ブランドマーケティングをすることは当たり前。
とまでは言いませんが、最近、その必要性や重要性が見直されている気がします・・・。
でも事実、マーケティングもままならないのに、ブランドマーケティングを導入しようだなんて余計難しいんじゃないか?と内心思っている人も少なくないはず。
私も実際にマーケティングの仕事をしていて、いちいち、
「ブランドにとってそれはどうなのか?」とか、
「ブランドエクイティを壊すようなプランだからやめてほしい」とか言われて、
「ブランドのせいで仕事がややこしい!」と思った時も、正直、あります。
でも最近、「ひょっとしてブランドマーケティングって、マーケターの仕事を簡単にしてくれるのかも?!」と気づいたことがあったので、「なんでブランドマーケティングをやらなければいけないのか?」という根本的な疑問をこの際、毒出ししてみます。
もともと、えとじや店主は以前より、ブランドをもつことによって「なにをやるべきか、やらざるべきかが」が明確になる、とお伝えしてきました。
(過去記事: 「で、ブランドマーケティングってなんだろう 2 原則か文脈か」、とか、「えとじやさんによってなにがおこったか」とか。)
逆に言えば、ブランドをもっていなければなんでもかんでもやらなければいけないような気になってきます。 特に”お客さんのため”とか言われたら、ノーとは言えなくなってしまいますね。
ブランドを持つことで戦略が立てられ、ブランドエクイティに貢献できること、できないこと、の判断ができますので、仕事が整理されていくし、目的がはっきりすれば仕事の生産性も上がります。
今日は、ブランドによってやるべきこととやる必要のないことが判断できる、に加えて、マーケターにとって頭を悩ませる「差別化」について、ブランドをもつことでその仕事がラクになるね、という話をします。
私が、そう気づいたきっかけは、カジュアルファッションのブランドである、Right-on(ライトオン)のブランディングについてある人の考察を聞いたことでした。
そもそも私は、ライトオンへあまり興味や事前のイメージもなく、「ユニクロによって駆逐されたイケてないお店(ブランドですらない)かな」ぐらいで思っていました。 ただその後、テレビCMで蒼井優を使った新しいキャンペーンをしているのに気づきましたが。 なんだか、「earth music&ecology」を標榜している他のファッションブランドの焼き直しのような広告だなぁ、という感じを受けましたが。
ということでライトオンは、今でもブランドエクイティ的には強くないし、たぶん消費者に特別な愛着を持たれているブランドではないだろうブランドでしょうが、ブランドマーケティングの考え方って有難いなあと思ったのは、その人が「ライトオンも、例えばこういうブランドになれれば輝くかもね」と考えた独自のアイデアにあります。
(以下、現実のライトオンの戦略とは異なる、あくまでも思考実験的な考察です。 実際のライトオンの戦略よりこっちのほうが優れているよ、とかいうことではありません。)
安くて、カジュアルなテイストの洋服がそろっていて、ショッピングモールの中の便利な場所にお店があって、子どもから大人までのタイプが用意してあって、そこそこ流行のスタイルが置いてある。
この特徴からいくと、ユニクロとライトオンにほとんど違いはありません。 むしろユニクロの方が、原宿のフラッグシップストアを中心にコラボ商品とかも多くておしゃれなイメージがあるくらい。
厳密に違いを言うと、ユニクロよりライトオンの方が価格帯は高くて、その分、生地も少ししっかりしていて耐久性があるらしいです。
確かに、ユニクロの服って何回か洗濯しただけですぐに伸びたり色落ちしたり。 ライトオンは、もともとジーンズを中心にラインナップしてきたので、そういう洋服が傷みやすそうな状況をある程度想定してきたというのもあるようです。
そこでその人は、ライトオンの耐久性の良さって、家族にとってはとても大事だと気付きました。 小さな子どもがいる家族は、子どもが遊びまわる環境でも快適に着用できる洋服を望んでいるし、転んだりアクティブな動きにも負けない耐久性のある衣服は、子どもも親も重宝します。
耐久性があり、かつお手頃な価格帯でカジュアルテイストの洋服を売っているライトオンは、まさに、めいっぱい子どもを遊ばせてあげる、一緒に子どもと遊べる洋服だ、というのです。 子どもの成長に欠かせない遊び、特に体をめいっぱい使った遊びを心置きなくさせてあげられる、親にとっても心置きなく一緒に遊ぶことのできる洋服を売っている店なのです。
マーケティングは常に「差別化」を求められますが、日本の企業のマーケティングは「製品が高品質である」ことを差別化だと考える傾向が強いみたいです。 ライトオンがユニクロよりも「耐久性がある」と言っている内はまさにそう。
そこでの差別化を求められているのであれば、マーケターの仕事ってまさに自分の首を絞め続ける仕事だなと思います。
「高品質」で差別化を永久に維持するのは、本当に難しいです。 これは技術的に不可能でしょう。 その上、お客さんにとってその差別化がずっと意味のあるものと認識されるのはその何倍も不可能に近いです。 これは人間社会的に不可能。
後者の点が特に、日本の企業・マーケティングの慢性的な病気? 事実、パナソニックやソニーだって製品性能で言えばサムソン製品に負けないのに、XX万画素とか言われても消費者にとっては「で?」くらいに意味のない差別化に陥ってしまっています。
「耐久性」勝負の次元から、「体を目いっぱい使って、子どもも親も一緒に心置きなく遊ぶことを応援する」という次元に視点を移してみると、差別化ってそれほど難しくない気がしませんか?
ユニクロに対しての「違い」となりそうなキーワードがたくさん見えてきます。 ”アクティブな家族”、”小さい子どもがいる家族”、”子どもの成長のためにたくさん遊ばせてあげたいと思っている親”、”子どもと一緒に遊んであげたいと思っている親”、“子供の健やかな成長が一番”、“元気に遊ぶ子どもを見るのが、親としての喜び、家族の大切さを感じる瞬間”などなど…。
ライトオンを例えばこういうブランドとして捉えることによって、差別化の可能性が豊かに広がり、お店に来てもらいたいお客さんに、自分たちは何をしてあげられるか、アイデアが生まれると感じました。
ブランドを持つことで、やるべきこと、やらなくてもいいことが、明確になるだけでなく、競合に勝つ可能性が広がり、差別化のアイデアが出てくるなんて、マーケターの味方です!
最後の最後に、ライトオンはジーンズから派生したお店だと上に書きましたが、ジーンズショップないしはジーンズを生業として発展したブランドって、なにかしらそのジーンズカルチャーを背負っているそうです。 (以下、店主の受け売り。)
いわずもがな、ジーンズはもともと労働者階級の洋服ですから、その根っこには反骨精神や反体制への姿勢があります。 そうやって見ると、ユニクロってもともと制服を作っていたメーカーだったので、それってジーンズショップと真逆。 むしろ体制側が着る洋服なんですよね。
確かにユニクロってみんなに愛されることを良しとするし、どことなくなんとなくすべてが優秀で棘がない。 ジーンズショップのような「出自にひとくせある」ブランドって、そもそもブランド自体に価値観が内包されていて、ブランドマーケティングしていても面白いと思います。
では、関連記事を:
‐「で、ブランドマーケティングってなんだろう 3 老舗と人格」
‐「で、ブランドマーケティングってなんだろう 2 原則か文脈か」
ちなみに、途中の、蒼井優キャンペーンに興味を持ってしまった方、「また大手広告代理店にだまされて。」のカテゴリはすでにご愛読いただいていますでしょうか? 特にこの記事は必読。
‐「『マーケティング』が犯した罪~『お願い、認知だけでいいの』。」
れ。