前回のブログ「今さら聞けない『ブランド』のはじめ方」では、テスコのブランド立ち上げエピソードを紹介しました。
何でも商品が揃うことを売りにして幅広くお客さんを集めようとするのがGMSの良いところなのですが、どんなブランドになりたいかと言われるとぼやっとしたブランドに落ち着いてしまいがちです。
イギリス本社の役員たちではその難題に挑めず、自分たち以外の周辺の人々に助けを求めました。
まずは外部の研究者が調査の指南役として参加し、そしてテスコのアジア役員の9名がチームを組みました。
そのチームだからこそ、本社の人々が見えないテスコらしさが見えてくるのだろうというところを、今回はより突っ込んで、彼らがプロジェクトで具体的になにをしたかについて続きをお話しします。
調査のプロとして参加していた研究者から、9名のメンバーに宿題が与えられました。
それは、店頭訪問調査時のデータをそれぞれノートに記すこと。
ノートは見開きになっていました。 メモするべきデータは、客観データと、それに対する主観的感想に区別されていて、左側に客観データを書き、右側に主観的な感想を書くように指示されていました。
しかし欧米人の研究者にとって驚きは、アジア人役員たちのノートの右側が全然埋まらないことだったそうです。
その中に日本人役員がいて、
「魚売り場で魚をさばいていたスタッフに、いつから魚をさばく作業を担当しているか聞いたら、二日前の金曜日からだった」
と左側の客観データ欄に書いていたそうですが、右側の主観的な感想は真っ白。
研究者が「え?!で、あなたはどう思ったのよ?」と迫ると、日本人役員は、
「イギリスの人って、魚の品質はどうでもいいんだなって思いました・・・ 2日しか経ってない人がさばいた魚を売るなんて信じられない」と言ったそうです。
日本人ぽい感覚だな~。
日本人にしか分からないから、世界的なテスコブランドのプロジェクトには全然関係ないんじゃないの?
きっと書いている日本人役員本人もこのように考えていて、取るに足らない感想だと思ってノートには書かなかったのではないでしょうか。
しかしブランドの根幹は、まさにそういった文化的な考え方や背景に深く根ざすものだと思います。だからこそ客観データだけではなく、それをどう捉えたか、そこからなにを感じたか、の主観的な感想を記すスペースを、ノートの右側に書いてもらいたかったのです。 気に留まった客観的データに対してなぜ気に留まったのか、なにが面白いと感じたのか、いちいち言葉にしないとブランドが表現されてきません。
言葉にしていくことが、ブランドを彫り出す第一歩だと言えるでしょう。
ノートの右側が真っ白なのは、それがいかに難しいのかを示しているエピソードでした。
アジアの人たちは、主観的な感想をなかなか言葉にして表現しない、と欧米人が驚いたという点に特に着目すれば、日本も含め、日常が文化的な背景や文脈の上に成り立っている環境だからかもしれません。
日常がいろいろと文脈の上に成り立っている、とは「言わなくても分かるだろう」という暗黙の前提で、日々のことが進行している状態です。
先ほどの日本人役員による魚売り場のスタッフの観察は、まさにそういう無意識が働いていいたのかもしれません。
しかしブランドを彫り出すには、そこをあえて言葉でくくり出してみる必要があります。
無意識に「言わなくても分かるだろう」症状に汚染されていると、自分のブランドの大事な部分を見逃すことになってしまいます。
テスコプロジェクトチームに協力した研究者が、全役員の残した調査ノートを見て、「ブランドプロジェクトに対して、「ほぼ使えない調査ノートを書いていた」役員の特徴について述べています。
彼女はイギリス留学の経験があり、在住経験がアジア人チームの中で最も長かった、中国の若い役員だったそうです。
逆にテスコブランドへのアイデアが溢れだすノートを残したのは、
・アジア市場のみならず自国を出るのが初めて
・9人の中で英語能力は最低レベル
・テスコの勤務経験が長い
フィリピンかベトナムの役員だったそうです。
つまり、アジア人役員が、イギリスの、かつグローバル企業であるテスコブランドについて考える際、国際感覚やイギリスの生活・文化を知っていることは不必要でした。
また興味深いのは、英語や現地語が話せることが関係ないということです。 言葉にできないとブランドを彫り出せないと言いましたが、日本語ができないから日本のブランドは語れない、英語ができないから欧米のブランドは語れない、京都弁ができないから京都のブランドは語れない、というものではないということです。 むしろ自分の母国語でいいから、観察する現象をきっちり言葉にできること、伝えられることの方が重要なのでしょう。
自分の周りでは当然だと思っていたことが暗黙の了解ではない、ということを自分以外の誰かやチームの間で刺激し合うことによって、それぞれの主観が初めて言葉になり、ブランドを表現するテーマが染みだしてきます。
まさにおでんの出汁のように染みでてくるブランド。。。
実はブランドの出発点が言葉にすることである、というのは再三再四、ブログの記事になってきました。
今回のアングルからだけでなくこちらも合わせてどうぞ。
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れ。