間に入っていた受注業者さんの話が、あまりにわけがわからなくて、さすがにもう少し情報を整理したいし、聞きたいこともたくさんあったので、クライアントである、とある大企業の本社にお邪魔して、オリエンをお聞きする機会があったのですが、途中から、開いた口が塞がらないというか、なんか腹も立たないというか、笑い出しそうになるのを我慢するのが大変で。 質問とかもしてみたんですが、「あ、こりゃだめだわ」で。
以前、そんな間違いだらけのマーケティングというか、そういうオリエンがあったので、記事にします、とFBでつぶやいたのですが、ようやく仕事も私たちの手を離れ、そろそろ書いちゃってもいいかな、と。 タイトルにも書きましたが、ある意味で、私たちがブログやセミナーなどで言ってきたことの、いいまとめ記事になるよなぁ、と。 一応、依頼主がどこの会社かわからないように書いてますので、ちょっとわかりにくいところがあるかもしれませんが、そこはお許しいただいて。
もちろん、「そんなこと、あるんだ!」とか「そういうの、あるよね~」と、笑っていただいたらいいんですが、特に発注元でお仕事をされている方、ここまでひどくないだろうけど、似たようなことが起きてないだろうか、と、ちょっと胸に手を当ててみていただいたりするといいのかも、です。 (私自身、こういうの、やっちゃったことありますから。)
さてさて、いくつ間違いがあるでしょうか。
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商品開発部の方々(と、購買部らしき部署の方々)4名が並んだ会議室。
お題は来年度の製品カタログのデザインです。
全員来る必要あるの? と突っ込んでみても、何の返事も返ってこない受注業者は営業からデザイナーまで総勢6名。 それに、クリエイティヴディレクター(CD)と私の2名。
しかし、名刺交換が終わって席についても、なかなか会議が始まりません。
(誰も仕切らないんだろうか?)
こちらの営業もうつむいて待ってます。
どうやら、何のための会議か、そもそも話が通っていなかったようで、先方は「何しに来たの?」な雰囲気です。 仕方なく・・・
CD: 「来年度のカタログ、思い切ってデザインを変えたい、とお聞きしているんですが、具体的なところをもう少しおうかがいできればと思いまして」
と、口火を切ります。 ようやく、会議が始まりました。
商品開発の担当者: 「すでに、何度もお話しておりますように・・・・」
ほら、やっぱり。 何しに来たんだこいつら、まだなんかわからないことがあるのか?って、顔してるじゃん。 さすがに私も、「いただいたオリエン資料があまりにわけがわからないから来てるんですけどね」とは言わずに、傾聴。
(オトナになったなぁ、あたし。)
開発: 「弊社の仕事の中で、カタログというのは大変重要な役割を担っておりまして、エンドユーザーの方はもちろん、販売店の方々も見られますし、みなさん、各社のカタログをざっと見比べてその中でどれにするかを決めていきます。 今回、カタログのデザインを大幅に刷新したいと考えておりまして。」
(はい、なるほど、そのために私たちが来ているわけです、了解です。)
開発: 「で、この製品ラインのリニューアルがあるんですが・・・・」
その会社には主要製品ラインが複数あって、高級ラインと普及ラインがいくつか、そして、今回リニューアルが予定されている中間価格帯ライン。 ビジネスの半分を担う、最重要ラインです。
開発: 「このラインのビジネスを50%アップさせなければならず、かつ、若干の値上げも予定しています。 そこで、こちらの、エンドユーザーのセグメント分けにしたがいまして・・・」
おお、セグメントでターゲットを分けているんですね! さすが大企業、ちゃんとやってるじゃないですか。 いやぁ、来てよかった・・・。
・・・・んん? セグメント分けって、暖色系、寒色系、って、それファッションとかの色の好みの話では? ちなみに、この会社、洋服やバッグを売っているわけでも、車を作っているわけでもありません。 ま、無いよりましか。
開発: 「これまで、5つのセグメントのうち、BとCのふたつをターゲットと想定して開発にあたってまいりましたが、ビジネス拡大のために、今回からさらにAとEのグループもターゲットとすることにいたしました。」
(なんと!)
