えとじやのブログにしては珍しく、ファミリービジネスについてお話します。

規模の大小関わらず、企業の存在に創業者や現経営陣といった形で、あるファミリーが深く関わっているビジネスを、ファミリービジネスとここでは想定してください。

ファミリービジネスと聞いてイメージするのは、カリスマ性のある家長がいる。 その人が現役バリバリで仕切っているか、もしくは右腕的役員が日常業務はこなし、重要事項のみ社長が登場するか、いずれにしろそのファミリーの代表人物の存在感とビジネスは切っても切れないイメージがあります。2013-08-24T01-30-18_0

しかし一方で、社長の一存ですべてが決められるような負のイメージも同時に思い浮かべてしまう…。

社長の個人的な感情や経験則で判断するから、下の組織が振り回されたり。

もう時代が変わってるのにいまの現場を知らないまま誰も意見できない、とか。

また一般企業なら必要のない仕事や作業もちょくちょく発生する、など。

世代交代のたびにお家騒動に組織が巻き込まれるというのも、ファミリービジネスならではでしょう。

突然ですが覚えていらっしゃるでしょうか、船場吉兆の女将と息子の謝罪会見は衝撃でしたね。 倫理的、論理的、透明性が高い意思決定といった現代の経営スタイルとは馴染まないような組織力が働いている悪いイメージがついたのは、そのせいでもあるのでしょうか。

ファミリービジネスに対してこういった固定観念を抱いていたのですが、先日ヨーロッパにてファミリービジネスに携わる方々と出会って、かなりそのイメージが崩れました。

まず驚いたのは、何度も「当社はファミリーが所有する企業だから」や、「ある家族のファミリービジネスから始まった伝統をいまも続けていて」と、ファミリービジネスを会社の誇りかのように最初に紹介されたことです。

日本ではまず珍しい光景だと思いました。

「うちはいまだにオーナー社長とその関係で役員会を牛耳ってるんですよ…」

「うちはオーナー一家の所有物みたいなもので」

と、いまだファミリービジネスであることが、会社として脱皮しきれていない証拠のように紹介するのは想像できますが、ヨーロッパで出会った方々はそれを自慢げに語ってくれたのです。 具体的には、

「ファミリービジネスだからこそ、自分たちのやりたいことが本当にできる。」

「株主や銀行のために働いていたら、売上や利益に結びつくことしかできなくなる。」

「自分たちがやりたいことをやる、自分たちが楽しいとおもうことをお客さんに提供することが自分たちのビジネス。」 と自然に会話が続いていきます。

ちなみに社長以外、お会いした方々はそのファミリーの縁者ではなく、縁故関係なく入社し働いている従業員の方々でした。 世界的大企業を辞めて中途入社したマネージャーの方もいらっしゃいました。

フランスで訪問させていただいたのは、ブルゴーニュ地方にある老舗のワイナリー。

人はボルドーワインからワインが好きになって、最終的に行き着くところはブルゴーニュワインと言われるように、通好みな上品なワインがブルゴーニュの特徴です。 (私はワインに詳しくありませんので聞きかじった情報が間違ってたらごめんなさい。)

そんなブルゴーニュワインを作るそのワイナリーは、創業者一家がもともとその地方以外の出身で、毛織物商であった出自から(一般的には広大なぶどう畑を持っていた地主が多い)、商人の才覚でブルゴーニュワインの価値を認めていて、ブルゴーニュワインの対外的な評価向上やビジネス拡大に貢献したそうです。

そのワイナリーの自慢は、社屋地下の迷路のように続く地下ワインセラーです。 ジロンド川沿いで地下を掘るとすぐに水脈にあたってしまうボルドーとは異なり、近くに大きな川もなく温度・湿度が年間通して一定に保たれる地下セラーは、ブルゴーニュでは一般的です。2013-08-24T01-24-46_0

しかしそのワイナリーは、ブルゴーニュ地方にあるボーヌの街の中世の要塞を所有し、その巨大な地下施設をワイナリーに利用しています。 中世に作られた街の要塞ですから、その大きさはほぼ旧市街の地下まるごとワインセラーと言っても過言ではないほど。

その中世に建てられた要塞を所有することになったきっかけは、フランス革命という歴史的大騒乱の中で、あらゆる公的施設が革命派により政府から解放され、値段がつかないくらいの低い価値で売り出されていたからでした。 当時はすでにワイン商としてボーヌに定着していた創業家一家が、ほぼタダ同然で放り出されていた街の遺産である要塞を買い取り、社屋とセラーにしたということです。

ファミリーの決断がなければ、これほど立派で理想的なセラーは手に入らず、ボーヌを代表する当社の現在のビジネスはなかったと、語ってくださいました。

そのセラーには1800年代の貴重なワインも未だ保存されており、「え?それって今じゃもの凄い資産価値になってる?」と私の下世話な妄想もつかの間、社員教育のためにごくたまにそのワインを開けるとのこと。 ワインに対するピュアな思いに、自分の不徳を反省しました!

