kokoroマーケティングコミュニケーションの鉄則は、「考えさせるより前に、まず心を動かす」。

 

私としては、もう20年も、これが鉄則だと思って仕事しているんですが、どうやら世の中そうでもないような気がして。

私は、ビジネス書やマーケティングの教科書などを一切読まないので、そういったところにどのように書かれているのか、ちゃんとわかってないけれど、日々、いろいろな仕事をしていく中で、どうもこれを鉄則だと認識している方(マーケティング担当者)にあまり会わないので、もしかしたら、そうでもないのかもなぁ、と。

 

マーケティングの仕事って、理屈をこねくり回すことが多いし、数字もよく出てくるし、戦略とか分析とかも、大抵は(ちょっと難しげな)言葉で書かれていることが多い。 インサイトなど、ひとの感情や感覚に直接関わることであっても、文章で表現されることが常なので、ついつい「理屈」に偏る。

確かにデザインや広告などの仕事になると、理屈ではないはずなんですが、それらを議論するときには、(わかったような・へ)理屈が幅を利かせる(か、逆に「感性」とかいう、よくわからないものに議論を阻まれたり・・・)。

仕方ないといえば、そうなんでしょう。 マーケティングで最もボリュームが多い仕事は、論理的に考え、整理し、組み立てなおすことでリスクを最小限にしていくことなので、どうしても、(時間・スペース的に)理屈が多くなる。

(しかも、難しそうな言葉、専門用語で語ると、たいしたことない内容のプランでも賢そうに聞こえるしね~。)

 

でも、相手は人間なわけです。

なので、感覚(いわゆる五感)で感じ、感情で動く。

一見、理屈・論理で動いているように見えたとしても。 調査などで、聞けば(言い訳も含め)論理的に答えるとしても。

てことは、マーケティングコミュニケーションによって、ターゲットの意識や行動を変化させようと(前のふたつの記事でいうところの「⇒」ですね)するのなら、感覚と感情に作用するものでない限り、うまく働かない、つまり、「心を動かさないと」ひとは変わらないということです。

 

右脳とか左脳とかいうと、学術的にどうのこうの言われそうなので、あくまで、頭と心で解説してみます。 (英語では、理屈=Mind、感情=Heart、感覚=Sensesなんですが、日本語のニュアンスとしては、理屈が「頭」で、感情と感覚が「心」だと思うので。)

 

あなたがまだサルだったころを思い出してください。

毎朝行っている水飲み場、木から見下ろしたとき、いつものように小鳥のさえずりが聞こえ、木漏れ日が水面を輝かせています。

とても穏やかで気持ちいい。 それは、まずあなたの感覚によって感じ取られ、「あ~、穏やかな朝だなぁ、今日もいい天気だなぁ」という感情を生み出します。

すると、あなたの心は、頭に「大丈夫、休んでていいよ」と命じます。

ところが、別の朝、いつもの水飲み場、なんだか雰囲気が違います。 どこがどう違うのか、考える前に、あなたの感覚は「あれ?」と感じ、「何か変な気がする」という感情を生み出します。

すると、あなたの心が、頭に命じます。

「おかしい、分析せよ。」

頭がフル回転し始めます。

どこか変なところはないか。 あの物陰に猛獣が潜んでいないか。 水は濁っていないか。 そういえば、いつもの鳥のさえずりが聞こえない。 鳥がいない・鳴かないということは、危険のサインかも知れない、気をつけよう。

つまり、頭は「分析・比較・批判・合理的判断」が仕事なんですね。 重箱の隅をつつくのが、頭の仕事。 文句をつけるのが頭の仕事。 やめといたほうがいい、というのが、頭の仕事なわけです。

 

今やあなたは人間ですが、頭と心の役割はサルのころと大きく変わりません。

やはり、第一印象(あるいは印象を形成する以前の状態)で、行動の大筋を決めているわけです。

なので、モノやサービスを買ってもらおうとするならば、まず、最初に心に「そうしたい」と感じさせることで、頭にあまりがんばって働いてもらわないようにする、少なくとも、心が「好きなんだから、いいところを探してね」と頭に命じるようにすべきなわけです。

 

(もちろん、頭を全く働かせずに「購買」させればいいかというと、実はそんなことはなく、それはそれで大事なんですが(じゃないと、返品とかクレームとかネガティヴな口コミとかにつながります)、優先順位は、圧倒的に心ですよ、という話です。)

 

さらに、マーケティングコミュニケーションのもうひとつの大きなハードルも心に関係します。 それは、「そもそも見てもらえるか」です。

どんなに伝えたいこと、伝えるべきこと、伝えればよろこんでもらえるに違いないことがあっても、見ても・聞いてももらえなければ、それは「単なる無駄」ですから。

(お金持ちの方は、見ないわけにいかない量のメディアを買えばいいわけですが、それでも「嫌い、見たくない」と言われれば終了~~~ですし。)

 

でも、あなたの心、特に感覚は、とても優秀です。

道行く人ごみの中から、瞬時にかわいい・かっこいいひとを見つけ出すことができます。

クローバーだらけの土手で、四つ葉のクローバーを、あたかも浮かび上がってくるかのように発見することができます。

交じり合ったニオイの中から、好きな食べ物の香りをかぎ分け、「なんとなくおなかがすいた」とか「久しぶりにあれを食べたい」とか感じることができます。

ノイズキャンセラーが無くても、雑音の中でも、好きな音楽の、好きな楽器の音や、好きなアーティストの声だけを聴くことができます。

 

マーケティングコミュニケーションでも同じ。 広告・情報だらけの画面やスクリーンや店頭の中から、あなたのターゲットが見つけてくれる、気になってついつい見てしまうものは、彼・彼女の「心に響いているから」です。

 

この「鉄則」、実は、販売業や営業・接客などに従事されている方のほうがよく知ってらっしゃいます。

やはり、生身の人間に接するからでしょうか。

でも、マーケティングも、メディアを介しているだけで、その先にいるのは、生身の人間ですから、同じだと思います。

 

調査し、分析し、目的や戦略を決め、リスクや損益を熟慮し、一生懸命、餅の絵を描いたら、その先は、「まずは心を動かせているか?」を考えるようにするといいと思います。

クリエーターと呼ばれる方々と話してください。 彼らは、それがとっても得意ですから。

 

お。

 

 

PS: 今までも似たようなことはたくさん書いてきました。 いくつか、思いつく限り関連記事をリストアップしておきますね。 さらなる暇つぶしに、どうぞ。

・「女性にお金を払ってもらうということ」シリーズ: 今回のMindHeartSensesについて、わりとじっくり書いたものです。

・「マーケターの「好き」って?」: マーケターが、施策の良し悪しを判断するためのヒント、みたいなこと。

・「広告に必要なウソ。」: 理屈と感情を広告などでうまく表現として「なじませる」お話し、あるいは、コミュニケーションにおけるインサイトの話。

・「ニオイが好きだから、についての考察」: 古い記事ですが、「好き」を消費者はどう表現するか、のひとつのパターンについて。

・「Creativity=サプライズギフトを贈る力」: 感情を動かす戦略や施策を「思いつく」ヒントとして。 シリーズ記事のひとつです。