文系マーケッター飲食店が長くやっていくためには、常連さんを増やさないといけない、というのは、よく耳にすること。 リピーターさんがビジネスの、特に利益の大半を支えているというのは、飲食店のみならず、多くのビジネスで見られる傾向です。 一般に、「やすものづくりの薄利多売」ではないビジネスにおいては、リピーターさんこそがビジネスを支えているわけですよね。

とてもわかりやすい、日常の感覚にもなじむ原則です。

ところが、前職でマスマーケティングのコミュニケーションをやらされていたころ、よく、「マーケティングは一にも二にもトライアル」、ともかく知ってもらって(認知)、使ってもらいさえすれば(トライアル)いいんだ、的なことを言われたものです。

もちろん、継続的に購入してもらうための施策なんかもあるにはあるんですが、入ってくる人の数を大量に確保しないと始まらないビジネスにおいては、どうしてもトライアル重視になってしまいます。 特に、洗剤やヘアケアなど、単価が高くなくて、ブランドスイッチが年中起きているカテゴリで仕事をしているとなおさらです。

ビジネスというのは、多くの場合、「右肩上がり」を要求されているわけで、その意味でも、新しいお客さんに入ってきてもらわないと、という、強迫観念は強い。

というわけで、「ともかく、今知らない~使っていない人に、知ってもらって使ってもらえ、そのためにすべての知恵を絞れ~」が、日常の仕事(とその心構え)になってしまうわけです。

文系マーケッターにとって、その主な業務は、例えばパッケージデザインだったり、TVなどの広告だったり、プロモーションの企画だったり、PRや口コミだったり、あるいは店頭でのコミュニケーションだったりします。

そんな環境で、上述の「使命」のもとで日々を過ごすと、忘れてしまいがちなこと、それが、「私のビジネスは常連さんが支えてくれているんだ」という感覚、です。

つい最近、20年以上使ってきた日用品ブランドに別れを告げました。

ある意味不器用な製品ですが、特徴がはっきりしていて、好きでしたし、何より、そのブランドの考え方みたいのが大好きで、20年以上、他のものを使うことなど考えたこともありませんでした。 たかが日用品、しかも他人に見られることもないものですが、それだけに生活に近いところにあるものなので、愛着もあったし、もしかすると使い続けている自分に誇りみたいなものも持っていたかも知れませんね。

最近になって、ときどき、「ん??」と思う広告を見ることが増えてきて、あるいは、どうやら広告予算そのものが少なくなってしまっているのかも、と思うこともあったり(このあたりは「普通の人」ではないですね・・・)。 なんとなく、さみしい気持ちではありましたが、それでもお店に並んでいる限り買い続けてきました。

しかし、先日、気付いてしまったんです。 その製品が、もう私の好きなブランドではなくなってしまっている、ということに。 おそらく「改良」された、ということなんだと思いますが、そのブランドにあるまじき製品の変更で、そのことに気付いた時は信じられませんでした。 まさか、と。 ちゃんとした会社なんだし、突然意味もなくそんなことをするわけはないだろうから、私がすでに「いまどきの顧客」でなくなってるんだろうなぁ。 そういえば、広告とかもちょっと変だったよなぁ、最近。

「そっか、裏切られたんだ。 もう私は大事なお客さんじゃないんだ。 世の中変わったんだ。」

 

で、今、新たなブランドを探す旅に出ています。 いろいろ買ってきて試して。 ま、それはそれで楽しいです、はい・・・。 ドラッグストアで、ちょっとわくわくしてみたり。

知ってもらい、試してもらうために必要な努力は大変なものです。 簡単なことではありません。

しかし、やっと試してもらっても、気に入ってもらえなかったり、途中で気に入らなくなったりしたら、すぐにいなくなってしまいます。 ましてや、大きな変化が「裏切り」のように働いてしまうと、その人はおそらく戻ってきてはくれません。

マーケティングって、いくら魅力的なコミュニケーションで人を誘ってみても、その提供する製品やサービスがちゃんと満足してもらえる考え方と特徴と基本的性能を持っていないと成り立たないし、そのブランドの考え方や思想、やらないと決めていることなどを行動と製品(サービス)で示していかないと成り立たないんですよね。

やっぱり、マスマーケティングにおいても、支えてくれてるのは「常連さん」たちなんです。

P社のような、理系マーケッターが山ほどいる会社で仕事していると、こういうの忘れてたりするんですよね。

さらに、目の前のトライアルさえ取れれば何をしてもいいんだ、みたいになってしまって、文系マーケッターが得意なはずのブランド作りを忘れて、業務遂行系マーケッターになってしまってたり。

もんのすごい当たり前のことですが、もしかしたらちょっと忘れがちかも、と思って、書いてみました。

お。