次々に色んな調査手法のブームが押し寄せては引いていく。 ほんの数年前にちやほやされて飛び交っていた言葉で、すでに耳にしなくなったものや、「あ、そういうのは、もう古いよね」みたいに言われてしまっている調査や分析、たくさんありますよね。
そんな中、行動観察調査(エスノグラフィーと呼ぶ場合もあるようですが)は、しっかりと根付いてきている気がします。
いいですね~。
学ぶことや気づかされることも多く、わずか数件やるだけで、インスピレーションがざくざく湧いてきます。
ただ、グルインなどのように、段取りがはっきりしていないし、まだまだ経験の浅い方も少なくなく、やってみたはいいけれど、「何を・どこを見たらいいのかわからない」、結果として「見ただけで終わった」といった疑問をお持ちの方も多いようです。
行動観察も色々、ですが、ここではえとじやらしく、「主婦対象、自宅での調理の行動観察」を例として、その成功の秘訣をお伝えしようと思います。
1.観察の目的を明確にする
あなたはなぜ、行動観察をしようと思いましたか。
目新しい、やってみたら今までにない何かが分かるかも・・・と思って始めると、何もわかりません。
今、何を理解すべきなのか。 その理解をするのに、観察が必要なのか。
何を観察すれば、その目的が達成できるのか。 考えてから調査に臨みましょう。
そして調査の間は、自分が何を得ないといけないのか、その視点を忘れずにいましょう。
例えば、調理関連の潜在ニーズを探りたい、とします。
その場合、主婦本人が意識していないけど、調理の流れを妨げる動作をしたり、面倒なことをしていたり、変な態勢をとっていたり、逆に自己流で工夫していたり、そんな場面がないか、目を凝らしてみましょう。 (ただし、そればかり見ていてもダメ、というのは後述します)
調理の様子を見てみたい、だけで行くと、「おいしそうなのができたな」とお腹がすくだけです。
2.「誰を」見るか、はとても重要
多くの主婦がほぼ毎日、料理をしています。 ただし、主婦の調理する姿をたくさん見てきた私が断言しますが、びっくりするほど、個性がでます。
調理行動は、性格(きっちり・ずぼらなど)、味の嗜好、健康観、家族への思い、器用さ、料理の好き嫌い、など、いろんな側面の集まりであり、おそらく家事の中で最もばらつきがあるのではないでしょうか。
そこで、「誰を」見るか、です。
ちなみに、お料理の観察の場合、前後インタビューすることも考えると2-3時間は必須になります。 また、主に夕ご飯の準備時間に、ともなれば、1日1軒。 全体でせいぜい数軒です。
しっかり吟味して対象者条件を設定しないと全員バラバラの情報しか得られません。 大変です。 却って混乱することになるでしょう。
ですので、事前にしっかり「どういう主婦」のことを知りたいのか、知るべきなのか、そのひと(たち)の考え方や思いなどについて、わかっていることやわかっていないこと、あるいは仮説について、しっかり議論したうえで。
わからないから、あらゆる人を見てみよう、は、さらにひどいことになります。 まぁ、調査そのものが趣味なのであれば、自腹でやればいいでしょうが、ビジネスのためにやる以上、数軒でわかるべきことがわかる準備が必須です。
でないと、まさにあなたの時間とお金が「無駄」になってしまいます。
3.「誰と」見るか、も、とても重要
どんなに目的を絞っても、観察は情報量が非常に多いです。 また、人によって、見るポイントが違う。 これは性別、ライフスタイル、所属部署、年齢など、それぞれのバックグラウンドにより、つい目に入る・気になる点が違うからです。
主婦の方を主婦が見れば、だからこそ気づくこともあるし、逆に主婦だから見逃すこともある。
おススメは、いろんな人を混ぜて一緒に観察に行くことです。
実際には大人数で観察することは難しいですが、それでも複数の、違う背景を持つ人で観察する。 お互いの視点が意外と違うことに驚くはずです。
4.キョロキョロする
調理の観察だからと言って、調理の動きばかり見ていても理解は表面的に終わります。 ぜひキョロキョロして周りを見てください。
ご自宅であれば、なお一層、です。 インテリア、片づけの仕方など、家はその主婦がどう過ごしているか、何を大切に思っているか、の現れです。
「料理は得意ではないので適当です」とおっしゃっていた主婦の方。 冷蔵庫にはお子さんが書いたお母さんへの手紙や写真がたくさん貼ってあり、非常に丁寧な調理で、野菜が多い。 聞いてみると、やはり子どもへの健康はかなり気遣っている・・・。
(お子さんが帰ってくる時間にうまく当たったりすると、ラッキーです。 どういう親子関係なのか、「言ってること」と「やっていること」のギャップも見えてきますし。)
価値観がわかると、その結果としての行動も説明がつきやすい。
観察はその場の行動だけにとどまらないで、ということですね。
玄関の様子、インテリア、写真や絵、テーブルの上、冷蔵庫の中、冷蔵庫に何が貼ってあるか、冷蔵庫の上に何があるか、どの引き出しに何がどのように入っているか、洗い物はどうしているか、ビニール袋や保存容器はどうしているか、ダイニングの椅子はどう配置してあるか、どこに誰が座るのか、テレビはどこに置いてあるか、パソコンやスマホはどこにあるか、お肌のお手入れはどこでやっているか、そのための製品や道具はどこに置いてるのか、カレンダーに何が書いてあるか(何も書いていないか)、給食の献立表は貼ってあるか、ごみはどう処理しているか、旦那さんのものはどこに置いてあるか、リビングはどうなっているか、隣の部屋やベランダは、洗濯物はどこにどのように干してあるのか・・・・。
思い切りキョロキョロしてみましょう。
5.肝はブリーフィング
色々と述べましたが、一番大事なのは、調査終了後のブリーフィングです。
自分が何を見てきたのか、他の参加者と摺合せをします。 先述の通り、おのおの気づいた点が違いますが、それらをお互いに突っ込みながら(「どこでそう思ったのか」、「なぜそれが気になったのか」)積み重ねていくと、主婦の行動がどのようなものだったのか、またなぜそのような行動をするのか、がまとまってきます。
また、複数の主婦の観察をした場合には、共通して観察された点をまとめます。 十人十色の生活であっても、どこか共通した価値観や行動があり、それは一般化できるニーズにつながるのではないか、と考え始めることが可能です。
定性調査でありがちな、対象者別でのまとめで終わると、「この人はこうだった」で終わってしまい、次に進めませんから。
ということで、ごく簡単にまとめてみましたが、いかがでしょうか。
観察も、気づきやヒントを与えてくれる場であり、結局のところ答えを出すのは自分です。 だからこそ、一つの答えを探そうとするのではなく、多様な気づきを得られるよう、目的は絞りつつも、異なる目と観察力でアンテナを張り巡らせましょう。
いつも同じようなことを言いますが、答えを探しにいってもダメですよ。 答えはあなたが出すものです(そのためにお給料もらってるわけですから)。
気づき・ヒント・びっくり・がっかり・疑問・・・を見つけに行ってください。
K。