「世の中の出来事が、ひとの心を打ち、そのひとの考え方や行動を変えてしまうとき、そこには、単なる事実ではない、「真実」が存在する。

それを、マーケティングでは、インサイトと呼びます。

 

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引き続きインサイト関連のお話です。

今回は、他とは少し毛色が違いますが、「インサイトの使い道の可能性」について。 「インサイト」は、マーケターの専売特許のように思われていますが、実は他の分野でも活用できるのでは… という、着想(妄想?)です。 

 

 

本題に入る前に、前回の記事でお話ししたことを簡単に振り返ってみます。 (詳しくは、「今さら聞けない、インサイトって? そのベールを少しだけめくってみる」参照 http://blog.etojiya.com/archives/8641557.html

ポイントは4つ。 

 

1)        まず、そもそもインサイトとは。 「本質」と訳されることが多いようですが、本質であり、かつ、消費者の行動を変えるものである、という点。 例えば、ブランドを好きになってもらったり、商品を買ってもらったりすることです。 

2)        次に、行動を変えるためには、気づきを与え、その人の考え方を変えることが必要、という点。  “へー、そうなんだ!”と思わせる、というようなことですね。

3)        そのためには、その人が感じているジレンマ(=思い通りにいかなくて、モヤッとした部分)に働きかけることが大事、という点。

4)        最後に、ジレンマを把握するためには、その人の考え方や信じているもの、理想・願望などを当たり前だと思わずに新鮮な目で見て、深く理解しなければいけない、という点。

 

人が当たり前だと思いっていることにどうやって違う切り口を見せてあげるか、言い換えてあげるか、がインサイトの神髄(マーケターの腕の見せどころ)というお話でした。


P1011200 (1817x2048)消費者の思考を転換してモノを買ってもらうようにすることが、いわゆるマーケティングインサイトです。

ここで、ふと考えるのが、「思考を転換させることによって人が動くのであれば、“インサイト”はマーケティング以外の分野にも応用できるのではいだろうか」ということ。 特に、会社の内部(組織運営で困っていることを解決するため)にも使えるのではないか。 

さらに思い切って言うと、社内リソースを活用するために(例えば、部下のパフォーマンスを上げたり、プロジェクトメンバーのチームワークを良くしたり、店頭スタッフの接客を改善したりするために)、もっと積極的に“インサイト”を活用するべきなんじゃないか・・・ 

 

会社にはその会社独自の“当たり前”や“思い込み”がたくさんあり、それが邪魔をしていることが往々にしてあります。 ひとつの組織やグループに長く属していると、気が付かないうちにそこの文化にどっぷり浸かってしまいますから。

もちろんそれ自体が悪いと言う訳ではありません。 そういった暗黙の了解があるからこそ社内のものごとがスムーズに進むという利点もあります。 でも、「目標を掲げても、システムを作っても、思うように人が動かないな~」と、ジレンマを感じているのであれば、社内に浸透した思い込みがバリアになっているのかもしれません。 そんな時こそ、インサイトが役に立つのではないかと思います。 

 

「やる気(モチベーション)を上げて社員の行動を変える」というのは最近よく聞きますが、「インサイトを使って社員の行動を変える」という考え方は、ありそうでなかった新しいアプローチではないでしょうか(人事・育成のプロの方々は、「インサイト」とは呼ばないだけで、日々当たり前のように行っていることなのかもしれませんが)。 

チームが煮詰まっている時に、誰かが言った何気ない一言で場の雰囲気が変わった・すべきことが腹に落ちて積極的に行動できるようになった、というのは、おそらく誰もが経験していることだと思います。 その一言をただ待つのではなく、意図的に伝えられるようになれば、と思うのです。


 

コンペこんなことをぼんやりと考え始めたのは前職にいたころからです。 消費者に向き合ってマーケティングの仕事をする一方で、社内チームの育成・活性化の仕事も面白いなと思っていました。 仕事の種類としては全然違うものなのですが、その二つに通じるものを感じていました。 その共通点が何なのかわからず、ずっとモヤモヤしていたのですが、最近になってやっと、「インサイトで人を動かすことなのではないか?」と思い始めました。 

