世の中の出来事が、ひとの心を打ち、そのひとの考え方や行動を変えてしまうとき、そこには、単なる事実ではない、「真実」が存在する。
それを、マーケティングでは、インサイトと呼びます。
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ちょっとだらっとしたシリーズ記事で、すいません、今回もインサイトについて。
シリーズで読んでいただいている方にも、結局インサイトって何なのか、どうすれば見つかるのか、よくわからない、と思わせてしまっているかも知れませんが、ちょっと仕方ないところもあって。 なにせ、「インサイトとはこれのことです」も「こうすると見つかります」も「これが正しい使い方です」も無いもんで。 が、そうだとしても、(残念ながら?)マーケティングをやっていくうえで、おそらく最重要の概念であり、スキルであり、思考法であり、創造性であることは間違いない。
そして、おそらく一番おもしろい。
今回は、インサイトがどこらあたりに潜んでいるのか、ちょっと考えてみます。
よく、「ホンネとタテマエ」という言い方をします。
インサイトとは、そのどちらでもありません。
なぜならば、ホンネもタテマエも、自分自身で気づいていて、言語化できている、既知の事実・当たり前のことだからです。 ホンネを言い当てられると、確かにちょっとドキッとしたりしますが、それは言い当てられたことに対する反応であって、インサイトそのものではない。 (「見破られているはずのないホンネを他人に言い当てられるとドキッとする」のは、インサイトかも知れませんが・・・・あかん、話がややこしくなる。 のちほど解説。)
あるいは、「深層心理」みたいなことを言うことがありますが、あいつもインサイトではありません。 なにせ、本人も全く気付いていないことなので、それを指摘されたりしても「へ~、そうなんだ。 で?」とか「そんなはずはない」で終わります。 自分ゴトにならないんですね。 どきっとしたりわくわくしたりしない。
(リサーチ手法を高めると世の中が変わるんじゃないかと幻想を抱いた、とあるお金持ちメーカーさんが、深層心理を探るための凝った調査をやって、なんだか催眠術みたいな怪しいことまで持ち出してみたら、「洗剤なんて人生においてはこれっぽっちも重要ではないことが確認できた」なんてのは、笑い話でしかありませんが。 余談。)
じゃ、幻の生物「インサイトちゃん」はどこに生息しているのか。
大まかなイメージで言うと、「ホンネ」よりずっと下、深層心理よりちょい上、意識という氷山で言うと喫水線のちょい上あたりにねぐらがあって、活動中は、「相対・相反する考え・思い・行動」の間によく出現します。 特に、願望とか妄想の近くの、ジレンマとかギャップが大好物なので、その辺で待ち伏せしてると出会える確率が上がります。
ごくごく簡単な例を。
「カラーリング(毛染め)は髪を傷める」のは、単なる「事実」。 ばりばりの意識上の、認識済みの常識です。 (ここでは、科学的事実としてどうなのかという話は無視。 あくまで人の意識・認識のことです。)
なので、これを女の子に伝えようとしても、誰も耳も貸しません。 どれだけどなっても聞いてくれません。 聞く価値の無いことだからです。 それでも無理やり(調査などで)読ませる・聞かせると、「あ“~、知ってるけど、それが? まぁ、確かにいやだけどぉ」って言われます。 (なので、定量調査でいいスコアが出たりしますが、実際に出すと売れなかったりします。)
しかし、「髪が傷むからと言って、カラーリングをやめるわけにはいかない」って言うと、少し反応が変わります。
まず、聞いてもらえます。 ちょろっと言うだけでキャッチしてくれます。 そして、「そうなのよねぇ」って言ってくれます。
キレイになりたい・かわいくなりたいので、髪が傷むことは知ってるけど髪の色を少し明るくしてみる、と印象が明るくなってうれしい、が、一旦染めると、やがて髪が伸びてきて染まってない髪が見え始める、これはダサい、ので、再び染める=再び少し髪を傷める、のサイクルが続く、と、髪の傷みが目立ち始める・・・・。 という、キレイになるための行為がキレイでいることを妨げることになってしまう~~~、というジレンマ、ですね。
理想と現実のギャップ。 「こうありたい」「あんなことをしたい」「こんな風になりたい」「ああいう風にだけはなりたくない」「こうなっちゃったらどうしようどうしよう、わくわく」「あれができたら死んでもいい」などの気持ちと、現実の行動やその裏にある考えや思いとの間にあるジレンマ・ギャップ・自己正当化・あきらめ・封印・秘密、などのあたりが、発見に最適の待ち伏せ場所なんです。
