グルインとある洗剤メーカーで洗濯用洗剤を開発しているAさん。 今日は新しい製品のアイデアを見てもらおうと、主婦に集まってもらいグループインタビューをしました。 たくさんの人にインタビューしたいと思い、6名のグループを10組設定しました。



さん:「みなさん、こんにちは。 今日はお洗濯についてご意見をお聞きしたいと思います。 さて、早速ですけど、皆さんのおうちではどのようにお洗濯をされていますか?」

「毎朝1回まわしています。 洗剤は香りがあるのが好きです。」

「うちは家族が多いので2回します。 男の子がいるので、泥汚れがねぇ。」

「うちは共稼ぎなので、夜洗濯して部屋干ししています。」

さん:「そうですか。 では次に洗濯の際に工夫していることがあったら教えてもらえますか?」

「白物とそれ以外に分けてます。 色落ちしたら嫌なので。」

「汚れがひどいものは夜つけ置きして、朝洗濯機で洗います。」

「・・・私は特にないです。」「同じです。」・・・

さん:「ありがとうございました。 今日は新しい洗剤のアイデアを見てもらいたいと思っています。 『どんな頑固汚れもさっと落ちる、スーパー洗剤登場!』どうでしょう?」

「あ、それいいですね。 うちの子供の汚れ、すごいので。 野球しているので、体操服や靴下が真っ黒です。 本当に落ちるか、試してみたいです。」

Aさん「なるほど。 ほかの方はどうですか?」

「・・・うちはあまり汚れ物がないので、どうかな。」

「汚れが多いっていうお友達がいるのですが、その人は買うかもしれません。」

さん:「では皆さんの買いたい気持ちを5段階で表すとどれになるか、選んであてはまるものに挙手をお願いします。 では必ず買うだろう、と思う方?」(10名挙手)

「多分かうだろうと思う方?」(22名挙手)

「買うかどうかわからないと思う方?」(34名挙手)

10
組すべてに同じ質問をした結果、20名が「必ず・多分買うだろう」と答えました。

まとめの際にさんは「60名の主婦に調査したところ、33%の人が買うと答え、このアイデアは十分製品化できる可能性がある」とし、製品化を進めることにしました。

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さて、このインタビュー、どう思われますか?

結論からいうと、やるだけ無駄。 このインタビューからは何もわからず、あるいはわかりきっていることが確認できただけ、次にとるべきアクションもわからずじまい、です。 でも、残念ながら似たような状況をよく見かけます。

いったい何がまずいのでしょう。

たくさん「NG」がありますが、中でもまずいのは、安易にグループインタビューを選んでいることだと思います。

まず、調査の目的がとても曖昧ですね。 アイデアの最終評価をしたいのか、それとも消費者の意見を聞いてアイデアを修正していきたいのか。 目的がはっきりしないので、とりあえずグループインタビューで聞いてみよう、的な。 せっかくのグループインタビューなのに、一問一答形式で、答えもみなバラバラ。 結果、「なぜ・どうして」を掘り下げることなく、個人の行動と表面的な反応しか聞けていませんし、グループインタビューなのに「33%の人が・・・」なんて結論まで出してしまっています。

グループインタビューで聞く購入意向5段階評価はあてにならないし、それを数値化しても意味がない、というのは、誰もが習う調査の基本中の基本。 なのに、多いですよね、これをやっちゃう人。 目的がアイデアの最終評価であれば、確かに評価を数値化していくことは行いますが、グループインタビューでしても仕方がありません。

初対面の人に囲まれ、アイデアを作ったらしい人(参加者にとってはリサーチ会社のひともメーカーのひとも区別はつきません)に「買いたいと思いますか」と聞かれて「買いたくありません」とはなかなか言えません(前のブログ参照)。 他の人がどう答えるのかな、とちょっと横目で感じつつ、自分だけが外れないように、と、まわりの影響をかなり受けるのがグループインタビューです。 実際、買いたいと思っていなくても雰囲気と場のノリで「買うかも」ということはよくありますし、買わない、と思っている人は大体「わからない」と答えます。 定量調査で行った場合にはもっと「買わないだろう」という回答が増えます。

じゃあ調査方法はどうすればよかったのか?

