「1本で部分洗いも兼用できる、スーパー洗剤」というアイデアを無事考え(前回のブログを見てください)、いよいよ本格的にコンセプトを作りこんでいきます。
Aさんはこの洗剤のターゲットを「ひどく汚れた洗濯物の多い、30代主婦」に決め、どんな時にこの洗剤が役立つのかを理解するため、もう一度ターゲットの訪問調査をすることにしました。
Aさんがなぜこのターゲットにしたかというと、スーパー洗剤の洗浄力が一番活躍する、ひどく汚れた洗濯物はやっぱり子供の泥汚れや食べこぼし。 そうなると30代主婦が一番このアイデアに響くはず。 ということなんだそうです。 果たしてうまくいくでしょうか。
今回の訪問調査はターゲットの主婦Mさんにお願いすることになりました。 事前にスーパー洗剤を使ってもらった上で、インタビューします。
Aさん: 「こんにちは、「一本で部分洗いも兼用できる、スーパー洗剤」使っていただいてありがとうございました。 いかがでしたか?」
Mさん: 「うーん・・・。 私はもう少し香りがいい方がいいかな。」
Aさん: 「えっ、あれっ? Mさんのお洗濯物、汚れが多いとお聞きしていたので、スーパー洗剤気に入ってもらえるかと思いましたが・・・。」
Mさん: 「そうそう、汚れね、息子の幼稚園の体操服とかね。 でもあんまり変わりないかな・・・。」
Aさん: 「(えっ!絶対こっちの方が汚れをよく落としているはずなのに・・・どうしてだろう???)Mさん、早速なんですが洗濯の様子、見せていただけますか?」
まずは話に出ていた幼稚園の体操服、確かに泥汚れや食べこぼしがシミになっています。 どうするのかな、とみていると、Mさんはささっと洗濯物すべて洗濯機に入れ、洗剤、柔軟剤を入れるとスイッチオン。 「終わりです。」
Aさん: 「あ、これだけですか?」
Mさん: 「え、普通こうじゃないんですか?」
Aさん: 「あ、そ、そうですよね・・・。」
なんだか前回のB子さん(前回参照)とはずいぶん違います。
さて夕方、もう一度乾いた洗濯物を取り込むMさんの様子を見にお邪魔したAさん。
やはりさっきの体操服は汚れが残ってしまっています。
Aさん: 「今日の仕上がりはいかがですか?」
Mさん: 「こんなものかな。 いつもと一緒です。」
Aさん: 「(体操服、気にならないのかな?)今日の仕上がりでもっとこうなったらいいな、ってこと、ありますか?」
Mさん: 「・・・特にないです。」
Aさん: 「(ないのか!)・・・体操服は汚れ、どうですか?」
Mさん: 「ああ、これですね。 しょうがないですよね。 落ちないと思うんです、これは。」
Aさん: 「・・・もしかしたらこれがもっと落ちるっていうことは・・・ないんでしょうかね?」
Mさん: 「えー、わからないです。 でも元には戻らないですよね。 洗濯機で洗ってもだめなんだから。」
話をするうちに、Mさんはどうやら「汚れを落とすこと」というよりは「洗濯機に入れて回すこと」が洗濯であり、それで落ちないものはしょうがない、と思っていることが分かってきました。 また前回のB子さんに比べて「汚れている・汚れを落とさなきゃ」という意識が少ないこともわかりました。
Aさん: 「使っていただいた、洗剤の話に戻るんですが、使っていただいて、洗浄力に違いは感じられましたか?」
Mさん: 「えー、ごめんなさい、わかりませんでした。」
Aさん: 「そうですか(やっぱり)。
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前回のB子さんも、今回のMさんも、同じ30代主婦、子供がいて汚れた洗濯物の多いご家庭です。 しかしどうやらこのターゲット設定だと随分と違った人が含まれてしまうことが、Aさんにもようやく分かってきたようです。
マーケティングの教科書には、必ずターゲットをきちんと決めましょう、と書いてあり、大抵のブランドや製品にはターゲットが設定されています。
しかし、よくあるのが、年齢や性別、職業、子供の有無、といった属性でターゲットを決めているケースです。
少し突っ込んで、XXで買い物をX回以上する、とかお洗濯を週X回以上する、といった行動、洗濯物が多い、とかシミがある、といった事実で設定されているケースもあります。 が、いずれもターゲット設定には不十分であることがあります。
今回のAさんのケースで見ていただいたように、まず属性でのターゲット設定は相当なマスブランドなどでない限りは難しいことが多いです。 同じ世代とはいえ、皆好みも生活もばらばら、ですよね。 働く女性、とかママとか、20代女性とか、「そんな区切りでひとくくりにしないで!」って本人たちは思っていると思います。
行動や事実・環境による区分ですが、属性よりは似た人が集まってきますが、今回のように「汚れた洗濯物が多い」というだけではなかなかくくれないこともお分かりいただけたかと思います。 大事なのは、その行動をする理由、事実や環境に対してどう思っているのか、です。
では何で設定するのがよいのか。 それは意識やニーズです。
例えばAさんのケースの場合。 「汚れた洗濯物をできるだけきれいに洗い上げたいと思っている人」というほうがターゲット設定としてはよいでしょう。 汚れていても気にしない人、はこの製品は欲しくありません。 汚れた洗濯物があるのを気にして、普段からちょっとした努力もしていて、でももう少しいい方法があるんじゃないかと思っている。 そんな意識を持っている人がターゲットであるべきなのです。
そうすると、別に30代である必要がありません。 20代でも40代、50代でも。 子供のひどい汚れでなくてもご主人のYシャツの襟について同じように思っているかもしれないし、他人から見たら「そんな汚れてないじゃない」って思うものでも本人はきちんとしたい、と思っているかもしれません。
この設定にすると、おそらく子供がいて汚れた洗濯物が多い人が結果的にたくさん入ってくると思います。 が、まずはこの意識を持った人、とすると、製品の便益の設定が作りやすくなってきます。
結局のところ、ターゲットを設定するのは消費者の行動に隠れた理由・インサイトを探る作業にほかならず、ですので、私たちの大好きな訪問調査もターゲット理解・設定の際に行うことが多いです。 インサイトを知ろうと思ったらターゲットの生活や普段考えていることなど全体が分からなくてはなりません。 逆に、全体がわかると、どんなものが欲しいのか、どんなことを求めているのか、細かい調査を繰り返さなくてもわかるようになってきます。
ではどのくらいまでターゲットを深く理解する必要があるのでしょうか。
ここで簡単なターゲット理解度チェックです。
「あなたのブランドの典型的なターゲット、Sさんを思い浮かべてください。
忙しい毎日のなか、思いがけず自分の時間が2時間できました。 さて、Sさんは何をして過ごすでしょうか?」
これが想像できない場合、ぜひターゲット理解をもう一度やってみてください。
でもどうすればいいの?
そんな場合はえとじやまでどうぞ。 って最近こればかりですが・・・。
K。