすれば「センスを磨く」ことができるのか? (やっと本題?)
一番いい方法は、ともかくたくさん、実戦で打席に立つこと。 その次は、千本ノックです(きっぱり!)。 残念ですが、近道はありません。 特に、センスがない・悪いとお困りの方ほど、訓練と実践です。 ひたすら。 それを老人力と呼んだひともいたような。
ケーススタディ方式と呼んでしまってもいいんですが、よく言われることに「いいものをたくさん見るといい」というのがありますね。 芸術のセンスについて語られるとき、必ず出てくるやつです。
マーケティングでも、そうできたらいいんでしょうが、美術館・美術書などのように、歴史的評価が固まったものをまとめたものがたくさんあるわけではないし、あったとしてもヒット商品・人気CMとか、それらをまとめている視点・文脈・時代がバラバラなので、慣れてないとかえって変な見方・知識がついてしまう。
世の中にたくさんあるマーケティングのケーススタディ集にのめり込むのはいい方法なんですが、そこには「盲点」があって、ああいうのは、どうしても背景や分析、成功要因に関する議論が中心になるので、「知識」は増えるけど、「センス」を伸ばすことに役立てるのが難しい(なので中級以上向け)。
かといって、カンヌなどの賞を取ったモノ、悪くないんですが、その文化・社会背景や言葉の壁が分厚いし、流行りみたいなこともある。 慣れてくると問題なくなるんですけど(なので、こちらも中級以上向け、です)。
そこでお勧めの、練習方法。
まず、最初にできないといけないこと=
「自分が、好き・気になる、か、嫌い・どうでもいい」かをちゃんと決める、です。
どんなものでもかまいません。 あなたが今日目にしたブランド、商品やサービス、または、そのデザインや広告、お店や接客、その他マーケティングコミュニケーション、なんでもいいので、取り上げます。 そして、「考える前に」、好きか・嫌いか、気になるか・どうでもいいか、を決めてください。
自分はターゲットじゃないからとか、自分のビジネスでは自分がターゲットではないんだけど、とかは、この時点では無視してください。 あくまであなた自身の感覚で。 (じゃ、男性マーケターが女性対象のマーケティングをするときは? というのは、ここでは議論しません。 次の記事をお待ちいただくか、こちらの過去記事をご覧ください。)
「考える前に」というのが大事で、かつ、ちょっと難しいです。
繰り返しになりますが、センス=感覚は、感情が生まれてそれに理屈をつける「前」に働くものだからです。 それを磨こうというのであれば、まずは、「なるべく早く、考える前に決めることができる」ようにならないといけない。
実務においては、形になって世の中に出ていくよりずっと前の段階で、センスを働かせなくてはなりません。 実現する前のブランド戦略について、作る前のモノのできあがりについて、形になる前のデザインについて、センスを働かせるのは、非常に難しいことなんです。 なので、そのために、まずは、出来上がったもの・世の中に完成品として出ているモノで練習するわけですね。
また、マーケターの方は誰しも、自分の仕事に役立つかどうかの視点で物事を見てしまう=「まず考える」癖があります。 それも大事で、それについては、次の記事で考えますが、「センスを磨く自主練1」では、そこまで行ってしまわず、あなた自身の好き嫌いを決める、印象・感覚に耳を傾ける、に集中してください。
電車に乗って、扉の横の広告を見る。 そしたら、その場で、「あ、これ好き・かわいい・かっこいい」とか「ナニコレ、わけわからん」とか「う~む、気分悪いなぁ」とかを、ちゃんと「決める」。
(ただし、ときどき、理解しにくい・できないモノに出会うことがあります。 その時は、少しだけ理解のために考えてもらってもいいですよ。
特に、自分自身がターゲットでない場合は、どういうことだろう・何が言いたいんだろう・何を理解すればいいんだろう?ということはありますので。 そのうえで、「あ、そういうことか、好き」とか、「言いたいことはわからないではないが、それでも嫌い」、あるいは、「そこまで考えないとわからないって、そんなの難しすぎる、無理」と。
もしかすると、自分の常識からかけ離れ過ぎてて、理解不能、という場合もありますが、その場合は、この際無視するか、気になったら写真でも撮って、わかるひとに解説してもらいましょう。 やがて、50過ぎのおっさんでも、10代女性向けの脱毛の広告の好き嫌いを決められるようになる、なんてステキなんでしょ・・・。)
こうして、「自分の好き嫌いをちゃんと決める」ことに慣れていってください。
その、自分自身の判断が「世の中やターゲットの評価と同じかどうか」については、気にしないで。 実は、それはあとでついてきますので、ご心配なく。 その練習は次です。
それよりも大切なことは、あなた自身が、自分で好き嫌いを決められるか、それを意識できるか、です。
これは、調査や分析などでは得られないもの、まさに「センスの練習」の核の部分ですから。
ぼんやり新聞を見ながら、ネットをうろついているときに、時間つぶしにショッピングモールをぶらぶらしながら、録りためたドラマの合間のCMを飛ばさずに見て・・・。
これなら今すぐ・いつでも・毎日できますよね。
そうして「好き嫌いを決める」ことに慣れてきたら、いよいよ「自主練のススメ 2.センスを磨くためのお。れ流フレームワーク」に入っていきます(つづく・・・)。
お。