増税のニュースで気づかされました、「今さら」シリーズに、価格についてまだ書いていませんでした。商売ですから、とても大事なことなのに。


巷のブランドコンサルやブランド本では、「ブランドマーケティングを導入することで価格競争から逃れられる」とか、「ブランドがしっかりしているので値下げはしません」とか聞きます。 それは本当なのでしょうか。 また、どのようにそうなのかが分からないと信じていいものやら。 うちのお客さんは値段ばかり気にするから、結局何を言っても最後はいくらなの?って言われるんですけど、どうしたらいいのですか、と聞かれてどう解決してあげたらいいのでしょうか。 私ならどう答えるか…を今日は考えます。


Tax increase KITTEN「ブランドがあれば、値上げできるんですか?」

と質問されたら、そう答えは簡単に、イエスではありません。 頭からがっかりさせてしまってすみません。

ただし、「結局お客さんには値段で勝負せざるを得なくて、苦しいです。」という悩みには、「じゃ、ブランドマーケティングで解決しましょう」と言うことができます。


いずれの質問や悩みも、問いかけてきた人に対して、私なら、ちょっと遠回りになりますがブランドを形成する要素について、お互いの認識をすり合わせるところから始めます。

マネジメント(管理)するために、ブランドはいくつかの要素として整理されています。 たとえばP社のWHO/WHAT/HOWも、それぞれがブランドを構成する要素で、ブランドづくりをマネジメントするために、この三つの要素にブランドを整理しています。 より具体的な要素ですと、ブランドイメージ広告CM女優店頭POP戦略(センリャク)ジングル使用感ベネフィット(便益)ニオイ、…これらすべて、ブランドを形作る要素です。 (各アイテムをクリックすると、その詳細についての過去ブログに飛びます。)


そして「価格」も、ブランドマーケティングにおいては、そのブランド要素のひとつです。 分かりやすく言えば、高い値段をつければ、高級イメージを表現する要素となりますし、逆にお値打ち感のある値段に設定すれば、コストパフォーマンス重視のイメージとか。 散髪の値段が激安価格の1000円にしてみると、業界の価格破壊ブランドに。 101000円カットのQBハウスですね。


ブランドと価格は横並びの関係ではない、価格はブランドを形作る要素のひとつという関係にある、という共通認識ができたら、ブランドマーケティングにおける価格づけとは、以下の二つの点について意思決定をすることと言えます。

(X)どんな価格に設定するか

(Y)その価格にどういう意味を持たせるか


最初の(X)は、要するに「安い~中くらい~高い」から、どこに値付けするか。次の(Y)は、「安い~中くらい~高い」という価格設定を、例えば「賢い~安全~ごほうび」といったように、ブランドにとってのお客様が納得するメッセージに置き換えて表現すること。 (Y)を軽視したり面倒くさがって放棄してしまうか、お客様やブランドチームのみんなととことん向き合って議論するか、が、自信を持ってブランドマーケティングの観点から価格づけを意思決定したかどうかの分かれ目だろうと思います。 たとえ101000円であっても、安いから集客できるだろうとそこに安住するか、それともきちんと、「業界にイノベーションを起こす価格破壊」とブランドの立ち位置を決める足場にするか。 価格がブランド要素のひとつとなって、ブランドを表現する数字なわけですから、真剣に(Y)に取り組んでください。 (翻ると、(Y)に真剣に取り組むために(X)でどう設定するかも、非常に重要です。) 以上が、ブランドと価格の基本編。

Tax increase KITTE



ここからが応用編。 基本編の101000円のように集客力のある価格にできれば、あとはどう表現するか悩むだけでいいですが、実際そうはいかないことが多い。 だからこそ巷の常套句がはびこるわけなので、つまり価格ってどれもだいたい同じ。 それだけでは魅力になるほどの値段に設定するのは難しいですよね。 ついつい値段で比較してしまうのがお客さんの性。 むしろそうしたお客さんや市場の価格競争に乗せられないためには、どうすればいいのかを考えるべきですね。


うちのお客さんは値段ばかり気にするから、結局何を言っても最後はいくらなの?って言われるよね…。 と悩んでしまったときにはぜひ、プライベートブランドと無印良品のちがいについて考えてみてください。

プライベートブランドとは、スーパーのトップバリューやホームセンターオリジナル、コンビニの100円お菓子シリーズなど、小売流通業が企画・販売している自社製品のことです。 粗野なパッケージに(だからこそ値段が映える?)低価格を大々的に訴求していますね。 

無印良品も元を辿れば、スーパー西友のプライベートブランドとして発売されました。 発売当初の無印良品のコピーは、「わけあって安い」でした。 ただ安いだけじゃなくそこには理由があり、無印良品の乾燥シイタケが安いのは、「割れたシイタケも不揃いのシイタケも、水で戻したあと出汁にしたりちらし寿司に使うから、形は関係ない。」というお客さんの賢い声を受けて選別作業を省いた安さだから、という風に「わけあって安い」、スーパーで売られていたプライベートブランドでした。 プライベートブランドを選ぶお客さんほど価格重視のターゲットはいません。 そんなお客さんを相手にしながら、無印良品はどうやってMUJIブランドまで発展できたのか?


お気づきの方は、「わけあって安い」の説明のところに、その答えの半分を見つけてしまったのでは。 ブランド要素の一つとしての価格の意味をどう捉えるかという、(Y)にしっかり向き合おうとする姿勢が垣間みえます。 

無印良品のブランドエクイティは、一貫して「都市型のシンプルなライフスタイルを実現する」こと。安い乾燥シイタケであっても、「形が不揃いな三級品のシイタケ詰め合わせ」ではなく、「実利を考えぬいて選別作業を省いた賢いシイタケ」なのです。 不必要な装飾や機能を省いて、必要な機能やシンプルなデザインに絞り込んだ製品という、いまの無印良品のイメージに通じるものがあります。 そういったブランドを選んで生活に取り入れるお客さんは、都市に住んでいる単身者、パートナーと二人暮らし、もしくは小さな子供がいる家族で、地に足の着いたライフスタイルをしたいと思っている。 そういう理想の生活を実現するための無印良品というブランドエクイティを表現するための一要素、として価格を利用しているわけです。 


価格をブランドと横並びにしてしまう暴挙を許さずに、ちゃんとブランドにぶら下がる要素として価格をひもづけてあげること。 その上で、価格重視のお客さんと勝手に相手を決めつけずに、お客さんはなぜ価格を重視しているのか? 価格を重視しているその先に、どんなインサイトがあるのか?(不揃いだけどお得なシイタケを買う奥様は、賢い主婦、エコな主婦、物事の本質を見抜けるスーパー主婦?)に思いを巡らせてみると、ヒントが出てくるかも。 そこが、プライベートブランドのままでい続けるか、世界のMUJIになるか、の分かれ道だったような気がします。


そうそう、増税後の買い控え時期にブランドの真価が試されますね。 あなたにとって増税されても買いたいブランドってなんですか?