ブランド4「私は商品企画部で、あるカテゴリの商品群の企画や消費者マーケティングをやっています。 でも、それだけではなく、サプライチェーンの端から端まで、購買や製品開発から店頭まで、目を配って、横断的にマネージしてます。 もう、それを何年もやってきています。 でも、うちにはブランドが育たないんですけど、なぜなんですか?」

というご質問を、先日の講座の最後にいただきました。

いい質問ですね。

結局、ブランド、ブランドマーケティング、ブランドマネージメントって、何なんだろう、ということに関する、とても大切なポイントに関する質問です。 そして、簡単な答えはない。


すっかりシリーズ記事になってしまいました。 2つくらいしか書くつもりなかったのに。 とりあえず、この記事で一旦おしまいにしますね、このテーマは。

1回目は、ブランドを作り、育てることが、目的なのか、売り上げをあげるための手段なのかのとらえ方の違いについてつぶやきました。 2回目は、ブランドを作り、育てることに向いている資質というか、思考行動パターンみたいなことを愚痴ってみました。 3つめの記事では、ブランドというものの根幹を成す概念を日常的な感覚でとらえるために、ブランドとは老舗である、ブランドには人格がある、ということをだべりました。

今回は、ブランドを作り、育てることで会社を経営していく・ビジネスを伸ばしていくための組織や経営手法について、ちょっとだけ書いてみます。 あんまり得意な分野ではないんですが、冒頭にご紹介したような悩み・質問はよくいただくので、私なりの考え方をちょっとだけ。


ブランドマーケティングの話をするときに、よく、組織として「ブランドマネージメント制」を採用しているかが話題になります。 宣伝会議さんでやらせていただいている講座でも、全体の4分の1くらいの時間を費やして、組織や経営手法の話として、この話題を議論します。 (講師は私ではありません、このパートは。) また、受講される方も、よく「うちの会社はブランドマネージメント制に移行したばかりで」とか「これからそうしようと思っていて」とかいうお話をされます。

ブランドをひとつの経営の最小単位として、縦型部署別組織ではなく・とは別に、サプライチェーンを横断的に管理するための代表的な手法で、多くの企業が採用している組織形態ですし、日本企業でも多くが導入しているか、または、導入を考えてらっしゃるようです。

組織としてブランドを単位としてプランし行動するしくみなので、ブランドを作り、育てるためには確かに有効な手段です。 (具体的にどういうものか、何がどういいのか、実は似て非なる組織が多い、とかの解説は、専門の方におまかせします。)

しかし、これだけでは、冒頭の質問に答えられないんですね。

お話を聞く限り、そういう名前で呼んでいるかどうかは別にして、彼はブランドマネージャ的に働いてらっしゃるわけですから。

ブランドを作り、育てるためには、しくみも大切なんですが、もうひとつなくてはならないものがあると思います。 実は、私はこっちのほうが大事だと思っているんですが、それは、そこに働く人や、その人たちを取り巻く人々、特に経営陣の、考え方・発想法・行動様式と行動規範の中に、「ブランドを作り、育てることが会社の業績を上げるんだ」という認識が、ほぼ無自覚・無意識のレベルにまで浸透しているか、ということ。

もっと簡単に言えば、ブランドを作り、育てることがその組織に「文化」として根付いているか、ということです。

こいつを抜きに、しくみだけブランド制にしてみても、日々の意思決定が違った発想や観点で行われてしまうので、ブランドは育ちません。 逆に、私がお仕事させていただている会社でも、組織としてブランドマネージャやブランドグループはいなくても、ブランドごとにものを考える・進める文化が会社全体に存在しているので、すんなりことが運ぶところもあるわけです。

また、私はよく「社長さんはマーケティング出身(マーケティング心のある人)ですか?」というのを聞きますが、そのほうが、組織がどうなっているかより、ずっと重要だったりするんですよね。 (財務とか人事とか聞くと、私の仕事としては、「ああ、この会社は気をつけよう」とか思ったりします、はい。)

あるいは、前回の議論につながりますが、いわゆる「老舗」と呼ばれる会社などは、むしろこの文化がものすごく浸透している。 工場の職人さんから営業のおねえさんまで、全員、老舗の価値を守り、高めることでビジネスを伸ばそうと(しか)考えていないわけですから。 むしろ、そうした老舗のほうが、中途半端に「うちはブランド制だ」といってる大企業よりずっとずっとちゃんとブランドを育ててたりするのは事実ですよね。 しくみとしてのブランドマネージメントやブランドマーケティングを、すごくすんなり導入できるのは、実は彼らです、間違いなく。

「文化」のほうが、「しくみ」より作るのが大変ですから。


さて、冒頭の質問に対する、私たち講師陣の最終的な答えは、実は随分と「冷たい」答えでした。

「社長に、『あんた、ブランドで考える気があるの?』って聞いてください。 あとは社長が決めることです。 あなたが悩んでみてもしかたありませんよ。」(実際にはもう少しだけやさしく言いましたが。)

講義でそんなこと言っちゃっていいのかしら、とも思いますが、しくみ(組織や手法)だけでできるもんでもないことを、私たちはすっかり経験済み(痛い目にあったり、とか)なので、正直に答えてしまうわけですね。

お。