もし目的が最終評価で製品化するかどうか、であれば、定量調査にしましょう。 繰り返しになりますが、いくらグループインタビューでたくさんの人に(たとえ定量調査と同じ人数であっても!)聞いたところで、あてにならず、これで判断を下すのは大きなリスクです。

アイデアのもとになるようなことを知りたい、理解を深めたい、もっと個人の行動を掘り下げて、その行動に隠された深層心理を知りたい、なんて時には個人インタビューが向いています。 どのように洗濯するのか、どんな気持ちで洗濯するのか、ひいてはどんな妻・母でありたいのか、どのように家事をしたいのか、といったインサイトは個人でじっくり時間をとらないとなかなか知りえません。 そんなこと他人がたくさんいるところで話したくないですからね。

もしも反応を聞いてよりよいアイデアにしていきたいのであれば、「買いたいかどうか」よりもむしろ「どうして買いたいのか、買いたくないのか」を知るために、普段のお洗濯のニーズや行動をじっくり丁寧に聞くことが必要でしょう。 この時に選択肢になる調査方法は個人インタビュー、もしくはちゃんと設計されたグループインタビューになると思います。

先述の通り、グループインタビューではほかの参加者の影響を大きく受けます。 その参加者同士のダイナミックスを利用して、個人では生まれないアイデアや意見を出すことができるのが最大の特長です。 お互いの意見を聞いて、「そうそう、そう言われてみれば…」とか、「私もそう思う!」「こんなこともあるかも!」といった感じです。

ですから、例えば未完成のアイデアを見てもらい、「これをどんなふうに使ったらいいと思いますか」と聞いてどんどん発想を膨らませてもらうと、その会話の中にアイデアをよくするヒントが入っていたりします。

そのためにも「盛り上がるメンバー」になるように参加者を選ばないといけません。 うまく会話をリードできる人が進行役を務めないといけません。

もし私がAAさんなら?

個人インタビューをしてインサイトを知り、アイデアを改良した上で、定量調査。

グループインタビューはしないと思います。

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残念ながらAさんのように、あまり考えずに、何か調査をしなければ、じゃ、とりあえずグループインタビュー、というのをよく見ますが、どうしてなんでしょうね。 実施するのが簡単だからでしょうか。 「はい、リサーチはちゃんとやりましたよ」というアリバイ作り? でも、グループインタビュー、実はとても難しい調査です。

初対面の人たちの(そしてシャイで他人がどう思うかをやたらと気にする日本人の)グループの盛り上がりを作り、調査目的に合った結果を出す、というのは至難の業。 全員が黙ってしまうこともあれば、変に盛り上がりすぎて脱線したり、思ってもないことを雰囲気で言ったりすることもあります。 というか、初対面の他人の前で本当のことを言う、ほうが、むしろ珍しいことですよね。

私個人としてはここ数年、グループインタビューは数えるほどしかしていません。 難しさもそうですし、調査目的でどうしてもグルインでないと、というのは実際それほど多くはありません。

最近、消費者調査で有名なとある大手企業さんは、グループインタビュー原則禁止、個人インタビューや観察型の調査(これはまた後日お話します)にしている、なんて話も耳にします。

調査をしよう、じゃあグルイン、ではなく、まずは目的と知りたいことを明確にし、その目的に合った調査をぜひ設計していきたいものです。

それでもやっぱりグルイン!というときに、グループインタビューの成功のコツは
  調査から何が知りたいのかを、事前に詳細に確認しておくこと - 目的や知りたいことが明確でなければ掘り下げて理解ができません(これは定性調査全般に言えますが)。

  グループインタビューの特長をどう活かすのか、グループで聞くことで逆に注意しないといけないことは何か、を確認しておく。

  プロの経験豊かな進行役(モデレーター)にお願いすること - 場の作り方や、質問の流れはモデレーターにかかっています。

  同じグループに呼ぶ人はニーズやライフスタイルなど調査目的に合わせて共通点があること ― 話の盛り上がりは共通点から生まれます。



そして人数を数値化したり、やたらたくさんグループを設定したりしても意味がないことはどうかお忘れなく。

今日は目的に合った調査をしましょう、よく使われるグルインですが実はなかなか難しいんですよ、というお話でした。

K。