IMG_1691たいして「深く」もないのに、なぜ「デプスインタビュー」と言うんだろう、といつも思います。 そもそも「深掘り」すべきは、マーケターの頭の中であって、別に調査ではないように思います。

今回は、定性調査でグループインタビューに次いで多いと思われる、1対1インタビュー、いわゆる「デプスインタビュー」について。

 

11のインタビューで、と調査会社さんに依頼をすると、「デプスインタビュー見積もり」と送っていただくことがありますが、そのたびに「デプスかどうかは分からないですよ~」などと、ひねくれたことを思うわけです。 どうやら、1対1のインタビュー調査のことを「デプス」と呼ぶのが一般的なようですね。

 

さて時折、「デプスインタビューをしても、全然深掘りできないが、どうしたらいいか」というご相談を受けることがあります。

 

思うことを3つ、まとめました。

 

1.「深掘り」したら宝があるだろう、は間違い

2.「深掘り」は難しい

3.そもそも本当に「深掘り」は必要なのか

 

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1.「深掘り」したら宝があるだろう、は間違い

 

まず、これはいつもお伝えしていることなのですが、「やってみたら何かでてくるに違いない」という無謀な期待をやめましょう。 それは埋蔵金がないかと実家の裏畑を掘るくらい儚いものです。

 

誰のどこを掘ったら、何が出てきそうなのか。 それをなぜ掘るのか。

 

同じ属性でも、宝を持つ人、持たない人がありますし、それを表現できる人、できない人があります。 宝によっては埋まっている深さも違いますし、掘り出し方が異なります。

 

また、「深掘り」をして理解すべき「インサイト」の多くは、宝としてではなく、原石としてしか出てきません。 そこら辺の石と区別がつきにくいことが多いです。 それを見分けることができるのか。 そのために必要な前提や仮説は十分にあるのか。 また、出てきた原石をどう磨くのか。

 

宝はあるべくしてあるのです。

 

がむしゃらに掘ってみるのは無駄です。 公園の砂場を掘っていくとブラジルに行ける!というようなミラクルはありません。

 

結局のところ、まず深掘りすべきは、調査が必要なのか、調査するに値するだけの仮説なのか、出てきた発見から石ころか原石なのかを見分ける能力があるのか、原石を磨く技術があるのか、そういうマーケター自身の頭の中です。

 

2.「深掘り」は難しい

 

宝がある、という前提があっても、実際に「深掘り」をするインタビューは大変難しいものです。 大抵「深掘り」をして知りたいこと、というのは、インタビューされている本人ですら、普段意識したりじっくり考えていなかったり、言語化できていないものであったりします。 もしくは、他人に話すような内容ではない・話したくない場合。

 

これらを初対面の、しかも得体の知れない人に1-2時間で表現するのは、奇跡に近いことであります。

 

どんな環境であれば、話しやすい雰囲気が作れるのか、話してもいい、と思えるのか。 どんな引き出し方をすれば表現してもらえるのか。

 

モデレーターさんのスキルが大きく問われるインタビューです。

(よく「経費削減」のため、自分たちでインタビューするのを見かけますが、宝を探すのに素人がシャベルで掘るのはかなり無謀です。 掘った気にはなれますが、掘れていないことがよくあります。

ちゃんとプロに来てもらって、適切な道具で掘ってもらいましょう。 それでも見つからないかもしれませんが。)

 

また、他人様を「深掘り」しようというのですから、聞く側もそれなりの覚悟が必要です。インタビューも長くなるでしょうし、一見関係のない冗長な話を聞く必要も出ます。 実はそういうところに意外なインサイトの種があるケースも多々あります。 1回ではなく、何回も会って話を聞く、ということもあり得るでしょう。

 

本物ではないかもしれませんが、心の内を語るのには、その瞬間だけでも共感や信頼関係が必要でしょう。 「そうなのよ~、聞いて聞いて」と思ってもらえれば、いろんな話が聞けます。

 

ということで、どこかの殺伐としたインタビュールームで、11で、他人行儀な「インタビュー」をしたところで、表面的な会話しか生まれないわけです。

 

しつこいですが、深掘りをする、というのは大変難しいことです。 宝があるとしても、掘ればすぐ出てくる、訳ではありません。

人は、よく知らないひと、話したくない・話すべき価値のないひとには、本当のことは話さないし、なるべく当たり障りのない(うそ)で、その場を切り抜けようとします。

そういう意味では、あなた自身(あるいは調査の方法)が、話をしてもらえる、対象者にとって話したい、話すべき価値がある、と感じてもらえるか、ですね。

 

3.そもそも本当に「深掘り」は必要なのか

 

と言いつつも、消費者の意識を深く深~く掘って、深層心理までたどり着かないと分からない何か、というものは実は少ないのではないか、と思っています。

 

例えば、私たちの知りたい、潜在的なニーズや意識、インサイトを理解するためには、テクニックを駆使した「デプス」インタビューをするよりも、行動観察や雑談的な会話をするほうが意外とあっさり拾えるケースもあります。

 

グループインタビューやデプスインタビューで探せる宝は、たいていの場合、すでに多くの人が探しつくしていて、対抗して「もっと深く掘らねば!」と思ってみても、実は、どんどん視野が狭くなるだけだったりします。

 

実はとなりの畑の意外と浅いところに隠れていたり、目の前にあるのに、石ころだと思って気づかなかったり。 ちょっと視点を変えることで、意外な発見がまだまだあるのではないでしょうか。

 

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結局のところ、重要なのは、消費者や調査方法、ではなく、自分の視点や発想の転換、なのかもしれません。 そして深掘りすべきは、消費者の意識というよりは、マーケター自身の考え、なのでしょう。

なぜ、どうして、どういうことだろう、とまずは自分で考える。 すでにわかっている・知っていると思い込んでいたり、たいして重要ではないと思い込んでいる、すでにわかっていることの中に、重要なことが隠れていたんじゃないかと、しっかり疑ってみる。

するときっと、消費者調査は優れた刺激として、あなたにヒントをたくさん与えてくれます。

調査という刺激の前後を通じて発見された、マーケターであるあなた自身の知識や経験、仮説や発想こそが深掘りの産物なのかも知れません。

 

K