製品開発者Aさんのプロジェクトに最近インド人のBさんが加わりました。 とても優秀な技術者で、すっかりチームの中心的存在になっています。
さてある日、Aさんは自身の企画する洗濯用洗剤の新製品のコンセプトを消費者に見てもらい、感想を聞くインタビューを行いました。 チームメンバーも一緒です。
Aさん: 「これは新しく開発された洗剤の説明文なのですが、読んでどう思われるか、教えていただけますか。」
消費者C子さん: 「…(ちょっと考えて)いいと思います。 私の友達のD美さんはこれを欲しがると思います。」
Aさん: 「なるほど…。 どうしてそう思われますか。」
C子さん: 「D美さんはよくこんな汚れに困ってるって言ってましたから・・・。」
Aさん: 「C子さんご自身はどうですか。」
C子さん: 「……今はあまり困っていないんですけど、いいって誰かに聞いたら買うかも知れません。」
うーん、これは前にご紹介した、「よくないコンセプトへの反応」のパターンですね。 (詳しくは前の記事をみてください。)
終了後、このインタビューのまとめをチームでしました。 Aさんがこう切り出しました。
Aさん: 「あまりよい反応ではなかったですね。 C子さんにとってどうやらこの新製品はあまり必要ではなさそうですね。」
するとインド人技術者のBさんが、不思議そうな顔: 「いいと思います、って言ってましたよね。」
Aさん: 「いや、ああは言っていたけど、C子さんは自分が買いたいとは思ってないですよね。」
Bさん: 「え? D美さんは買うだろう、って言ってたし、C子さんも買うかもしれないって言ってましたよね。 これは売れるなと思いましたが。」
さて大変です。 日本人にはホンネとタテマエがあって…なんて、文化の話にまでなってしまいました。
結局、Bさんに同調する人も出て、チームの結論は先送りになりました。
Bさんは文化背景も違いますし、いわゆる行間を読むのは難しいことかもしれません。 でも行間の読みとりかたは同じ日本人同士であっても違いがあり、人によって全く異なった結論を持つこともあるのです。 これはインタビュー調査の難しさでもあります。
ではそんな理解のズレを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
まず、本当にこれはいいって思っている時にどういうかを知っていると、反応がよかったのかどうかわかります。
こんな質問をC子さんにしてみましょう。
私: 「C子さん、最近買ったもので、これはよかった!ってものありますか?」
C子さん: 「野菜の皮をむく手袋! これすごいんですよ・・・。 ごぼうとか手でこするだけでむけちゃうんですよ~。 とっても楽で手放せません。 それでね・・・・・。」
C子さんはちょっと興奮気味にその手袋がどのくらい役立つものか、説明してくれました。 話はなかなか尽きません。
誰でもそうだと思いますが、これはいい!と思ったものには強い理由や気持ち、感情が伴います。 そして、いいと思ったものについて話すときにはその気持ちが自然とでてくるものです。 その話し方をぜひ見てみてください。 それと同じ、とまではいかなくても同じような表情や話し方をしているでしょうか。
次にいつも使っているものと比べてもらう方法です。
私: 「C子さん、今お洗濯の時にはXXブランドをお使いとおっしゃっていましたよね。 この新製品とXXが売っていたらどちらを買うと思われますか?」
C子さん: 「・・・やっぱりXXかな。 使い慣れてるし、香りが好きなんです。」
(出ました、無敵の「香りが好き」、こちらの記事もどうぞ。)
もう一つ、実際に買ったとしたらいつどこでどう使い、どんな風に自分の生活はよくなると思うか聞く、というのもアリです。 どう使ってどんないいことがあると思うか、具体的にイメージされていたら「本当に買いたい」証拠です。
私: 「もしこの新製品を買われたとしたら、どんな風に使いますか?」
C子さん: 「いつもの洗剤の代わりに洗濯機に入れて普通に使います。」
私: 「この新製品に変えたら何かいいことはありそうですか?」
C子さん: 「うーん。 汚れは落ちるんでしょうけどね・・・。 今までと変わらないと思います。」
例えば服を買うときには、「あのシャツと合わせたらいいかな」とか「今度の旅行に着ていけるなあ」など、実際に着た時のイメージを持ちますよね。 本当に買いたいな、と思ったものは、無意識のうちに自分の生活の中に当てはめてみて、それでいいと思ったものであるはずです。 逆にそんなにピンと来ないものは、自分の生活に入るイメージができなかったり、できたとしても今と変わらなかったりするものです。 もしC子さんのお友達、D美さんが本当に欲しいと思う商品であれば、こんな感じで答えてくれたと思います。
D美さん: 「うちの息子、すごく靴下を汚してきて、真っ黒なんですよ。 今、つけ置きして洗ってるんですけど、やっぱり落ちなくて。 この新しい洗剤だとそれが落ちるのか、見てみたいです。 もし落ちたら絶対買います!」
今日はインタビューを聴く人が「買いたい」本音を聞き分ける、ちょっとしたヒントでした。
K。
多国籍企業の消費財のR&Dからからほとんど家電と化した旧・嗜好品のリサーチ部門に転職して、文脈を読めない日本人(しかも男女問わず!)がこんなにいるのかと衝撃を受けました。
素直というか、お世辞と本気がわからないものなんですねぇ・・・。
次回も楽しみにしています。