えとじやブログ - ひねくれマーケッターのひとりごと

ひねくれマーケッターのひとりごと

Luxといっても、残念ながら男女の関係のお話ではありません。 拡大解釈してそう読むことを止めはしませんが、そういうつもりでも書いていません。

マーケティングのお話です。


サラリーマン生活21年間のうち、結局18年ほどはヘアケアの仕事に関わっていました。 その中でできあがった、なんとなくそうかもなぁ、という個人的な経験則なので、リサーチデータなどの裏付けは全くありません。


それは、「ニオイが好きだから」は「ニオイが好きだから」ではない、です。


長く高い売り上げを保っているヘアケアブランドのユーザーさんたちに、「使っている商品のどこが好きで使い続けているんですか?」という質問をすると、よく「そうですねぇ、ニオイが好きだから、です。」という答えが返ってきます。

これを聞いたまじめなマーケッターは(私もまじめだったころがあるんですよ、これでも)、

「そうか、香りが理由なんだな、ふむふむ。」

と考えます。 きまじめなマーケッターは、「そうか、あのブランドは香りで売っているわけではないので、ユーザーはそれほどあのブランドのことをしっかり理解していないのだな、ふむふむ、チャンスかも。」と考えます。

くそまじめなマーケッターは、「よし、じゃぁ、あのブランドより優れた香りを開発すればいいのじゃ、ふむふむ、行け~~~!」と、一大香り改良プロジェクトを立ち上げ、目隠しテストで勝利する香りを開発します。

あるいは、くっそまじめなマーケッターは「シャンプーを香りで選んでいませんか?」というボケたコンセプトを書き上げて消費者テストにかけたりしてしまいます。

しかし、(もちろん香りは大切なので、製品の評価は向上しますが)結果は、、、、

やはりみなさん、相変わらずあのブランドを使い続けます。

「おっかしいなぁ、うちの商品のほうがいい香りだってテスト結果があるのに。」ということで、もう一度調査に向かいます。

「どうしてその商品を使い続けるのですか?」

「そうですねぇ、ニオイが好きだから、です。」

「うちの商品を使わない理由を教えてください。」(最悪の質問です、ちなみに。)

「えぇ、、、ニオイとかかいでみないと、わかんないです。」

(さ、これです、どうぞ。)「どうですか?」

「いい香りですね。 でも、友達とか使った人の言うことを聞かないと、わかりません。」

おっしまい。


悲しい物語です。

彼女たちは、香りが好きで商品を選んでいるわけではないのですよ、要するに。
(香りが嫌いだったら、絶対使いませんがね。)


じゃぁ、なぜ彼女たちは「ニオイが好きだから」と答えるのか。

ここで、消費者調査というものを、調査される側から考えてみましょう。 (ちょっとお小遣いがもらえるとしても)なかなか緊張しますよね、学校のテストみたいなもんです。 マーケッターはテストされてるのは自分だと思っていますが、実は調査対象者も「テストされている」と思っているのです。

そこで、何か質問されると、あなたが学校で先生に当てられたのと同じで、「間違ったことをいいたくない」という心理が働きます。 正解を言いたい、ちゃんと思っていることを伝えたい、という気持ちは、実はあんまりないんですよ。 授業で意見を求められて「XXちゃんと同じです。」と答えるのと同じ。

「ニオイが好きだから」は、ほぼ無敵です、この意味では。 特定の機能について答えると、実は世の中にはもっといい商品があるだろうから、「じゃぁこっちの方がいいんじゃないですか?」とか問い詰められるといやだし。 どうしてですか? と聞かれても「だって、私の好みですから」と逃げれば追求を免れます。 押し売りから逃げるのに、もっともいい答えです。

では、彼女はホントは何を言っているのか。

実は、「ニオイが好き」=「なんとなく全部が好きだから」という意味なんだと、私は思い至ったわけです、数々の失敗の後、ね。

ヘアケアのお客さんが「ニオイが好きだから」と答えてくれるのは、心の中では「結構、全体的に気に入ってて、どこがどうとか、あんまり考えてないからちゃんといえないんだけど、好きなんですよね~。」って思っているからなんですよ。


