皆さん、調査、やってはみたけれども役に立たなかった、という経験はありませんか?

実はこれ、残念ながら大変よく耳にする話で、会社によっては「調査なんて当てにならん! するな!」というところも少なくないようです。

よくあるパターンはいくつかあるのですが、これまで定性調査については書く機会がありましたので、今回から「役に立たない定量調査」と題し、

① 製品・コンセプト開発調査

② 市場実態把握のための調査(CS、定点、習慣など)

③ 代理店・調査会社おまかせの調査

について、例を挙げていきたいと思います。

今日はから、久々登場の洗剤開発Aさんにがんばって紹介してもらいましょう。


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洗濯用洗剤を開発しているAさん、相変わらず「一本で部分洗いも兼用できるスーパー洗剤 X」を担当しています。 (Aさんの「物語」は、私の過去記事をさかのぼってください。 冒頭の似顔絵アイコンをクリックすると記事が出ます。)

コンセプトがある程度固まったので、今はパッケージデザインに従事しています。 デザインを決めないといけない時期がどんどん押し迫り、焦るAさん。 2通りのデザインの方向性を考えてみました。

  定量1図
デザインの方向性は来週中に決めないといけません。 そこでAさんはインターネットで調査をして、どちらがよいか、調べることにしました。

調査デザインは至ってシンプル。 100人の主婦にPとQを見てもらい、それぞれ使用意向、デザインが好きかどうか、商品イメージについての設問を尋ねました。

結果は次の通り。
 


  定量1表
これを見たAさん、それぞれ良し悪しがあるので悩みましたが、最終的には使用意向が高いPの方向に進もうと、結果をもって部長の所に報告に行きました。

Aさん: 「結果がでました。 使用意向が高いし、汚れ落ちのイメージのよいPに進もうと思います。」

部長: 「うーん、使用意向が高いと言っても大してかわらないなあ。 それよりは好きだという人がQの方が多いぞ。 最近は洗剤もかわいらしいパッケージのものが流行っているし、ピンクの方がいいんじゃないか?」

Aさん: 「なるほど、そうですね・・・。 確かにピンクのパッケージはかわいいというコメントが多かったので気にはなっていたんです・・・。 PとQのいいとこどりをしたらいいですね、きっと。 やってみます!」

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この後Aさんのパッケージはどうなるでしょうか? ・・・恐らく失敗作になります。

これ、実は本当によく見るパターンです。この調査の問題点をまとめます。

どういう結果が出たら、どちらの方向にするのか、結果を読む際の判断基準が明確でない。

Aさんは結果が出てから総合的に見て判断したら良い、と思っていたようです。 最終的には使用意向と汚れ落ちについての評価を判断基準に選びましたが、これは事前に決めておくべきものです。 新しいパッケージデザインが何を目的としているのか、それを達成しうるものなのか、それが評価の判断基準となります。

消費財の場合では、新しいものがより売れるためにデザインを作るわけですから使用もしくは購入意向はまず必ず確認するべきですし、もし、よく落ちる、というブランドイメージを強化したいならそれも基準になるはずです。

この場合の基準は次の通りです。 これは調査の企画・設計書に明記されているべきでしょう。
  ―使用意向が高いこと。 かつ汚れ落ちがよいというイメージを与えていること。
  ―その他は参照データとするが、改善ポイントを理解する助けとする。

ただし、この調査の場合、PとQで比較していますが、PもQもよくない、ということもあります。 その場合は、参考になりそうな既存品や競合品をベンチマークとして入れる必要があり、それも評価基準にはいる必要があります。

判断基準が社内で事前に共有されていない

判断基準が事前に設定されていたとしても、それが主要関係者に共有されていないとややこしいことになります。

この例での部長さんの言葉に現れているように、データの受け取り方は人それぞれです。 10人中10人が「これだ!」と気持ちよく同意できるデータが出ればよいですが、実際にはなかなかそうはいきません。 後になって意見が割れたり、「ピンクの方がいいんじゃないか」といった"個人的な感想"が入ってくると、収拾がつきません。

それぞれの案について、どの部分が強いのか、また弱いのかという仮説がなく、調査結果から想像するしかない。

PとQのいいとこどり・・・これこそよくあるパターンです。 確かによさそうなのですが、まずPとQの何がどうしてよかったのか、また、無くしてはいけないポイントが何なのかを本当に理解できているのでしょうか。 今回は急ぐあまりに定性理解が欠けており、各デザインの"評価"しかありません。いいとこどり、はあくまでAさんが考えるいいところ、であり、それが本当によいのかは実はわかりません。

もう一つ、特にデザインについては、いいとこどりは非常に難しいです。 Aさんのケースですと、ピンクの背景に、「一本でもしっかり落ちる」という売り文句をかわいらしく書く、というようになりがちです。 が、実は青い色や力強い字体が洗浄力のイメージを強化していたりするのです。 結果、いいとこどりのはずが、元の良さが全くなくなってしまうことも少なくありません。

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製品・コンセプト開発における定量調査は、何のためにするのでしょうか。

多くはアイデアや製品の絞り込み、もしくは発売するのに十分かどうか、という評価・判断です。 その判断が明確に、速やかにできるよう、調査は設計されているべきです。 また、結果がよくとも悪くとも、なぜそのような結果になったのか、推測ではなく根拠を持って説明ができるべきです。 そうすると、調査を急いでやったのに、社内議論の方が長引いた、テストではいい結果だと思ったのに売れなかった、(やっぱり調査は役に立たない)ということが避けられるように思います。

ついで、ですが、よくメーカーの担当者さんが分析や社内プレゼン用に必要なデータをかなり時間かけて自ら加工されている姿を目にします。 仮説を作りながら試行錯誤していたり、時間がギリギリだったりと結局大変なのですよね。

仮説と判断基準、判断に必要な分析プランが事前に設定できれば、予め必要最低限のデータ集計を調査会社さんに用意してもらうこともできるはず。

定量調査に振り回されることなく、正しいビジネス判断をするためのツールとして使いこなしてくださいね!

K。