日ごろ、クライアントさんの強みを探し出すお手伝いをしているにも関わらず、自分たちのこととなるとなかなか客観的には見られないものです。 なので、前回のKBさんの記事 えとじやさんにブランド戦略お願いすると、どういうことが起こるのか! ” は(かなりいい風に書いてくださり、気恥ずかしさもありますが・・・)、えとじやの特徴を振り返るよいきっかけになりました。 感じたことをわかりやすく言葉にして伝えてくださり、KBさんには大変感謝しています。

 

確かに、えとじやの得意分野として、記事にもあった「インサイトの理解」と「ターゲット、ベネフィットの言語化」は外せません。

ここでは、「インサイトの理解」につながる、“えとじやが定性調査で見ているもの・見えているもの”について触れてみたいと思います。

 

どうやら、同じインタビューを見ていても得られる情報量や視点が違うようで、今回に限らずクライアントさんからは、よく、「えっ、そんなところまで見ているの?(私は全く気づかなかった)」、「そこまで深読みして解釈するんだ!(対象者の回答にはなかったけど?)」、「どうしたらそんな風に簡潔にまとめられるの(メモをとり過ぎて何がポイントなのがわからなくなるんだよね…)」などと言われることがあります。

同じものを見聞きしていてもアウトプットが違うことが職人技っぽく見えるようで。

もちろんインタビュー経験が多いからこそわかることもあるのですが、暗黙知ばかりではないはず。 やっていることはいたって地道でシンプルなので、私たちが「見ているもの」、その結果「見えているもの」という観点で紹介しようと思います。 KBさんの記事の裏のカラクリが垣間見られるのではないかと。

 

 

まず、「見ているもの」について。

そもそもインタビューなのに、「聞いている」ではなく「見ている」というのが意外に思われるかもしれません。 もちろん、対象者が話す言葉もしっかりと聞いています。 ただ、それ以上に注意していることがあります。 

 

ひとつは、対象者の持ち物や住環境など、周辺をよく観察すること。


小物例えば、着ているもの。 訪問調査の場合はお部屋の様子。 片付いているか雑然としているか、家の中で目立つものは何か、どんなものをどのように飾っているのか、普段作業したりくつろいだりする場所はどんな風なのか、など。

許可が得られれば、クローゼットやメイク道具、キッチン、時には冷蔵庫の中も見せてもらいます(多少、見にくいですがオンラインインタビューでも同様、対象者さんにカメラを動かして見せていただきます)。

そうして、調査対象の商品やサービスとは一見関係のないようなものまで幅広く観察するのですが、なぜわざわざそんなことをするかと言うと、人となりや価値観を含めて対象者を丸ごと理解したいから。 生活の場や持ち物を見せてもらうことで、毎日どこでどんな風に時間を使っているか、大事にしているものやちょっとしたこだわりなどがわかり、ひいてはその人の生活における価値観や優先順位が見て取れます。

どうしたら商品やサービスに興味を持ってもらえるか・欲しいと思ってもらえるか(ベネフィット)を考える際にとても重要な情報で、それは商品に対する評価や意見だけ集めていても見えてきません。

 

 

「見ているもの」のもうひとつは、質問に対する答え方。 

何を答えるか以上に、答える様子の方が大事だったりします。

例えば、

楽しそうに答える、急に眼がキラキラ・イキイキし始める。

口数が増えたり、口調が早くなったりする。

質問に対して即答する、反対にじっくり考えて答える。

答えにくそう、うしろめたそう、矛盾を感じていそう などなど。

 

このような話すときの間や表情、声のトーンなどを観察することでいろいろなことが分かります。

そもそも、その人にとって興味のあることなのか、聞かれたので答えたけれど特に関心のないことなのか。 また、話している内容が、日ごろから考えている(または知っている)ことなのか、「言われたらそうかなぁ」くらいのことなのか、考えたことはなかったけれど話しているうちに気が付いたことなのか、はたまた、なんとなく気が付いていたけど認めたくなかったことなのか、といったような心の動きが見えるのです。

ちなみに、後の2つ(考えたことはなかったけれど話しているうちに気が付いたこと、や、なんとなく気が付いていたけど認めたくなかったこと)の周辺には大事なことが隠れていることが多いので、インサイト発掘の重要なサインにもなります。