常にそこに出没するわけではありませんが、まずは当たってみるべき場所ですね。
(冒頭の「ホンネを言い当てられるとドキッとする」のは、「あてられるはずがない」とか「隠しておきたい」と、「ホンネがばれる行動をとってしまっているのではないか」という不安の間に出没した、ということでしょうか。 あくまで、ホンネそのものがインサイトなわけではありません。)
さて、インサイトの生息域も出没場所もわかりましたが、ただし、待ってるだけでは、だめなんです。 姿が見えにくいので、通り過ぎても気づかないし、時に地下を這い進んでたりするので、見つける技術が必要です。
インサイトは、本人のことばで言語化されていない、本人には意識されていない。 よって調査をする・質問するだけでは絶対に姿を見せたりしません。 見えているのは「既知の事実」または「いいわけ」だけです。
インサイトちゃんを捕獲して、本人に見せると、「いや~ん」とか「そうそうそう」とか「なんで知ってるの?」とか、「うまいこと言うね、それが言いたかったのよ」とか「素敵・すごい・かっこいい!」と言ってはくれますが、捕獲=言語化・顕在化・開発そのものはプロ=マーケターがやらないといけないんです。
そこで、どうしたらいいのか、の、ちょっとしたヒントというかコツを。 K。がひとつ前の記事で書いていたものに加えて、ヒント集的に。
実は、インサイトそのものどころか、出没場所である、希望や願望、理想や妄想ですら、質問して答えてくれない・答えられないことが多い。 そして、そういう「ことばにならない・したくない」思いの周辺ほど、インサイト開発に役に立つことが多いので、ねらい目です。
そういうのを知りたいとき、私たちは、
Ø まず大前提として、自分が担当している製品やサービス、そのカテゴリは、自分にとっては大切だけど、普通のひとにとってそれほど大事なことではないことが多い、ということを理解し、ひとの生活の中でどの辺の位置にあるのかを(冷静に)見極める(洗濯なんて、人生において全然重要じゃない、けど、やらずに済ませるわけにはいかない、どうせやるなら、何か楽しみや意義を見出してるはず、など)
そのうえで、
Ø 調査しなくても、当該カテゴリや周辺カテゴリが今までやってきたことや、一見関係なさそうに見えることも含めて、世の中で語られていることに目を向ける・耳を傾ける、手持ちのデータを見直す、「もしかしたら、こういうことなんじゃないか?」を考える
Ø どうせ調査するなら、なるべく個人の考えや思いなどが見える・観察しやすい手法や環境を選択する(一般的には、座談会より1対1、1対1より訪問調査、など)
Ø しゃべっていることを聞くだけでなく、そのひとがどのような表情や口調で話すかを観察する(過去記事「聞くより見る」)
Ø 着ているもの、持ち物、壁や冷蔵庫に貼っているもの、テーブルなどに飾ってあるもの、冷蔵庫やクローゼットなどの中身を観察する
Ø 生活や人生にどのような考えや気持ちを持っているかが、うかがい知れる質問をする、あるいは、そういう状況を設定する(訪問調査、日記をつけておいてもらう、家族に同席してもらう、などなど)
そして、それらすべてについて、
Ø なぜ、そう答えるんだろう
Ø なぜ、そうするんだろう
Ø なぜ、そんな顔をするんだろう
をじっくり考える。
ということでしょうか。
今までもさんざんK。が記事にしてきたし、私も書いてきましたが、調査そのものがインサイトを発見したり生み出したりすることはなく、それはマーケターが頭を使って開発するもので、調査はそのためのインプット・刺激に過ぎないんですね。
ときに、「そんなこと調査でパネリストはひとことも言ってませんでしたよね、深読みし過ぎじゃないですか??」って言われることがありますが、「適切な深読みをする」ことこそ、マーケターの技術・技量・腕の見せ所。
弊社は仕事で「インサイトを開発してほしい」と依頼されることが少なくないし、喜んでお手伝いさせていただいてますが、「インサイトを発見するための調査(だけ)をやってほしい」という依頼はお断りすることが多いのは、そういうことです。 インサイトちゃんのいそうな場所を探し、待ち伏せ、それを捕獲するのは、私たちプロのハンターの仕事であって、調査そのものではないから。
インサイトは調査で「見つかる」ものではなく、プロがじっくり考えて「開発・クリエイト」するもの。 とても楽しい、マーケター冥利に尽きる仕事です。
お。