無駄すぐアップデートするといいつつ、(やはり)とっても遅くなりましたが、前回の続きです。今日は「役に立たない 市場把握のための調査」の巻!


ところで、私個人としては、前回取り上げた製品開発関連の調査よりも、市場理解の調査の方がずっと好きですし、意義も大きいと思っています。が、どうも上手くいっていないケースが多いようです。 ここでは習慣調査やイメージ調査など、またそれらの定点調査を指します。

では今日は初登場、調査部新入社員のSさんが遭遇した「よくある状況」です。

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洗剤メーカーX社に入ったSさん、調査部に配属になって初めて消費者調査を担当することになりました。

担当するのは、年に一回行っているお洗濯についての習慣・意識調査。洗濯をどのくらいの頻度でどのように行っているのか、どの洗剤を使っているのか、またそれぞれの洗剤のメーカーや銘柄についてのイメージなどを、300人の主婦にアンケートで聞く調査です。過去のデータと比較するので、質問項目は基本的にはいつも同じ。 調査デビューにはもってこいです。

とはいえ、なかなか高額な調査です。 Sさんは大きな仕事を任され、張り切って取り掛かり始めました。

まずは対象者選定です。これは簡単。主婦を年代別に割り付けて、と例年通り。次に去年の質問項目を見てみると、必要な項目は一通り網羅されているように見えます。 このままでいいかな、と思いましたが、これではせっかくやるのに自分なりの工夫がない気がして、先輩社員の開発担当Aさんに相談してみました。

Sさん - 今度、習慣調査を担当することになったんですけど、どんなこと聞いたらいいでしょうか。少し工夫したいと思っているんですが。

Aさん - もうそんな時期なんだね。 そうだ!今僕の担当するスーパー洗剤のことでちょっと聞きたいことがあるんだけど、質問足してくれない? 後でメールするからさ!

Sさん - 分かりました。 全体についてはどうですか?

Aさん - いつもと同じでいいんじゃない?

Aさんに言われた質問を入れてはみたものの、他にいい考えもなく、Sさんは去年の調査を基に調査を実施しました。そして後日、結果をまとめ、膨大なレポートも完成しました。 Sさんは結果を社内プレゼンする日を決め、Aさんにも早速資料を送りました。 ところが…

Aさん - Sさん、この前送ってくれた資料だけどさ、悪いんだけど、僕の質問の結果のとこ

ろだけ送ってくれない?  で、レポートじゃなくてクロス集計したいから数字も頼むよ!

Sさん - …分かりました。 でも他の数字は必要ないんですか? たくさん資料もデータもありますが…。

Aさん - うーん、一応質問票を確認したけど、他に使えそうなデータ、ないんだよね。 微妙に知りたいことと違うんだ。 だからいいよ、ありがとう。

Sさん - そうなんですね…。 でもそれだったらもう少し使えるようにしておいたらよかったですね…。

Aさん - いやいや、この調査は毎年やってて同じ質問で、って決まっているんだろう? それを変えてしまうと比較できないしね。 僕は必要な事を聞けただけラッキーさ。


どうもしっくりきません。


あくる日のプレゼンでのことです。

Sさんは張り切って発表をしましたが分量が多く、どうしても一方的に話すだけになってしまいました。 そのせいか聴講者の盛り上がりも今ひとつ。 気になったSさんは参加していたマーケティングのBさんに感想を聞いてみることにしました。

Sさん - 昨日のプレゼン、どうでしたか?

Bさん - ああ、お疲れ様でした。 なかなか楽しかったよ。

Sさん - よかった! ところで、あの、実際日々の業務に役立ちそうですか?

Bさん - うーん、正直、面白いなと思ったことはいくつかあったけど、業務に使えるかとなると別かな。

Sさん - …やっぱりそうなんですね。 Aさんにも似たようなことを言われて。

Bさん - もしかすると重要なことを示唆してるデータがあるのかも、とは思うんだけど、こういうのあまり詳しくないし、結果を聞いてもじゃあどう使ったらいいのか、っていうのは分からない、という方が正しいかな。

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さて、習慣・意識調査は比較的よく行われている調査だと思いますが、その活用度は果たしてその費用や手間に見合ったものになっているでしょうか。 特にマーケや開発の人であれば、製品開発絡みの調査では一問一問念入りに読み込むのに対し、この手の調査では自分に必要そうなところだけちょいちょい見たり、都合が良いようにクロスして見たり(そしてそれは往々にして少ないベースサイズとなる)といった、「あれば便利」な程度で使われているのではないでしょうか。

どちらかというと、XX白書、的な記録としてファイルされているケースが多そうです。 (だから年々縮小されたりするんですよね。)

こうなる理由はいくつかあります。


   そもそも調査することが目的であることが多く、調査後どう使うのか曖昧。

   質問票が固定であることが多く、その場のビジネスニーズに直接答え(られ)ない。

   結果は数字の羅列で、その意味するところがわかりにくい。 (仮説がないので、数字に隠れている「真実」(以前のブログ参照)までは示してくれず、「で?」となる。)

   質問数もレポートも量が膨大で見る気を無くす。

   定点調査の場合、実はトレンドで少し追ったくらいで差が出るようなものはさほどなく、大抵が「去年と同じ」というつまらない結果になる。


ではどうすれば、「役に立つ調査」になるのでしょうか。


   まず、調査目的を明確に、ビジネスにどう貢献するのか、設定する。

   その調査から明らかにしたいこと、すべきことを事前に部署間でリスト化し、共有、それらに見合った質問票かどうか、確認をしておく。

   レポートは、数字をただ表やグラフにするのではなく、何が明らかになったのか、という視点で上のリストに沿って結果をまとめる。 それ以外のものは添付資料にしかならない。 (質問1から順にまとめたり、何十ページにもなるパワポを作ったりしない。)

   できることならレポートの時点で、調査以外からの資料、データも引用して仮説の検証もしておき、示唆することまでまとめておきたい。 (結果プレゼンの後、検証やフォローアップがされずに放置されることがなくなる。)

   定点調査の場合も、惰性で調査せず、目的が何かを毎回確認する。

   本当に全ての質問を毎回聞く必要があるのか検証する。 一年に一度きくべきもの、4年に一度でいいもの、など項目によって振り分けられないか、検討する。

   空いた分量を使って、その時知りたいこと、例えば拡大しつつあるマーケットについて、など柔軟に質問を設計する。 つまり、継続して聞くべきことと、柔軟に変えていくべきことでバランスを持つ。


こんなところでしょうか。 イマイチ使いきれていないな~という方、もったいないですよ。ぜひ有効活用してくださいね!

K。