お客さんがそのブランドを選ぶのはなぜ? 競合のブランドが人気なのはなぜか? どうしたら自分のブランドを好きになってもらえるか?

その思考が基本となって、ブランドエクイティやマーケティング戦略がプランニングされていきます。

 

なぜこの商品をお客さんが選ぶのか?のシンプルな問いに、お客さんや市場や競合のデータを集めて、分析して、どうすべきか、行動を導き出せばいい。

こうやって書くと簡単そうに思えますが、やってみると意外と迷います。 人によって意見が違うと議論になって、なかなか方向性が一つにまとまらない。

特に、数字の分析結果がなぜそうなのか、と数字の裏側にあるお客さんのインサイトを推し量る段階になると、人によって得意/不得意があるのを感じざるを得ないのではないでしょうか。

しかも、難解な定量的データを読み解けるくらい頭がイイ人だからといって「インサイトを推し量る」ことが得意とはかぎらないし、むしろ余計にだれも理解できない複雑怪奇な結論が出てきたり。

だからといって、「センスがある」・「センスがない」で片づけておくわけにもいかないし・・・。

 

では、どんな考え方が「マーケティング向き」なのか?について整理して、もし不得意だなと感じるのであればどうにかならないものか、もしくは得意であればどうすればほかの人にもやり方を説明できるのか、と考えるのが今日のお題です。

何人かはお気づきかもしれませんが、思考の癖・パターンを直すことは難しいです。 かもしれませんが、自分の思考の癖を見直したり反省するヒントになりそうなことを書きたいと思います。

 

IMG_1567rまずは極端な例にはなりますが、「マーケティングからはちょっとズレてる?」思考方法を確認してみましょう。 ブランドエクイティの大前提となる、お客さん、消費者理解の例で確認します。

登場人物は「いろは君」。

いろは君に、好きなブランドを選んでもらって、その消費者理解に基づいて、どんなブランドにすればお客さんに好きになってもらえるか考えてもらいました。

いろは君は野菜ジュースYZを選び、なぜ人は野菜ジュースを飲むのか、このように考えました。

 

野菜ジュースは飲み物というカテゴリに属します。

飲み物の便益は、喉の渇きを癒すという本質的な便益と、その上で、どんな味の飲み物がいいとか、プラスアルファの副次的な便益で選ばれる。


そのプラスアルファ部分で、体にいいものを飲みたいというひとがいる。

健康的な飲み物のくくりには、野菜ジュース、青汁、豆乳、お茶という選択肢がある。


特に野菜の成分を摂りたいひとが、その選択肢の中から野菜ジュースを選ぶ。


野菜ジュースには「野菜の成分」をアピールすることがブランドにとって重要だ。

 

と結論を導き出しました。

たとえば、「野菜ジュースブランドYZには、野菜成分が350mlも入っています。 これは成人が一日に必要な量の半分!」とコミュニケーションするアイデアが考えられます。

 

「論理的な分析」という観点から見れば、非常に正攻法です。

なぜなら、最初の問題「なぜ野菜ジュースをお客さんは買っているのか?」に対して、喉が渇いていて、せっかくだから健康的なものを飲みたい、健康と言えば野菜だから、その成分を効率的に飲み物で摂りたいという風に、「野菜ジュースが飲みたいのは、飲み物の中でも、”野菜の成分が入った飲み物”を飲みたいから」とその理由を特定していきました。

セグメンテーション(市場細分化)に基づいて、飲み物というカテゴリから、健康的な飲み物というサブカテゴリ、その中でも野菜成分配合の飲み物というセグメントを導き出していく、マーケティングの教科書に書かれていそうな大変論理的な方法です。

 

しかし、マーケティングやブランドマネジメントとしてうまくいきそうか、と考えると、素朴な疑問を抱いてしまいます。

「果たしてお客さんはそのように考えているのかな…?」

特に最後のアイデアを見ると若干不安を覚えませんか? 「野菜ジュースブランドYZには、野菜成分が350mlも入っています。 これは成人が一日に必要な量の半分!」とコミュニケーションして、野菜成分の多さだけでお客さんはそのブランドを欲しいと果たして思ってもらえるか。

 

では、なにが「ズレてる」のか確認してみましょう。

 

まず、いろは君が気をつけるべきことは、お客さんは人間であること。

人間は、ロボットのように分解して理解できるものではない複雑な存在です。 これには二つの意味があります。

ひとつ: 「欲しい」という気持ちは、なにかひとつのボタンを押せば自動的に起こるものではないし、ましてや「買う」行為までたどり着くにはもっと複雑な状況をくぐりぬけなければいけません。

ふたつ: 「XXXだから買いました(もしくは欲しいです)」という回答は、常に「過去を振り返った」ときに口にする因果関係であって、そのお客さんの未来の行動を約束しているわけではありません。

