理屈や競合うんぬん飛び越して、お客さんとブランドが親友や恋人の関係を作る瞬間。それが「XXモーメント」。これを以前の店主のブログでは、
「あいつ(ブランド)、いいやつじゃん、だってあのとき一緒にいたもん。 だから、友達だよ、何ができるのか、よくわかんないけど。」
と、楽しいことや苦しいこと、悔しいことを共有することで理屈を通り越して、お客さんとブランドに「絆」を生み出す瞬間・状況、と定義しています。 そして敢えて、前社での「その商品・サービスの便益を強く欲したり意識したりする文脈でメッセージを受け取ると、メッセージ受容性が飛躍的に高まる」という定義を否定しています。
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だって、そのマーケティングの理論通りに考えると(極論とわかりつつ)、「溺れかけてるときに、溺れている人や周りにいる人に浮き輪を売ると高く売れる」ってことでしょ?
少なくとも私は、そのブランド(商品・サービス)、そのときにはやむにやまれず買ったとしても、次は買いません。 心に「いやなやつ」という印象が強く残るからです。
(ブログ引用)
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この二つの定義の違いって、些細なようで大きく違う。 その違いを説明するのにいいケーススタディがあります。 SK-IIの電車広告がなぜあんなにヒットしたのか。 そのあと、大手代理店様がそのヒットを餌にいろんなビューティー広告の電車広告を斡旋しまくったけど、なぜパッとしないのか。 そしてそのSK-IIのヒットはどうして長くは続かなかったのか。
(1)SK-IIの電車広告がなぜあんなにヒットしたのか。
この理由はどちらの定義でも説明できます。 便宜上、「溺れている人に浮き輪を売る」定義で説明してみましょう。 「SK-IIが当時ターゲットしようとしていた可処分所得の高いOLさんにとって、いっちばん「肌の衰えを感じてなんかしなきゃ、と思うとき」かつ「肌への投資、スキンケアを買うお財布のひもを緩めてもいいか、と思うとき」。 この二つのモーメントが奇跡的に同時発生するのが、「帰りの電車の窓に反射した、年末の残業や飲み会の疲れが溜まった自分の顔に驚愕したとき」。 まさに可処分所得の高いOLさんが「溺れかけているとき」! この瞬間に、「一年間がんばったあなたにご褒美を」といつもよりちょっとお得なセットを宣伝していたら・・・。 藁をもすがる思いでそのまま駅直結のデパートにダッシュして、SK-IIのセットを買う!!!
(2)他のビューティー広告の電車広告がパッとしないのはなぜか。
これ以降、「溺れかけモーメント」定義ではなかなか説明がつかなくなっていくところ。 同じようにOLさんが溺れかけるモーメントを、SOフィーナやチャNNELやクレドPOで掴めないのはなぜでしょう。
なぜならSK-IIの電車広告を見た可処分所得の高いOLさんは、こんなことも思っていたから。
「他の化粧品ブランドは、デパートでいつ行っても香水ムンムン、ハイヒールでコツコツ上から目線。 カウンターの中から出て来やしない。 こっちから出向いて行って、テスターの前でちょっと興味を見せないと話しかけて来やしない。 この忙しい年末の最中、来年にはまた一つ年を取るし、そんな中でSK-IIってちょっといいやつかも。」
まさに「あいつ、いいやつじゃん。だってあのとき一緒にいたもん。(他のやつらはそっぽ向いてたけど。)」という関係が出来上がっていたのではないでしょうか。
ではその後釜を狙って、SOフィーナやチャNNELやクレドPOが電車広告したら? もう「他のやつらはそっぽ向いてた」瞬間はやってきません。 SK-IIの印象も記憶に残っているし、駅構内や電車の至る場所でビューティ広告を見ますから。 「最近このひとたち、デパートだけでは飽き足らず駅にまで侵食してきたのねー。(まぁがめつい。)」 と冷めた目で通り過ぎられるだけ。
(3)SK-IIのヒットはどうして長続きしなかったのか。
二つ目の説明で半分以上説明してしまいましたが、5年以上もおなじ広告で浮き輪を売り続けていたらそりゃバレますよね。 しかも以前はセット商品と宣伝文句だけの慎ましやかな広告だったのが、ここ数年間はパンパン肌のとびっきりの笑顔の女優さんを使い始めて、彼女に「一年間がんばったあなたに・・・」とか媚びられてもね。 売れっ子女優業もさぞかし大変でしょうに。。 (今年の電車広告は、女優さんナシのバージョンに戻したようですね。 正解!) 「あいつ、いいやつじゃん。だってあのとき一緒にいた友だち」という関係ができたのなら、もうそれ以上、「また今年も浮き輪売っとりまーす!」と言わなくても良かったのでは。 たぶんお客さんのこころの中には、「今年も、年末はSK-IIで乗り切るか」というきもちができているから。 それをもっといろんなひとにも思ってもらいたいなら、そのきもちを口コミでささやかに伝えてくださればいいわ、とそれをお手伝いするようにするな~、、、私だったら。
れ。