 

 

そのきっかけのひとつとなった、「これってインサイトがうまく働いたのかも?」という例をひとつ。

 

複数の事業部を抱え、業界トップクラスの技術を持つ日本のBtoBメーカーさんでの出来事です。 事業部の部長クラスの方々が集まって、会社の今後のあるべき姿(どのような組織を目指すべきか、どのように人材育成をしていきたいかなど)について話し合うワークショップでのことでした。 

しばらく話をうかがっていると、議論に興味深い傾向を発見。 自分の事業部の話やそこで必要とされる専門技術の話に関してはみなさんとても雄弁なのに、全社的な話や求める人材像の話になると急に議論が行き詰まるのです。

 

「どうしてみんな専門技術の話ばかりするのだろう?(もちろん技術は大事だけど)。 どうして、“事業部ごとにやっていることが違うので、共通の人材像は想像できない”と言うのだろう?(コミュニケーションや行動力などは、事業部の垣根を越えて必要なスキルなはずなのに・・・)」と、不思議に思いました。

 

お話しを聞いていくうちに、“職位ごとに身につけるべきスキル表”なるものが存在するとのこと。 興味津々で見せていただくと、なんと! それは職位ごとに受けるべき技術系の資格試験のリストでした。

「(スキルっておっしゃいましたが??) これって、資格試験・・・ですよね?」

「そうだよ。 スキルって資格のことじゃないの?」

「・・・じゃあ、普段、部下の教育はどうされていますか?」

「資格試験を受けるよう指導しているけど」

「(なるほど~、そういうことか!)・・・」

そこには「スキル=資格」という“当たり前”が存在しました。 

確かにそれでは事業部間で共有できる人材像は描けない。

 

「では、例えばコミュニケーションが上手、下手というのは・・・?」

「それって人柄だよね。」

「・・・」

コミュニケーションがスキル(=学んで身に着けるもの)であるという認識ではなかったようです。

 

 

そこで、そのワークショップでは、今までスキルと言ってきた専門知識や技術を“ハードスキル”と呼び、「考える力」や「行動する力」などを新しい概念として“ソフトスキル”と呼ぼう、ということに決めました。 

 

そうすると、あれだけ行き詰っていた議論がせきを切ったように活発になっていったのです。 新しい定義「スキル=ハード&ソフト」によって、思い込みの枠がはずれたのです。 同時に、今まで個人の人柄や性格だと思っていたこと(「あいつは、ああいうタチだからね~」と、放っておかれたこと。 例えばコミュニケーションの仕方など)が、実はトレーニング可能だという意識が芽生えました。 それをきっかけに、人材像のイメージができ、それを育成・評価していこうという想いが浸透しました。 なによりも、事業部の壁を越えて全社的に考える視点ができたのが大きな収穫でした。

 

半年間のワークショップを通して、参加者の変化を肌で感じて、一見取るに足らないように見える小さなことでもツボをついていれば、こんなにも人の思考が広がるんだなぁ、と驚きました。 また、「ソフトスキル」といったように概念に名前を付けることは、思考転換するうえでやっぱり大事だなと実感しました。 インサイトの力を垣間見た気がしました。

 

組織運営のために、システムやテンプレートを導入したけれど、結局うまく使えずに形骸化している組織は多いのではないかと思います(この会社も、スキル表はあったわけですし)。 枠も時には大事ですが、枠を整えれば自然に動き出すわけではなく、同時に中にいる人たちの意識の転換が必要だということですね。

 


 

組織運営にインサイトを活用する方法は、まだまだ検討・試行錯誤中です。 でも、人の考え方に新たな切り口を与えることで、パフォーマンスや、チームワーク、サービスの質を上げることができるなら、きっと面白いだろうなと思います。 そういった事例も随時ブログで紹介していきたいと思っています。


和。