 

同じ発言でも表情やトーンによって解釈は変わります。

それはインタビューのテープ起こしを読んでいるだけでは決してわからないですし、その場にいたとしてもメモを取るのにいそがしく下ばかり向いていると感じ取れません。

言うまでもなく質問の仕方も重要で、Yes/Noクエスチョンを繰り返したり、対象者が答えやすい質問や、答えを知っている質問ばかりしていると会話が弾んだとしても表面的なインタビューになってしまいます。

余談ですが、対象者が商品ベネフィットについてあまりにスラスラとよどみなく答え始めた時は要注意。 メーカー側としては“この人、よく理解してくれている!”と大喜びしたいところですが、対象者は正しく答えないといけないというプレシャーから良かれと思って受け売りの言葉を発していることが多いからです(予習していることだってあります!)。

一方で、インタビュー中に自身が気づいた事柄について、ぽつりぽつりとでも自分の言葉で説明してくれる瞬間は見逃せません。

 

ここまで私たちが「見ているもの」について2つ紹介しました。 対象者の“周辺”と“話す様子”をよく見ること。 ここを気に掛けるだけでも、インタビュー調査で得られる情報量は数倍にはなりますし、量だけでなくインサイトへ近づくこともできると思います。 

 

 

次に「見えているもの」について。

KBさんが、“えとじやは、複数の対象者からの情報を面(時には立体)にして話す・まとめる”というようなことを言われていましたが、確かにそうかも・・・、うまい表現をされるなぁと思いました。 

実際、対象者がどういうタイプの人でどういう行動をしそう・しなさそうか、どんなことを言いそうか、また、対象者同士はどの部分が似ていて、それは他の人たちとどう違いそうか、そして、そのグループは全体のどの辺りに位置していそうか、などが、インタビューの早い段階から割とクリアに見えていることが多いです。

そのため、「N1×人数」のように情報を点として寄せ集めるのではなく、面として捉えることができるのではないかと思います。

いったいなぜそれが見えるのか? それは、おそらく、私たちが対象者の特徴や対象者間の共通項を抽象化することが出来ているからではないかと思います。

 

では、インタビュー中に具体的に何をしているのだろうか? 普段あまり意識していないのであらためて思い返してみたところ、ポイントがいくつか見えてきました。

 

 

ひとつめのポイントは「点の集合に軸を作る」。


図形先程、対象者間の共通項が見えると言いましたが、まさにこれが軸になります。 軸ができると、不規則に散らばっていた点に規則性が現れます。 算数の問題でも、座標軸を追加するだけで、平面と思っていたものが3Dに見えて、点同士の距離感がわかったり、平面が浮かび上がってきたりしませんか? そんなイメージです。

 

おそらくここで大事なのが、共通項はひとつひとつの言葉や行動レベルではなく、その裏にあるモチベーション・理想・ジレンマレベルであること。 点と点を直接結ぶわけではなく、点の情報をひとつ上へ抽象化してそれを軸にします。

例えば、AさんとBさんは二人とも「料理が好きと言ったから」とか、「化粧品はドラッグで買っているから」といってそれらを共通項にするのではないということ。 (それはここで言う“点同士を直接結ぶ“ということで)これをやり出すと線がたくさんできてしまい、いったい何が重要な情報なのかわからなくなってしまいます。

なぜ料理好きなのかや、料理がその人にとってどういう存在・意味があるのかをおさえつつ、さらにはその人の価値観やどんな生活を望んでいるのかまで理解し、そのレベルでの共通項を軸に置きます。 同じ“料理好き”でも、家族がたくさん食べてくれることに喜びを感じて料理を工夫する人もいれば、料理という作業そのものに面白みを感じる人もいます。 また、SNSなどで料理、または料理をしている自分を発信するのが楽しいと感じる人もいます。 

同じ言動でもモチベーションや価値観は様々で、必ずしも同じ軸にはなりません。 (反対に、モチベーションや価値観が同じなら、言動は異なっていても軸を共有できる場合もあります。)

