難物世の中の出来事が、ひとの心を打ち、そのひとの考え方や行動を変えてしまうとき、そこには、単なる事実ではない、「真実」が存在する。

それを、マーケティングでは、インサイトと呼びます。

 


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さて、えとじやでは、えとじや5周年記念として、これからしばらく、みんなで「インサイト」について書いてみようと思っています。

マーケティングにおけるインサイト、それだけで何百冊もの本があるほどの難物です。

そいつに挑んでみよう、と。

 


マーケティングの、戦略から施策までのすべてを支える大切な考え方であるインサイトは、同時に、「こういう形のものと決まっている」わけでもなく、「これとこれを混ぜれば出来上がる」というものでもなく、「こうやって使うと役に立つ」という法則もない、とってもやっかいな概念でもあります。

おそらく、弊社メンバーも、それぞれに違った理解・解釈・開発法・使用法を持っていると思います。 が、それらは、全員の、決して短くないマーケティングキャリアの中で培われてきたモノなので、ここでは敢えて「えとじやの定義は?」とかに拘泥せず、それぞれに思うところを書いてみようと思います。

 


(もちろん、今までも、いくつか書いてきました。 それらについては、ブログ上部のナビゲーションから、「えとじやブログの歩き方」を選んで、下のほうにある「トピックごと」の「インサイト関連」をクリックしてください。)

 


では、まず、私から。

「なにそれ?」といわれそうな、わけのわからない記事を。

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「まずはインサイトを肌感覚で味わってみる」

 


あなたの好きなことわざ・慣用句・格言を思い浮かべてください。

 


(思い浮かべましたか?)

 


おそらく、そうしたことばの多くに、ひとは「うまいこと言うなぁ~」と感じるはずです。

さて、その「うまいこと言う」の中には、2つの要素が埋まっています。

ひとつは、まさに「うまく表現されていて、語呂がいい、憶えやすい、ひっかかりやすい、情景が思い浮かぶ、ストーリーを感じる」ということ、すなわち表現方法=「コピーライティング」です。

そして、もうひとつ、「そうそう、そうだよね」と思わされる、あるいは、身につまされる、身近に感じる、そんなバカなと思うけど、なんだかぐっとくる、素敵だなぁ、そうありたいなぁ、なるほど、そうだよな・・・と思ってしまう何かがあります。

実は、それが「あなたにとっての真実」=「インサイト」です。

 


「捕らぬ狸の皮算用」

まだ猟にも出ていないし捕まえてもいないのに、何匹も狸を捕まえてしまって、その皮を売ったら、はてさてどれくらいの金額になるのか、家にこもってにやにやしながら勘定している猟師の姿、思わず笑ってしまいます。

うまいこと言うもんです。 言葉の選び方もさることながら、ことばの「ビジュアルさ・ドラマ」が素晴らしいですね。

そして、まだ起きていないことに思いをはせて遊んでる暇があったら、さっさと仕事に手をつけないと意味が無いのに、という「身近な教訓」に、ちょっと考えさせられたりします。 そういうことってあるよね~、と。

タヌキを捕まえるリアルな経験なんてしたことないし、たぶんこれからもしないし、そもそも狸猟なんて見たことないのに、です。

しかも、おそらく「まだ出ていない結果を気にしているより、まず仕事にとりかかりなさい」と言われるより、心に響く。

なぜなら、そこに身近な教訓につながる、あなた自身の(そして多くのひとの)経験に裏打ちされた「真実」=インサイトがあるからです。

 


「糠に釘」(ぬかにくぎ)

短いことばの中に、なんともやるせない気持ちにさせてくれる要素が満載です。

ぶすっ、という(音がしないという意味の)音まで聞こえてきそうです。 その手ごたえのなさ、あっけなさ、役立たずぶり、そして釘を抜いたあと、やがてゆっくり穴が塞がっていく様子までが目に浮かびます。 音もビジュアルも手の感覚までも呼び覚ます3文字(5音)のコピーライティング。