ちょっとおもしろかったので、ここで初めて発言。 質問してみました。
お。: 「すいません、5つのうち、4つをターゲットにする、ということであれば、いっそのことDグループも入れちゃったらいいんじゃないですか? どうして、Dだけ外すんですか?」
開発: 「はい、Dは、ほとんどが10代の女性でして、私たちの製品を購入することはありません。」
(ああ、そいつは失礼いたしました、私の考えが足りませんでした。)
お。: 「なるほど。 ちなみに、もちろん女性がターゲットなんですよね?」
開発: 「いえ、最近は男性も利用するのがトレンドらしいので、男女共にターゲットだと考えています。」
すいません、何の商品なのか、ばらせないので、笑っていただけませんが、ターゲットにされると困ってしまう男性は少なくないカテゴリです。 たぶん、彼ら言うところのエンドユーザーとしては、4~50代の女性がほとんどだと思います。 もしかしたら、30代も少しいるかな、くらい。
ともかく、10代の女の子を除くオトナ男女全員がターゲットですね。
お。: 「では、ターゲットは、この製品カテゴリに触れるチャンスのあるすべての男女エンドユーザーということでよろしいでしょうか?」
開発: 「いえ、販売店の方々も、すべてターゲットです。」
(ああ、そいつは失礼いたしました、私の考えが足りませんでした。)
お。: 「なるほど、そうですね。 では、中でも特に重要なターゲットというとどのグループになりますか?」
開発: 「どなたも大切なお客様です。」
(あああああ、そいつは失礼いたしました、私の考えが足りませんでした。)
CD: 「では、エンドユーザー向けの小冊子と、販売店の方だけが利用する詳しい内容をカバーしたものの、ふたつに分けてはいかがでしょう? 全く違う情報が混在していることが、カタログをごちゃごちゃしたものにしてしまっています。 どちらも大切ということであれば、それぞれにフォーカスしたものを用意すれば、どちらにとってもいいものになると思いますが?」
開発: (無言・・・・)
うそじゃないですよ、ホントに、無言だったんですって。 というか、ほぼ、無視、でした。
CD: 「では、話題を変えましょう。 カタログのデザインを、大きく変えたい、ということですが、具体的にはどのように変えたいとお考えですか?」
開発: (無言・・・・ののち)「かっこいいカタログにしてほしい、と言われています。」
お。: 「誰に『言われている』んですか? エンドユーザーですか?」
開発: 「営業部です。」
(??)
お。: 「営業の方にかっこいいと言われないといけないんですか? 販売店ではなく?」
開発: 「販売店は、もちろんですし、エンドユーザーもです。」
CD: 「・・・・かっこいい、というのは、とても主観的なもので、こういうもの、というのを決められません。 もう少し、他の言葉で言い換えるとどうなりますか?」
開発: (無言・・・・)
お。: 「では、今のカタログの問題点でも結構です。」
開発: 「営業からは、ともかく、他社と比べて、かっこよくないと言われています。」
いかん、これじゃ前に進まない・・・。
ということで、実際のページを見ながら、いろいろと議論を試みるのですが、先方からは「かっこいい」以外の具体的な言葉は出てきません。
CD: 「たとえば、このページ。 エンドユーザーさんに伝えたい内容は、これとこれですよね? しかし、ページ全体のデザインがすっきりしていないのは、これとこれとこれが混在しているからです。 そこを整理するだけで、ずいぶんかっこいいデザインになりますが、どうですか?」
開発: (無言・・・・)
少し議論の矛先を変えてみることにしました。 そういえば、この方々は開発担当ですので、ここにいない営業の方がどう考えているのか、語れないとしても仕方ないことですし。
お。: 「では、エンドユーザーにとって、御社のXXXという商品群はどのようなイメージでとらえられているのですか?」
開発: 「このカテゴリにおいて重要な要素は3つあるといわれています。 1が価格、2が機能性、3がデザイン性です。」
おお、ようやくいい話が聞けそうだぞ。 わくわく。
開発: 「弊社のXXXは、価格については他社の同等品に負けていません。」
(安いってことね。)
開発: 「機能性に関しては、他社と同等と考えられているようです。 しかし、デザイン性が高くないと考えられているようで、今回はそれをなんとかしたいと思っています。」
(なるほど、それでやたらと「かっこいい」って言ってたのね。 ふむふむ。 でも、女性が「かっこいい」って言わないと思うけどなぁ。 ま、いいや。)
CD: 「では、来年度、デザイン的に製品はどのように変わるんですか?」
開発: 「まだ決まっていません(きっぱり!)。 が、新たに追加した2つのセグメントに受けるように、従来の丸みを帯びた形状と柔らかい色に加えて、寒色系の部材を導入する予定です。」
納得はできませんが、なんとなく、やろうとしていることはわかった気がした私。 まぁ、要するに、大きな製品の変更はできないので、色だけでもたくさん用意するってことかな。 ますます特徴が無くなる気もしますが、それはそれとして。
お。: 「具体的な変更はいつ決まりますか?」
開発: 「カタログの撮影までには。」
(撮影? おい、じゃぁ、それまでは、何をベースに考えればいいんだ?)