話を聞くときに常にモチベーションや価値観を意識する。 まずはここからです。 インタビュー後のまとめで話をしていて「あれ?」と食い違うのは往々にしてこういった視点の高さの違いから来るような気がします。 

 

ただ、モチベーションや理想像、ジレンマなどをつかむのは簡単ではありません。 本人であっても説明が難しいこともありますし、説明できたとしても必ずしも言葉通りとは限りません。 むしろ答えられない・うまく言葉に出来ないところに重要な要素が潜んでいたりします。 そんな時に手掛かりになるのが(前半で書いた)「観察」。 その人の生活や話す様子にはヒントがたくさんあります。

今表情が変わったな、とか、生活から見える人となりと言葉に食い違いがあるなぁ、と感じた時は深掘りの合図です。

 

 

ポイントの2つ目は、「これまでに作ったガイドマップを活用する」ということ。 

えとじやメンバーでこれまで延べ数千人単位のインタビューを見てきましたが、その情報のデータベースのことです。 データベースといっても数値化されたり明文化されたりしているわけではなく、モチベーションや価値観などで仕分けされ、典型的な言動や特徴がひもづけられて頭の中に収納されています。 先ほど話した「軸」を使って作った3Dマップのようなものです。 K。はそのひとが住んでいる「星」たちに分かれて見えるそうですし、店主には「風景」に見えるそうですが。

インタビュー中に、頭の中のマップを広げ「この人はこの軸を共有しそうだなぁ」とか、「この面上の端っこに位置しそう」とか、「本人はそう言っているけど、マップ全体で見るとむしろこっち寄りかな…」などマッピングしていきます。 軸を一から作らなくても、マップがガイドしてくれるのでスピーディーに特徴を捉えることができます。 まずは仮置きしておいて、質問を投げかけながら仮説を検証、位置を微調整していく感じです。 早い段階で仮説を持つことができるため対象者の発言に違和感を感じる感度も上がり、そこを深掘りすることにでインサイトにつながることも(対象者の言葉が常に真実という訳ではないですから)。

またこれができると、類似条件で何十人ものインタビューをしなくても、数名の話を聞くだけで、その人たちがどういうグループなのかおおよそ分かるようになります。 

しかも、インタビューが終わると同時に頭の中が整理されていているので、まとめるのに苦労することもありません。いいことづくめですね。

 

とは言うものの、これは一朝一夕では手に入れられません(だからこそえとじやの財産でもあるのですが)。 ただ、これから定性調査を積み重ねる中で、ガイドマップ(自分自身のデータベース)を作っていくことは可能です。 ひとつひとつの言動ではなくモチベーションや価値観を念頭に深掘りしたり、それを軸にして情報を整理したりしていくことで、徐々に実用的なマップができていくのではないかと思います。 点を点の情報のまま放置しないということですね。 ある程度抽象化できているので、対象の商品やプロジェクトが変わっても使えるし、さらにデータを積み重ねることもできます。

 

そして、マップ増強のために有効なのが、自分ひとりで結論付けず、調査が終わった後には必ず誰かと意見交換すること。 特に定性調査の見方が上手い人と一緒に話をすると、ひとりでは得られなかった情報や、気が付かなかった切り口をなぞることができます。 調査はたいてい特定商品のユーザーなどの似通った対象者で行うことが多いので、そのグループが他とどう違うのか、相対的な位置づけが分かりにくいことが多いです。 経験値の高い人と話してカリブレーション(相対化)することで、自分のマップの幅を広げたり新しい軸を追加したりして精度を上げることができるためおすすめです。

 

 

以上、長くなってしまいましたが簡単にまとめると、

私たちが定性調査でやっているのは

・聞くだけでなく、対象者の周辺や答える様子をしっかり見ること

・対象者のひとつひとつの言動をそのままインプットとして扱うのではなく、モチベーションを軸に抽象化して情報を整理すること

・そして、地道にデータを積み重ねてマップを作り、それをガイドにインタビューの精度・効率を上げていくこと

ではないかと思います。

 

定性調査で大事な情報をよく見逃してしまうとか、同じインタビューを見ていたのに私だけ解釈が違うとか、メモばかり増えて調査結果がまとまらないというお悩みがあれば、是非試してみてください。

 

和。