「息子が将来マーケティングの仕事をしたいって言ってるんだけど、何学部に行くべきだろう?」と、先日、知り合いに相談されました。

理系の私にとって、文系学部は未知の世界。

“大学で得た知識が、マーケティングの実務に直結することってあるのかなぁ?” という疑問を持ちつつも、周りの人に聞いてみました。 返事は、「ノー」で、「専攻はあまり関係ない」とのこと。

学校で基本的な知識を教わることができても、それだけでは十分ではないようです。

 

考えてみれば、マーケティングをするのに、弁護士のような資格や専門知識がいるわけではない。

それどころか、テーマが身近だから、やろうと思えば誰でもできそうな気さえします。

“何をすれば売上が伸びるか”、“客数を増やすにどうすればよいか”、“新商品の値段や宣伝はどうしようか” といったマーケティングの質問に、絶対的な「正解」(や「間違い」)はないし、消費者としての自分の経験から、誰でもアイデアは出せる(出せてしまう)。

「パッケージをかわいくすると売れるかも」

「やっぱり今はSNSですね」

「体にいい成分が入ってたら、私なら買います」などなど。

でも、あれこれ話し合ってアイデアはたくさん出たのに、結局、どれが効果的な解決策なのか自信が持てず決められないことはありませんか? (大きな会社だと、お金をかけてデータを買ったり消費者調査をしたりもできますが、それでも残念ながら、調査が「正解」を教えてくれるわけではありません。)

 

 

じゃあ、マーケティングをするうえで、単なる思い付きや個人の経験ベースではなく、成功確率の高い一手を打つために必要なスキルっていったい何なんだろう…

 

「ビジネスドライバーを理解する力」、これがマーケティングに重要なスキルのひとつなのではないかと思います。 もちろん他にもいろいろあるでしょうが。

 

ここで「ビジネスドライバー」とは、“ビジネスやブランドを伸ばすために大事な要素”という意味で使っています。 私が前職で扱っていたような(購入頻度の高い)日用品を例にとると、それらの多くは、お店で目立つように棚の幅を広く確保することや、広告を流し続けて常に記憶に残すことなどが重要なドライバーでした。

ブランドのリピート率は(結果的に)高いのですが、マーケティングとしては毎回がトライアルだと思って臨む(「トライアル→リピート」ではなく、「トライアル→リトライアル」と考える)ビジネスで、常にちょっとした目新しさを提供し続けて、消費者を飽きさせないことが大事だとされていました。

たかだか数百円のものにそこまでしなくても…というほど、体力のいるビジネスです(だからこそ、大手メーカーでないと息が続かないのかもしれません)。

 

19そういったトライアル重視のビジネスモデルがあるかと思えば、一方で、トライアルにお金と労力を使っている暇があれば、まずはお得意様作りに全力投球した方がよいビジネスもあります。 (商売という分野まで広げて考えると、こちらのほうがずっと一般的でしょうね。)

また、同じ客数を増やすにしても、初めてのお客さんにアプローチすべきか、離反者や忘れてしまっている人に戻ってきてもらうほうがよいのか、など、市場やブランドの状況によっても違います。

さらに、既存のマーケットでお客さんを取り合っている場合ではなく、市場自体を活性化しないと先がないようなビジネスもあります。

難しいのは、これといった一律の法則がないところ。 それぞれの市場や消費者、ブランドの特徴によって、ビジネスドライバーが違ってくるので、それを見極めないといけません。 ただ、それがわかると、どこに時間やお金を使えばよいか見えてきます。

 

そんなの当たり前だ、初歩的だ、と思われるかもしれませんが、自信をもって“うちはビジネスドライバーを理解してマーケティングに使っているよと”という方は、意外と少ないのではないでしょうか。

やらなきゃいけないことが多すぎて、落ち着いてドライバーなんか考えてみるヒマがなかったり、やり方がわからなかったり。 ビジネスの進捗が思わしくないときなどは、全部が重要に見えてきて、複数あるドライバーに優先順位をつける自信がなかったり… 