いろは君の消費者理解は論理的だけど、実際の消費者は非論理的/感情的だからかみ合っていない、ということではなく、人間の行動の理由を、なにかひとつないしは特定の要因に求めようとしても無理があるということです。

一層面倒なのは、例えばインタビューなどをすると、お客さん自身も自分の行動の理由を振り返って、「XXXだから買いました」、「XXXというところが好きです」と、因果関係に結びつけてわれわれマーケターに説明してくれる。

そして、その説明を鵜呑みにしてお客さんが買う理由を分かった気になってしまい、野菜ジュースを飲みたい人に「野菜ジュースには野菜の成分がたくさん入っていますよ」とアピールする堂々巡りのコミュニケーションから出られなくなってしまいます。

 

ではどうすればいいか?

始めにも書いたように思考のやり方を180度変えるのは大変なので、ここでは、いろは君の意見を活かしながらどうやって素敵なブランドマーケティングにつなげられるかという解決を目指します。

そのヒントも、「お客さんは人間である」に隠されていると思います。

仮に野菜ジュースを飲む理由として「どうせなら飲み物で野菜を手軽に摂りたいから」とお客さんが答えたとしましょう。

でもそこで、いろは君は納得しないように・・・。

 

もしかしたらその人はタバコを吸っていて、タバコなどのせいで体内で破壊されてしまうビタミンを少しでも野菜ジュースで補おうと思っているのかもしれないし、一人暮らしは野菜不足になりがちだから野菜ジュースぐらいは飲んでおきなさいよと実家のお母さんに言われた一言をなんとなく実行しているのかもしれませんよね。

ダイエットをしていれば、野菜ジュースは小腹がすいたときの必殺技、ということなのかも知れません。 ダイエット中だからおやつは厳禁。 でも野菜ジュースは飲み物だけどちょっとドロっとしていてお腹の足しになります(おススメ!笑)。

リフレッシュに飲みたいのがお茶よりコーヒーだったりしますが、刺激が強い飲み物なので、二回に一回は野菜ジュース、というひともいるかも。

これは店主の「思いこみ」的意見ですが、ジュースなのに甘くない(実際は結構糖分高いけど)野菜ジュースを飲むのは「大人」を感じる瞬間という意見もあるようです。

 

「野菜成分が入っている」だけで野菜ジュースが欲しい気持ちにつながるわけではなく、そこに自分の嗜好や生活への反省や、家族との関係や、こんな生活を送る人になりたいといった理想的な自分像みたいなものなどが関わって、行動につながります。

上記の想像だけで見ても、「野菜成分が入っているから飲んでいる」人の中に、「マイナスをゼロにする」ために飲んでる人(喫煙者のひとや食生活が乱れた人にとっては罪悪感を慰めてくれる)と、「ゼロからプラス」へ捉えている人(ダイエットにはいいことした、刺激のすくない飲み物、大人の飲み物)という二つのグループでは、野菜ジュースの存在感って違うと思います。

 

さらに、いろは君に「具体的にこのように考えてみればいいんじゃない?」というのを加えて提案しておきましょう。

 

「XXXだから買いました」といった人は、それがなければ買ってなかったかどうかを考えてみる。

その場合、ほかに理由を見つけてあなたに買った理由を説明してくれたのではないですか? (決して本人に、「それがなかったら買いませんでしたか?」とは聞かないように!笑)

「いや、そんなことはない。」と思っている内が一番危ないかもしれない・・・。 なぜなら、人間の行動に「絶対」は存在しないから。

「もしかしたらOOOという状況なら違ったかもしれない」と冷静に思える、「もしXXXがなければ、OOOという理由で買ったと説明するかも」と思えたら、本当にお客さんのことを理解できているのかもしれません。

要するに、「XXXだから買いました」と、その人は答えたのかまで、自分で想像できるかが大切なのだと思います。

 

または、「XXXだから買いました」といった人にとって、買ったものを消費した(食べた/飲んだ/使ったなど)とき、どんな気分になったと想像できるでしょうか?

そのとき、「野菜成分が体に入ったぁ」と思っているでしょうか? 野菜ジュースくらいだとわざわざ感慨深い気分にはならないでしょうから、またお客さんに聞いてもすぐに答えは出てこないかもしれませんが、「これでタバコ二本分くらいは体にいいことしたかな」とか「そういえば野菜ジュース飲み始めたのって一人暮らしし始めてからだな」という話であれば、野菜成分を摂りたいとなぜ説明したか、に少し手を伸ばしていると思います。

 

ここからの、こうしてみるといいよという手引きは、過去に店主や番頭さんがたくさん記事にしてくれていたりします。

今日の記事は、その手引きを効果的に活用するために、「なぜズレてると言われてしまうのか?」、「なんかうまくいかないのはなぜ?」について理解の助けになればと!

 

れ。

 

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