CD: 「なるほど、それまでは、当たりをつけてやっていくしかないですね。」
(おお、さすが、オトナ!)
CD: 「ところで、そのエンドユーザーさんが求めるデザイン性というのは、どういうものでしょうか? こちらも大きな概念なので、もう少し具体的に教えていただけると助かるんですが。」
開発: 「エンドユーザーさんには聞いていません。」
CD・お。: 「え?」
開発: 「業界紙に載っていた、販売店の、各社に対するイメージのアンケート調査です。」
(がらがらがらがら・・・・
まぁ、要するに、業界内で「あそこは値段は安いし、機能もまあまあだけど、なんかダサいんだよね~」と言われている、ってだけのことですね。 最初からそう言え!)
CD: 「でも、たとえば、このデザインで高い評価を得ているA社ですが、このカタログですよね? 見る限り、とりたててかっこいいわけではないですよ。 むしろ、「家族」を中心にしたアイディアづくりになっていて、ほのぼのとして、あたたかい感じですが。 これをもって、デザイン性と呼んでるんですか?」
開発: (無言・・・・)
CD: 「あるいは、このC社のカタログ、黒を基調にしていて、全くひととかが出てきません。 こういうのを、かっこいいとお考えですか? 車やAV機器みたいで、女性にはとっつきにくい感じだと思いますが。」
開発: (無言・・・・)
CD: 「エンドユーザーさんには、A社のカタログが見やすくて楽しいと思いますが、実際にはどうなんですか? 売れてるのはA社なんですよね?」
開発: (無言・・・・)
(なんで、ここで無言なの?)
お。: 「A社が最近大きくシェアを伸ばしていて、一番売れていて、販売店さんたちの評価も高くて、しかも、とりたてて「かっこいい」カタログでもデザインでもない、そして、それにもかかわらず中間業者さんの「デザイン性」評価が高い。 一見かっこいいカタログで売っているC社は御社と同じく苦戦している。 ということは、「かっこいい」とか「デザイン性」とかいう言葉が何を意味しているのか、ちゃんと考えたいところですよね。」
開発: (もちろん無言・・・・)
こうなったらおもしろいので聞いてみましょう。
お。: 「では、どの商品にするか、実際にはエンドユーザーさんが決めてるんですか? それとも、販売店さんが決めたものの中から選んでいるんですか?」
開発: 「両方です。(きっぱり!)」
(ひゃ~、そりゃそうですよね~、失礼しました~。)
ともかく、闇夜の丸投げ課題を、手探りでどこまでこねてみても、何かがはっきりするわけではなく、さすがに時間も無くなってきたので、そろそろ〆ますか。
お。: 「では、本日いただいた課題をもとに、いくつかのパターンで、ターゲット、伝えるべきこと、アイディアの方向性やデザインの考え方について、ご提案を差し上げますので、具体的なカタログの内容に入る前に確認していただけるようにしたいと思いますが。」
開発: 「デザインはいつ出てきますか?」
お。: 「このままデザインに入ると、あまりに時間と負荷がかかりすぎますので、まずは、イメージや方向を確認いただけるようなものをプレゼンいたします。」
開発: (無言・・・・)
CD: 「プレゼンはいつがよろしいでしょうか? おふたりの都合のいい日をおっしゃってください。 なるべくそれに合わせますよ。」
開発: (長い無言・・・・ののち)「営業のメンバーと営業企画部長に見てもらわないといけないので、カタログのデザインに落とし込んだモックを来週中にお願いします。」
(話、聞いてんのか?)