そうなると、ついつい巷で成功例とされている法則をそのまま当てはめてみようという、ということになりがちです。

たとえば、「伸び悩んでいるなら、新規客獲得に力を入れなきゃ! じゃ、もっと若い人に買ってもらわないとダメだ。 最近○○が流行っているらしいから、それと組み合わせてネットで宣伝しよう」。 よく見る「売上拡大=新規客=若い人=流行り&ネット(=失敗)」の法則(?)です。

そのブランドの現在の成長段階において、意味のある伸長は、新規獲得じゃないかもしれないし、ブランドにとって必要なのは必ずしも若いユーザーじゃないかもしれないのに。

(ブランドを溺愛してくれるおじさん・おばさんが増える方が幸せなブランドは、たくさんあります。)

 

 

ビジネスドライバーをある程度の自信をもって見極めるということは、意外と難しいスキルなのかもしれません。

というのも、単一ビジネスや単一ブランドだけを見ていても、限界があるからです。

他の業種やブランドと客観的に見比べてはじめて、自分のビジネスの特徴が浮き彫りになってくるのではないでしょうか。

 

内輪の話ですが、えとじや内では、シャンプーや洗剤のビジネスモデルをベンチマークにして、他業種のビジネスドライバーについて検討することが多いです。

私たちの共通の基準であり、共通言語のようなものです。

こういった日用品は、ドライバーの因果関係がわかりやすく、購入頻度が高いので結果が早く出るため、ベンチマークには最適な業種です。

そこで数多くの成功・失敗経験を積めたのは幸いでした。 しかも、いろいろな国の、状況の異なるビジネスの成功や失敗の情報が絶え間なく(いらないと言っても)入ってくる環境だったので、実際に自分が担当していなくてもバーチャルで経験を積むことができたのもラッキーでした。

実体験としての経験量だけでなく、山ほどケーススタディに触れることができたということでしょうか。

 

じゃあ複数業種・ブランドの経験を積める環境にないとダメなのか、ビジネスドライバーを把握するスキルは身につかないのかというと、そういうわけでもでもないかも知れません。

経験値にかかわらず、ビジネスドライバーをつかむのが上手な人はいて、その人たちを見ていると、「普段の消費者としての自分の経験をどのように相対化してインプットするか」がポイントのように思います。 

お店で欲しいモノを見つけたり、感動する接客を受けたり、面白い広告を見たりしたときに、その経験をただの個人の感想として記憶するのではなく、なぜ自分はそう感じたのか、他の人はどう思うか、なぜその会社はそうしているのか、自社のビジネスに当てはめるとどういう意味があるのか、などをいったん分析して、パターン化してインプットする。

そうやって情報のインプットの仕方を工夫すると、バーチャル経験が増して、ビジネスドライバーを見る目が養われるのではないかと思います。

 

「マーケターたるもの、オフの時間は何をしているのか?」http://blog.etojiya.com/archives/8466979.html」にもありますが、実際の仕事での経験数は限られているので、マーケターは日々こうした自主練で経験値を補っているんですね。

 

誰でもできそうなマーケティングだからこそ、こういった習慣でスキルに差が出るんじゃないかと感じます。

「マーケティングに必要なスキル」を考えるきっかけになった、友達の息子さんにも、是非自主練を積んで、ビジネスドライバーのわかるマーケターになってほしいと思います。

 

 

余談ですが、それでも、やっぱり経験値の蓄積やスキルアップには時間がかかるし難しいという場合は、外のリソースに頼るという手もあります。

お金を払ってコンサルを活用する意義は、ここにあるんじゃないかと思います。 自分たちの宣伝をするつもりではありませんが… 笑。

(いえいえ、余談ではありませんよ、大事なことです、ご相談、お待ちしております by 店主。)

より多くの成功・失敗例を知っていて、それがパターン化されていて、他との対比でドライバーが把握できるので、より成功確率の高い策ができる。 たぶん早く判断できるし、失敗確率の高い策を避けることもできる。

自社でそれをやる、もしくは、できる人を育成する時間や労力を省いてくれる、というのがコンサルのメリットなのかもしれません。

 

和。