日常生活の中に宗教を持たないことが多い日本人にとって、原理・原則に従って生き方を決めたり、行動や選択の基準にしたりとかいうのは、少し苦手なんじゃないかと思います。 ルールを決めてそれに従うのは得意だし、前後の文脈・状況で判断を変えるのも素早いですが。 まぁ、かくいう私も、のっほほ~~~んと生きてますし。

(と、およそマーケティングとは関係のなさげな出だしになってしまいましたが、もうしばらくおつきあいください。)


さて、ある日、あなたはコーヒーを買いにスーパーに行きました。

ついでに、切れていたコーヒー用の砂糖を買うことにしました。

ここで問題。

コーヒー用の砂糖はどこに置いてあるでしょう?

(あなたが、買い物慣れしていて、その店のことをよく知っていたら迷わないでしょうが。)


答え: 味噌・塩のとなりに置いてあります、たいていの場合。 (と、うそを書いてはいけないと思い、昨日、家の周りにある大手スーパー5軒まわってきましたが、例外なく、すべてそうでした。)

コーヒー豆や紅茶、ココアなどが売っているところにはないことが多いのです。売り場

紙おむつは生理用品とペーパータオルとティッシュのコーナーにあって、ベビーフードは缶詰のコーナーにあります。
あなたが、もし、「よお~し、今日は気合い入れておいしいパスタを作るぞ!」などと思い立って買い物に行くと、インスタントラーメンの隣で麺をつかんで、鯖の味噌煮の隣からアンチョビとオリーブを取って、ごま油と並んでいるオリーブオイルを選んで、日高昆布の横に置かれたトウガラシをかごに入れ・・・。 もちろんニンニクは野菜売り場です。 あ、料理用のワインを買わなきゃ! と、料理酒とみりんの間をどれほど探しても、ありません。 おそるおそる店員に聞くと、「あ、お酒のコーナーですよ(あたりまえじゃないですか)。」と言われます。 え? さっきビール買いに行ってたのに・・・。 小振りの店でも数百メートル歩かされます。 郊外型の大きなお店なら、かなり激しい運動になりますよ。


ところで、多くのお店には「社訓」とか「社是」とかいう類のものがあって、裏の事務所の壁、
Faxの上あたりか、配電盤の横あたりに貼り付けてあります。 曰く「当店はお客様本位の経営に努めます。 お客様にとって、楽しく便利にお買い物をしていただけるよう心を尽くします。」とか。

そして、今日もお客様は店内でいい運動をさせられているのです。


どうしてそうなっているのか? それは、お店や問屋さんにとって在庫の管理がしやすいからです。 店の担当は売り場ごとに決まっていて、コーヒー売り場の担当者と調味料(砂糖)売り場の担当者が同じとは限らないのです。

つまり、全く「お客様本位」ではないわけですね。 売り場と在庫の管理という、売り手本位の店作りなわけです。

社是に書いてあるのなら、それを原則として、ちゃんと行動に反映させなければ意味がない。 あるいは、逆に「売り場と在庫の徹底管理と効率化によって、1円でも安く提供する」とか、「利益向上を最優先にがんばる」と書くべきです。


さてさて、すっかり説教臭くなってしまいましたね。

多くの企業・会社・お店には、社是や社訓、行動規範があり、また、創業者の教えみたいのがあったりします。 そして、ブランド・マーケティングの世界には、ブランド・エクイティーとか、フィロソフィーとか、ストーリーとかがあります。

一貫したブランドイメージを構築しつつ、成功を収めているブランドの多くは、驚くほど忠実にこれらの原則に則した行動=マーケティングをとっています。 ルイ・ヴィトンは、いついかなる時もルイ・ヴィトンらしさを失わない、けど、いつもファッショナブルです。 ハーゲンダッツは、いつでも「オトナが溺れるアイスクリーム」であり続け、でも、楽しい季節限定の味も味わえます。


しかし、冒頭のお店の話と同じように、ブランド・フィロソフィーは壁に貼られて日焼けしているだけで、使われていないことも多いのです。 世の中の情勢、競合の状況が厳しいから、(いつか、ひまなときにはやってみるけど)今はそんなことは言ってられない、と担当者が考えていることもあります。 あるいは、お客さんのいいなりになって、あっち行ったりこっち行ったり。

そのくせ、多くの食品雑貨小売店チェーンと同じように、みんな「これじゃぁ、どこも同じだ」と悩んでいます。

社是や社訓、創業者の言葉、ブランドのエクイティー、フィロソフィー、歴史などには、時代が変わっても必ず守るべき教訓やら原則やらが、必ず書いてあります。 あるいは、書いてなくても、その裏に必ずそうしたものが潜んでいます。

たまには、壁から外して、ホコリを払ってあげましょう。

 生き方だけでなく、マーケティングや経営も、「原理・原則に従って行動を決める」というやり方に少しこだわってみてはいかがですか。

え? スーパーで買い物がうまくなるこつ、ですか?
どこの問屋さん・業界から仕入れているか考えると、すぐ見つかるようになりますよ。 紙製品は紙問屋、乾物は乾物問屋、食用油は油問屋・・・。
やれやれ・・・。


お。