お聞きした話は尽きませんが、次にご紹介したいのは、オランダで鶏卵農家を引き継いだ3代目のオーナー社長との出会いです。 近年、卵の栄養機能を高める研究をオランダ、アメリカの大学や研究機関とグローバルに提携しながら進めていて、卵ビジネスを越えて機能性食品や、食べ物で病気を治療することを目指すビジネスにまで事業を広げようとしてらっしゃいました。

そこまで彼を駆り立てた思いはなんでしょう??

「スーパーで卵はいつも安売りされてて、私も鶏卵農家を父親から引き継いだとき辛かったんだよ…。」

って、日本の農家の状況と一緒ですね、オーナー!

「自分の子供やその先代々にもこの鶏卵業を引き継いでいかせるには、なんかしなきゃって。 最初は、卵の安全性や有機餌を使った鶏が産んだ卵ということを付加価値にしようとトレーサビリティの設備を導入した。 でも鶏卵農家として、卵本来の価値を上げたいって考えて、卵ってそこから雛が育つための命をはぐくむ栄養が詰まってるすごい食べ物なんだよね。 その栄養素の機能を高められれば、それがまさに卵の価値なんじゃないかって。」

ここまで来ると、代々受け継がれている鶏卵農家ファミリーとしてのアイデンティティがビジネスを突き動かしているんだな…と思わざるを得ませんでした。2013-08-24T01-35-22_1

当主である社長も含めてファミリービジネスで働く社員たち、彼らと話して感じたのは、ビジネスパーソンとして、ビジネスを通して社会になにを実現したいのか?という姿勢をとても大切にされていて、それをファミリービジネスが後押ししてくれている、ということです。

確かに今では、会社に奉公する企業戦士なんて完全に死語ですし、企業の社会的責任(CSR)やコミュニティとの共存が長期的なビジネスの成功への秘訣という考え方が広まってきています。

仕事を通して自己実現する理想的な働き方が、古臭いイメージのあるファミリービジネスと結びついているなんて、目から鱗でした。


古臭いままの嫌がられるファミリービジネスと、賞賛されるファミリービジネスの分水嶺はどこにあるか?

先ほど書いたように、単純な利益性や効率性の追求が会社の目的だという時代から、多様な働き方や社会的な企業活動が、結果的に企業にプラスに働くという豊かな認識へと時代が変わっているのでしょう。

そして、そういった働く意義みたいなことに対する多様な価値観に加えて、企業と顧客の関係をどう設定するか、がさらに重要な分水嶺ではないかと思います。

この発想は、まさにブランドマーケティングに通ずるのでは?!

「自分たちがやりたいことをやる」「自分たちが楽しいとおもうことをお客さんに提供する」というのは、企業と顧客という関係が、従来のように顧客は企業の外部ではないのです。

むしろ、顧客は自分たちの価値観やセンスに共鳴する人たちであり、その関係は内部/外部というよりも、同じものを好きだと思う同志的な関係ではないかと感じました。

ブランドマネジメントには、ブランドは企業が一方的に顧客に押し付けるものではなく顧客と一緒に育てていくもの、という考え方が不可欠です。

ファミリービジネスの理想的な形とブランドマネジメントがかみ合うと、なんか素敵なビジネスができそうだなとワクワクしました。

ちなみに種明かしをすると、訪問したヨーロッパのファミリービジネスは、シャンパンのアンリオ社、スペインマヨルカ島の伝統かつ斜陽だった皮革産業から一家でビジネスを立ち上げた、シューズブランドのカンペール社、ブルゴーニュで一、二を争う規模のドメーヌ、ブシャール社でした。

どの企業も自社のブランドを大切にしていて、やっぱりファミリービジネスとブランドマネジメントは、相性がいいのかもしれませんね。2013-08-24T01-24-46_3


今日はやや間接的なところからブランドマーケティングを見てみました。

この続きとして、ファミリービジネスで考えさせられた、顧客ってどういう存在なんだろう?ということを「今さら聞けない」シリーズにまとめようと思います。

(つづく)

れ。

 

関連記事:
‐「で、ブランドマーケティングってなんだろう 3 老舗と人格」