CD: 「営業の方々というのは? 営業企画部長さんというのは?」
開発: 「カタログの予算は営業ですからね、営業チームと営業企画のほうで決めてもらいます。」
(爆笑、しないように必死で我慢。)
CD: 「その方々は、アイディアボードで見ていただけないのでしょうか? カタログに落としたものを作りこむ時間は取れません。」
開発: (無言・・・・)
いやいや、楽しかった~。 実は他にもわんさかエピソードがあるんですが、長くなりすぎるので。 (十分長いですね・・・・すいません。)
で、結局どうなったのかというと、実はCDが病気で倒れてしまい、それをきっかけにして、この仕事から逃げ出せました。 私はもともと戦略的な方向付けだけが仕事だったので、戦略なんて決めないことが明白になった時点でお払い箱。
とはいえ、ともかく、複数の立ち位置というか、語り口を用意し、それぞれにアイディアと、ビジュアルとコピーを用意し(さすがにカタログの見本なんて作ってる時間はないし、そもそも無駄なので)、最終的にはABC3案に絞り、営業企画部長さんと営業メンバーと開発の方々にプレゼン。
なんと、営業企画部長さんには、B案を大いに気に入っていただき、しかも、
「うちもそろそろこれくらい思い切ったことをしないといけないんだよ、これで行こう!」
と言っていただきました。 よかった、よかった。
・・・んが、他の営業グループはA案がいい、開発はCも捨てがたい、
そういえばAに入ってるこれがいい、Cのこれはちょっと入れよう、
Bのここはちょっと行き過ぎだよね、
ところで、去年のカタログのここは今年も入れてね、
ちなみに製品ラインナップは全種類並べてね、
ここの機能性がうちの売りだよ、
ここはモデルさんの手と顔が見えないとね~、
そんなにアップの写真じゃ全体が見えないからだめなので、アップはやめてね、
(アップの写真をたくさん使う、というのが、B案の狙いなんですが・・・)
表紙は別の製品のものと複数用意してください、あとで決めます、
色は最後に決めましょう、ああ、撮影に間に合わない? いや、撮影してから決めたらいいじゃない、
あ、そうそう、もちろんコストは昨年より10%落としてほしいので、アイディアボードにあったような「余分な」カットは撮らなくていいからね、
コピーはこれじゃ少なすぎてわかんないから、しっかり説明してね、
などなど・・・・。 (オリエンでは無言だったのにね。)
もちろん、受注業者さんは、ずべてクライアントのおっしゃるとおりに対応。
ということで、あっという間に、元通り。 ちなみに、大英断の営業企画部長さんは、その後一度も姿を見せないので、彼の決断も(無言・・・・)攻撃で終了。
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ほぼ実話(実況?)です。 (実際には、もう少しひどかったんですが。)
まぁ、あとから考えると、「外部業者ごときが何を偉そうなこと言ってるんだ、あ~?」というのが、とても強くあって、相手にしてもらってなかった、ということだったんですね。 (営業企画部長さんを除いて。)
また、私達に仕事を依頼してきた受注業者さんも、「何かやったよ」という証拠づくりに私たちを呼んだだけで、実際には、何かをしてほしかったわけではなかったんです。
なので、私たちは、完全に「お呼びでない」状態で。 実はそこが一番大きな間違いだった、というわけですね。 ははは・・・・。
さて、文中の間違い、いちいち過去記事のリンクを貼ってると、リンクだらけになりますので、ひとつだけ、オリエンがらみの記事のリンクを。 「他人にものを頼むのなら(You get what you deserve to get)」です。 シリーズ記事で3つありますので、暇つぶしにどうぞ。
お。
追記: 完全に余談ですが、「無言」という「返事」、ときどき出会うのですが、これはなかなかすごいです。 ほぼ無敵の「返事」です。