上司や同僚、広告代理店のパートナーには、結構聞きにくい&言いにくいこと。

 

「今回のブレストってうまくいったのでしょうか・・・?」

 

今までブレストを正しくできたこと、あったかな。 そもそもブレストに正解はあるのか? あります。

 

あ、ブレストに似たような言葉でアイディエーション(ideation)という用語を使う場合もありますよね。

この二つの違いは、「アイディエーション」はアイデアをつくりだすアクティビティ。 「ブレインストーミング」はbrainstorming、脳みそに嵐を巻き起こす名のとおり、思考を拡散させたりほぐしたり衝撃を与えたりして、思考に柔軟性を与えるアクティビティです。

アイディエーションが目的で、ブレストが手段、ですね。

新製品のコンセプト前段階での「アイデア出し」をする場を「ブレスト」と呼ぶことが多いのですが、厳密には、アイディエーション(アイデア出し)のためにブレストを使っています。

ブレストをしていつもと違った思考を試みることで、いつもとは違うアイデアを出そうというアイディエーションの企画設計になっているからですね。 もちろん他のアプローチでアイデアが作り出せれば、ブレストが必要ではないアイディエーションも存在します。 一方で、ブレストはアイディエーションだけに有効なのではなく、他の場面でも活用できる場合もあります。 (会議中で議論が煮詰まってしまったときとかいいですよ! 踊ってる会議、に効くかは分かりませんが・・・笑)

 

前置きが長くなりましたが冒頭の今さら聞けないことは、厳密に言うとブレストではなくて、「今回のアイディエーションってうまくいったんですか?」ですね。

 

そう、新しいアイデアが出てきそうに「聞こえる」アイディエーションをやってみたけども、本当に「やって良かった」と思えたことはありますか?

アイディエーションというのは、ハウツー本で勉強し、それに沿ってチームを招集し開催しただけで、新しいアイデアが出てくるものではありません。

チームの時間や労力をアイデア作りに活かすためには、入念な準備とお膳立てが必要です。 この点では、消費者調査をやっただけではなにかが分かるわけではない、という話と似ています。

つまり、アイディエーションが成功するかどうかは、入念な事前準備、特に「どんなアイデアを出したいか」にかかっていて、勝負はアイディエーションが始まる前に大方決まっているということ。

アイディエーションは、ビジネスやプロジェクトや何か目的の下で行われるアクティビティなので、いつもは出ないような突飛なアイデアが出たとか、ただアイデアがたくさん出ればいいというものではありません。 (このあたり、FBの以前の投稿に店主が「ブレストだからって何を言ってもいいんだよって、飲み会の無礼講みたいなもん。 この人ばかかも、と疑惑が本当にそうだとばれるのは、このとき。 何言ってもいい、なんてわけないじゃん」とつぶやいてましたね・・・oops。)

 

アイディエーションも、目的と設計をきちんとやる。

これが大事なんですが、それ以外にもアイディエーションの時間内を最大限盛り上げるためにできることがあります。

これについて、私が初めて前社以外でアイディエーションに参加した先日の経験談から気付いたことを書きます。

 

開催者側ではなく、参加者側の立場から考えてみてもやっぱりというか、結局気付いたのは、「今日はどんな突拍子もないアイデアを出してもらってもいいんですよ」とルールを決めたって、大人が従うわけがないんです。 そういう基本は、外資系組織や日本の組織、どこで行なうとしても同じですね。

しかも、私自身も前社で何度かアイディエーションを企画実施したことがありますが、主催者側にとって日本の組織ほど形勢不利な状況はないと思います。 前社のような環境では、参加者が積極的にアイデアを出させるように工夫をしなければと考えたことはほとんどありませんでした。 それよりも、しゃべるばかりで使えないアイデアやつまらないアイデアが出ないように、普段使わない“共感”に集中させるかにとても留意して仕込みを考えていました。 (理由は、ご想像におまかせします…。)

 

このような状況に対して、先日私が参加したのは、大学でのアイディエーション研修でした。 (※え、大学ですらアイディエーションやってんの?!と焦った方のためにその理由はブログの最後に付けました。) 日本の組織の中でも、そこはまさに、白い巨塔。 自由に想像し、新奇性の高い考えやアイデアを人前で披露する場に慣れていない(むしろ避けているとさえ思える)大学関係者。 そうした参加者を集めてアイディエーションを成功させるのは、とても困難に思えました。

そこで、ウマいなぁ~と、いくつか非常に勉強になった工夫やヒントを紹介します。

 

