あなたは、原因不明の腹痛で、近くの病院へかけこんだとしましょう。 

 


<診察>

先生  「うーん、なんだろうね。 原因、はっきりしないね・・・。

でもちょうどよかった。 この前、最新の検査機械が入ったところだから、

それで調べてみようか。」

あなた 「それはどんな機械なんですか?」

先生  「いや、実は私もまだよく把握してないんだけど、

これまで分からなかったようなこともわかるって勧められてね。

試しに使ってみよう。」

あなた 「…そうなんですか。

特に副作用とかないですよね?? 痛くないですか?」

先生  「ないない。 大丈夫よ。 ただちょっと検査に時間かかるけど。

頑張ってね。」

 


<検査後>

先生  「やっぱり異常値はないねえ。 ま、しばらく様子見といてください。

お薬出しておきます。」

あなた 「え? そうなんですね…。」

 


<お会計>

受付  「18,000円です。」

あなた 「ええっ? そんなに高いんですか? (何も分からなかったのに?)。」

 


こんな病院、実際にあったら困りますし、2度と行かないですよね。

普通、あなたの病状から、原因になりそうなこと(仮説)をリストアップし、それに見合った検査をするはずです。この検査機械も、おそらくすぐれた機械なのでしょう、しかし、「あなたの腹痛」には不適当だった。

「新しい機械が入ったから、とりあえず使ってみよう。 おもしろそうだし、何か出てくるかも」なんて、本末転倒ですよね。

 


     ~~~~~~~~~~~~~

 


新しい手法さて、まだ一応続いていました、「役に立たない定量調査」シリーズ最終回です。

今回は役に立たない新しい調査手法、の巻。 (ちょっと改題。)

 


リサーチの世界は、いつも「新しい調査手法」であふれています。 実は中身は今までと変わらないじゃん、というのもあったりしますが、IT環境の劇的な変化も手伝って、リサーチ会社さんたちの「新製品」は続々と登場しています。

近年流行りの調査といえば何でしょう。

やはり、FBやTwitterなど使ってのリサーチ、MROC、エスノ、ニューロ、ビッグデータ、などでしょうか。

 


リサーチ担当の方はもちろん、マーケティング、製品開発、広告などのコミュニケーションに携わる方でしたら、これらについて一度は聞かれたことがあるでしょうし、きっと調査会社さんより勧められた経験もあるでしょう。

また、テレビやビジネス書で、「今、こんな手法がある」というのを見た途端、調査のことをよくわかっていない上司から、

「あんなのいいんじゃないか、やってみろ」

と、言われた経験もあるかもしれませんね。

 


で、その後、必ずと言っていいほどよく聞くのが、

「どんなものかとやってみたんだけど、結局、よく分からなかったんだよね~。」

(本当によく聞きます。)

 


皆さんご存知の通り、これら新しい手法は基本的にお値段も高いです。 グルインやネット調査のようにまだこなれてませんから。

限られた予算から高いお金を出したのに使えなかった、では勿体無いですよね。

 


新しい手法は面白そうに聞こえます。 色んな人が勧めてきます。

でも今まで分からなかったことや、大ヒットするようなアイデアは手法を変えただけでは出てきません。

テレビや本ではスゴイことが起きているように描かれますが、それは手法を真似ても起きません。

残念ですが。

 


しかし、新しい手法は、正しく使えば、新しいヒントや気づき、視点・視野を与えてくれます。 また、その手法がきっかけになって、あとから考えれば、どうしてそれに気づかなかったんだろうと思うような、でも、新たなインサイトに出会えることもあります。

そしてなにより、新しい手法に取り組むことは非常に楽しい。

 


ということで、新しい手法に初めて取り組む場合は、必ず次の点を確認しましょう。

 


①何のためにするのか

その調査の目的は何か。

仮説を作るのか、仮説を検証するのか。

どんな結果を想定しているのか。

その結果を得て、何をするのか。

 


②手法の妥当性の確認

調査目的のために、この手法は最適なのか。

同じ結果を得られる、別の、確実な・経験のある手法はないか。

 


③その調査手法についてしっかりと理解しているのか

手法の優れた点、不向きなことを理解しているか。

注意すべき点を理解しているか。

 


④丸投げしない

調査会社に丸投げをしない。

調査目的を調査会社ときちんと共有する。

どんなことがしりたいのかも具体的に共有する(もしくは自分で設計する)

分析・結論を丸投げしない(もしくは自分で分析する)。

: 丸投げしておいて、「使えない結果だった」というのはダメ。

 


⑤少しの失敗は覚悟する

自分たちも経験値がないので、試行錯誤は覚悟する。

いきなり、非常に重要な調査・プロジェクトに用いない。

パイロット調査として位置づけるのは有効。

(期末のお金が余った時に試してみる、とか?)

 


⑥番外編 - そもそもなんでその上司は「やってみよう」と言ってるのか

漠然とした期待しかなくて、なんか出てきたらラッキーと思っている⇒①に戻る

耳にしたケースの状況や課題が似ていたので、もしかしたら、と思っている⇒②に戻る

なんか、かっこいいよなぁ、と思っている(だけ)⇒③・⑤に戻る、または無視する

 


(なんだかいつも同じようなことを書いてますね…)

 


 


決して、新しい手法を勧めていない訳ではありません。 実際、行っている調査もたくさんありますし。

ただ、調査のための調査、無駄な調査はしても仕方ない。

結局のところ、業務上の目的にかなったベストな手法を選ぶべき、ということですし、新しい手法があることで、その選択肢に幅ができた、という理解をすべきなのだと思います。

少なくとも、もうけたのは調査会社だけ、というのは、避けたいですから。

 


K。