しかし、何よりもその、あ~ぁ、という徒労感がたまりませんね。

おそらくあなたは糠に釘を刺したり打ったりしたことがあるわけではないでしょう。 その意味では事実に基づく感覚ではない。 しかし、単なるたとえ話では終わらない、似たような経験・体験に基づく感覚・感情と思考・行動が複合的に作用して、あなたの頭に「だよね~」と思わせ、心に「あ~~~」と感じさせる。

 


「言わぬが花」

ことばにすること(言語化)にこだわって仕事をしている私が、実はこのことばが好きだというのは、それこそがアイロニーですが、それはそれとして。

せっかくの思いや心遣いが、それを口にしてしまうことで台無しになったり、言わなくてもわかってることを言ってしまったがゆえに、余計なことと思われたり、差しさわりが出たり、ちょっと気まずかったり。 なんだかまさに「あるある」です。

そして、そうしないことを「花」と言ってのける粋・美しさ。 (なので、沈黙は金、より、ずっと好きです。)

 


と、いくらでも続きます。

共通しているのは、ことばの妙。 言葉遣い・言い回し・音の絶妙さもありながら、それ以上に、あなた自身の、「経験に基づく真実」として頭だけでなく心に響く、ということ。 だから、そこに表現されている具体的な状況そのものを経験していなくても、「わかるわかる」と感じる。

事実ではなく、「真実」。

インフォメーションではなく、「インサイト」。

 


(そして、とても多くのことわざ・故事成語には、よく似た言い回しが他の言語にも存在します。 英語の授業で習ったことありますよね、きっと。 それは、言語・文化を超えた、人間としてのインサイトについて語っているからですね。

あるいは、「転石苔むさず」みたいに、同じ言い回しなのに、意味が違うものもある。 それは、文化・言語によって違うインサイトがあるから、です。)

 


「すごくいやなことがあったので、奥田民生を大音量で鳴らしながらドライブした。 もちろん、いやなことを忘れはしないけど、なんだか少しだけ気持ちが軽くなった。」

コピーライティングとしては、(なにせ私が書いた文章ですので)最悪かも、ですが、奥田民生を聴かない、それが誰なのか知らない、あまり音楽を聴かない、クルマを運転しないひとでも、なんだかわかりますよね。

そして、たぶん、この文章の「奥田民生」を「音楽」に置き換えてしまうと、文章のパワーががくっと落ちる。 奥田民生を知らないひとにとっても。 ひとは一般的事実に対してあまり心を動かされないからです。

 


「冷たい水では、食器、特にプラスチックの油汚れは落ちにくい」

まぁ、そうですよね。 「真実」とまで大げさなことは言いませんが、経験的にふむふむと思えます。 お湯だったら簡単に落ちそうだけど、って。 これは、あなた自身の、食器の油汚れに関する経験に基づいた、あなた(と油汚れ)の真実、です。

一方、「台所洗剤の主成分である界面活性剤は、0度くらいの水なら、普通の水に比べても効力にたいした変化はないので、たとえ氷水でもちゃんと働く」という(洗剤の)事実には、誰も心動かされません。

(むしろ反感すら覚えます。 そんなはずはないし、「そもそも氷水で洗うわけない! バカにしてるのか?」って。)

こちらは、界面活性剤の働きに関する事実。 油汚れもあなたも関係ありません。

「そこで今日はこのお弁当箱に氷水と・・・・。」

(すごく理解できるけど、なんだか妙にむかつくぅ・・・。)

ま、この辺でやめておきましょう。

 


 


さてさて、この議論・記事が、みなさんの「インサイトって何だろう?」という疑問にきっちり答えられているとは、もちろん思ってないんですが、少なくとも「肌感覚」として、インサイトというものが持つ意味合いや味わいはつかんでもらえるんじゃないでしょうか?

インサイトは、ひとの経験ととても深く結びついている、それがないと、単なる事実や情報でしかない。 そんなことを感じ取っていただけたら、と。

余計にわからなくなった?? すんません・・・。

わかりやすい記事は、他のひとたちが書いてくれることになってますので、お待ちください。

 


私は、また、別の角度から書きますね。

 


お。