61VtDzsKOmL__AA1331_r「甘酒あります」

「冷やし中華はじめました」

と同じノリで、

「ブランドはじめました」

簡単に言えばそういうことです。 ブランドマーケティングを始めるのは難しいことじゃないのかなと思います。

要するに、「そろそろ寒さが染みる。おでんを始めるかなぁ~」という感覚で、ブランドを売る人がブランドマーケティングを始めるか、始めないのか、決めるだけなのではないかと。

 
「テスコブランドはじめました」
ウォルマートやカルフールに次ぐ、世界第三位のスーパーマーケットであるイギリスのテスコが去年、まさに「テスコブランドはじめました」とのぼりを挙げたそうです。
しかし「ブランドはじめました」と決めるのは簡単でも、「どんなブランドをはじめるか?」を決めるまでが難しいので、今日は、ブランド探しに取り組んだ、彼らの例をご紹介します。
記事のタイトルは「はじめ方」ですが、いろんな方法があると思いますので、だからこそ具体例が参考になるかなと思いました。

GMSやスーパーマーケットがわざわざ自社の「ブランド 」について真剣に取り組もうとするのは、案外と新しい気がします。

小売業のブランドというと、たとえばH&Mやセフォラなどの専門店なら簡単に頭に浮かぶでしょうか。

でも、GMSのように取扱い商品の幅広い小売業ではなかなかブランド作りを進めることが難しい。

高価格商品を扱うデパートですら、三越、松坂屋、伊勢丹、阪急と並べてみると…、ファッションや化粧品に特化することで伊勢丹や阪急が若干他のデパートと違うかな?という印象を受けるだけで、まんべんなく品揃えをしているまっとうなデパートはブランドの影が薄くはありませんか? 少なくとも、「昔は老舗だったんだけどね~最近はどこも同じよね」、という声が聞こえたり。

かといって、家電という専門商品に特化している家電量販店業界で、明確にブランドが立っているお店は思いつくでしょうか?


460x300_tesco_r

 
それほど、小売業が違いやブランドを見せることは難しく、無難になりがちと言えるかもしれません。 小売業そのものが、そもそもメーカーがブランド作りを頑張っている商品をあまた仕入れて店頭に並べる、という生業だからということもあるかも。

そんな、ふつーのお客さんのためのふつーのGMSであるテスコが、ブランドマーケティングに対して切迫感を持ったきっかけは、2010年、本国イギリスでの売上不振でした。

それまでの6年間はTerry Leahyという敏腕CEOが率いた

Pile it High, Sell it Cheap

(山積みだ!安売りだ!:れ。和訳)

というテーマの下、利益を3倍に伸ばし、イギリスのみならず海外進出も積極的に仕掛けていた最中、本国の売上が突如5%減少となります。 6年間続いてきた成長がいきなりマイナスになり、大騒ぎ。

一方で、世界全体のテスコの利益は13%増。

本社の人は、自国以外の世界のテスコではどんなオペレーションをしているのか?!と興味津々です。

ちなみに、それまではいわゆる本国主導のグローバル経営、つまりイギリスのやり方を、海外の店舗にもそのままコピーしていたため(と本社の人は思っていた)、自国以外のオペレーションには興味なし、という企業風土でした。

慌てて好調なアジア市場の役員の意見を聞こうという話になります。

 
こうして、今まで本社がやってきた「テスコway」に自信を失い、迷走し、
そもそも「テスコってなんだったのか、なにをしてきたのか、なにをすべきなのか」
というテスコブランドのエッセンスを探す旅に出ることになりました。

アジア人役員9名に加え、プロジェクトの外部コンサルタントとして大学研究者5名に参加を要請し、プロジェクトチームを発足します。

アジア人役員が、本国イギリスにあるテスコの52店舗を3か月かけて巡り、「テスコブランドのエッセンスとはなにか?」への答えを見つけ出していきました。 実際に店舗を訪問し、そこでお客さんや従業員を観察し、話を聞き、まさに店舗訪問調査を通してブランドのアイデンティティを探す一大プロジェクトです。


最終的に、プロジェクトの成果物としてテスコブランドが立ち上がり、このクリスマスキャンペーンを生み出しました。

クリスマスパーティーの時に、ほんの小さな帽子を乗せるだけで、そんなちょっとしたことなのに、なんか気分を盛り上げてくれたり、テーブルを囲むみんなとの一体感を高めてくれたり。

そんな小さな何かで、みんなを笑顔にしたい、楽しい気分にしたい、それがテスコがなりたいブランドだったのですね。


最後に繰り返しますが、ふつーのお客さん(いわゆる中流階級で、国民全員とか定義してしまいそうになる人々)をターゲットにした、なーんでも揃っていることをアピールしたいGMSであるテスコが、無難・ふつーではない「テスコらしいブランド」をはじめるのは、案外難しい。

でもまずは、それまで本国のやり方をグローバル標準として全世界にコピー&ペーストしてきたイギリス本社が、自分たちとは違う視点を持つアジア人に、そのヘルプを求めました。

テスコのスタッフでもあり、本国本流のテスコではないアジアのテスコ役員という、内部者でありながら客観的に本国テスコを見ることのできるチームメンバーに、ブランド作りを託されました。

無難な定量的情報ではなく、彼らの主観を通した定性情報を土台にして、テスコブランドの意味を議論していったのです。

ブランドマーケティングとは少しずれますが、この、国際的なメンバーがチームを組んでテスコのために尽力するという新たな仕事のやり方は、テスコ再生のための戦略にも組み込まれていきます。

Better Tesco」という経営再建戦略では、テスコのスタッフ一人一人の自主性を重視し、それを活かして彼らが生き生きと働ける環境づくりが重視されたようです。

お客さんへのサービスを第一に考える思いやりのある仕事を心がけ、それがスタッフのやりがいにもつながる、という雰囲気がウエブビデオから伝わってきます。

同じようなライブ感が店舗設計やデザインにも統一される点も伺えますね。


れ。