Ideation


★「連想」させる。

アイデア出しの際には、「アイデアを考える」のではなく、「連想する」ことに集中してもらいます。

ポストイットを使って一枚一枚、アイデアを書き出していくわけですが、そのときに、前のポストイットに書かれたアイデアから連想されること・ものをポストイットに書かせることによって、結果的にたくさんのアイデアが書かれるようになります。 確かにアイディエーションの良さは、グループの間で触発されながらアイデアが広がっていくこと。 つまりゼロからアイデアを生む必要はなく、誰かのアイデアにヒントを得て新たなアイデアに広げていくことがアイディエーション成功の秘訣なので、連想することに集中させることによって「自分はアイデアを思いつくのが苦手」「なにかオリジナリティを期待されてるんじゃないか」という不安を和らげることができます。
先日、クリエイティビティの記事でも少し似たことを書いてます。

 

★「大声で」ポストイットを読みあげながらテーブルもしくは台紙上の「真ん中に」貼る。

これはなにか意味があるのかな?と思っていましたが、体験してみて分かったことは、一石二鳥の工夫だったのです!

自分のアイデアを他人に知られるのって恥ずかしいですよね。 それを大声で読み上げ、しかも堂々と真ん中に貼るなんてもっと恥ずかしい。 大声張り上げて真ん中陣取るって、普段じゃそうそうありえません。 そこがポイントでした。 つまり大声で読み上げて真ん中に貼ること自体がすでに恥ずかしい行為なので、そのあとのアイデアの恥ずかしさがどうでもよくなるんです。 大声で読み上げる行為の恥ずかしさに、アイデア自体の恥ずかしい内容が無効化されてしまうって感じ。これが一つ目の効果。

そして二つ目の効果は、グループ内で常に誰かが大声で叫んでいて、真ん中まで体や手を伸ばすので、明らかに五感で動いている、その場が進行していることを感じます。 しかも他のグループもそれぞれ大声を張り上げ、大きなジェスチャーでポストイットを貼っていくので、部屋全体が「わぁわぁ」「がやがや」。 いつのまにかアイディエーションが“盛り上がってる感”が演出されていき、やがてその雰囲気に巻き込まれて普段は真面目な人もなにやらいつもと違う面白いアイデアを言い始めたり。

 

★みんなのポストイットで絵・図形を作る

最後にだめ押し。

ここまで私が参加したセッションはやりませんでしたが、インストラクターが紹介していた最後の工夫は、アイデアを書いたポストイットで、大きなウサギや三角屋根の家や、図形を作らせることで「図形を作るまではポストイットを貼らなきゃな」という気持ちにさせます。 図形作りが楽しくてアイデア出しが楽しくなる効果もあるでしょうし、みんなで一つの絵を完成させるためにアイデアを出さないと、という正当化の効果もあるでしょうね。

 

とはいえ、アイデアは量より質でしょと思う気持ちもあります。 でもそもそも凡人で、左脳ばっかり大きい私たちが少しでも頭をひねるには、ひねる練習をこなさないと。

そしてなにより、その時間を楽しむこと。

思いっきり楽しめ!という波にどれだけ乗っかれるか、乗せられるかだと思います。

正しいチームメンバーを集めた、ポストイットやおやつもたくさん用意したのに、なんでいまいちなアイディエーションしかできないの?という場合、やっぱりルールだけでは、突然ヒトの行動が変わるわけではないってことです。 ならば、大声出してみたり、手を伸ばしてみたり、つくってみたり、イイ大人が集まってがやがやしてる場に、いつの間にか放り込まれてる状況を作ってしまえ。 ゲームしたり、席替えしたり、ばかばかしいと思えることこそ大切なのかもしれません。

 

※最後に大学ですらアイディエーションやってるの?!と焦った方のために。

なぜ大学の研修でアイディエーション?というと、大学の社会貢献を進めていこうという全体的な機運の中、大学が社会や実務と接点を持ち、それぞれが所有する技術シーズをビジネスや公共的な実益につなげていく産官学連携強化に関心が集まっています。 産官学のプロジェクトでも特に、そこから新しいアイデアや企画を創造することがちょっと期待されつつあるらしく、アイディエーションとブレストを使ってみようということになりました。 私の大学では初のアイディエーション研修だったのですが、ブログ読者の方々は実務に携わられていることが多いと思うので「なぜいまさら?」と疑問に思われると思います。 なぜ大学が改めていまかと言うと、文科省から大学全体に示された方向性にアイディエーションの実施が盛り込まれたことが大きなきっかけとなっています。 一昔前は、一部の外資系広告代理店やメーカーで使われていた手法でしたが、今では大学ですら取り入れようとするほど一般的になったということですね。 それほど社会一般で広まったにもかかわらず、本当にやって良かったと思えるアイディエーションやブレストをしたと、自信を持って言えないところにまだまだ課題ありですね・・・。

 

れ。