もちろん、世の中には、香りを訴求した商品もあるので、すべてにあてはまるわけではないし、香りはとても大切な要素なので、重要でないと言っているわけでもありません。

ただ、「ニオイが好き」というコメントにそのまま反応してしまっても意味がない、ということです。

香りが主要な選択基準になっているカテゴリーですら、これは私のさらに個人的な意見ですが、香りは「売り」にすべきではありません、ほぼ絶対。 あとで痛い目に遭います。 まぁ、この話は長くなるので、また今度。 (ヒントはこちらの記事をどうぞ。)


ヘアケア以外のカテゴリーでも、この「ニオイが好き」に相当するモノがあるんでしょうね。

きまじめに追求するとスカを食らう、でも大切な何かを伝えているモノが。

うちの商品ではこんなことあるよ、とかあったら、是非、教えてください。


「私のどこが好き?」

「全部。」

とかいう、間抜けな男女のやりとりの話ではありませんよ、くどいようですが。


お。

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今年の「消費者のためになった広告」賞が決まったようです。

そもそも、そんなものがあったのかと思ってらっしゃる方も多いかと思いますが、実はすでに49回なんですね。

今回は、Panasonicナノイーの新聞広告、東洋エクステリア サポートレール(手すり)の雑誌広告、そして東芝の企業広告(TV)の3つが「経済産業大臣賞」、まぁ、グランプリですね、を受賞したそうです。 前のふたつは、ネット上で情報が見つけられなかったんですが、東芝の電球のCMはYouTubeにありましたので、載っけておきます。


なかなか人気のあるTVCMのようですよ。 「へ~、そうなんだ。 へ~、そうするんだ。」と見てしまいます。

この広告を見て、あわてて家中の白熱灯の形を確かめてリストにして、白熱灯を大量に買いだめしてしまった私は、いかに蛍光灯が嫌いだとは言え、ちょっと問題のある反エコな人間ですね。 すいません。 でも、私に行動を起こさせた、そして、「この在庫が切れたらLEDにしよう」と思わせたという意味では、いい広告ですね、はい。 言い訳。

 

で、何が「複雑な思い・疑問」なのか? それが、いろいろあるんですよ。

 

そもそも「消費者のためになった」って、いうのが「?」。 ということは、世の中には消費者のためにならない広告があふれているということですかね。 あ、そうじゃない、と。 「もっともためになった」のを選んでるんですよね。 すいません、変なところにからんでしまいました。 あ、しかも、世の中には消費者に向けているわけではない広告もたくさんある、と。 そうですね、株主対策、リクルート対策、流通向け、社内向けなど、いろいろありますね。 しかし、「ためになった」って、なんか、ちょっと上から目線ですよね。 それは揚げ足取りだと、はい、すいません。

 

実際の話、メーカーのマーケティング・広告の仕事をしていたころ、 この広告賞をいただくのはとてもうれしかったんですよ。 消費財メーカーでしたから、やはり広告を流すことで売り上げが上がるのはうれしいし、ユーザーさんなどから「いい広告です」とか「ブランドが好きになりました」とかいう声をいただくと、疲れがいっぺんに吹き飛んだものです。 さらにそれがお客様の「ためになった」と選ばれて賞をいただけるのは、とても名誉なことですから。 きっとたくさんのお客様のアンケート調査などで選ばれたのだろうから、最高のごほうびです。

 

え? そういう風に選んでない、そうなんですか?

と、今回の選考メンバーを見てみると・・・。 本審査の審査員は大学の先生や消費者団体の代表など。 そうなんでしょうね、まぁまぁ納得。 12名中6名は女性のようです。 ちゃんと考えてる感じがします。

で、この人たちが月に1000作は新作が生まれていると言われるTVCMに加え、新聞・雑誌・ラジオ・Web広告に目を通す、わけはないですね。 モニター会社が選んだものと応募があったものから選ぶ、と。 なるほど、そして予備選考があって・・・。

と、予備選考のメンバーを見てみると、20名中7名が大学生・大学院生、4名が大学講師など、半分以上大学関係者じゃん。 なにそれ・・・。 3500作品ほどの応募作品をこの人たちが600弱まで絞るわけですね。 へ~~~~~、なんだそりゃ。

 

「複雑な思い」といえば、どういうわけか、この広告賞、いただくと広告主はとても喜ぶのに、クリエーターの方はなぜか「苦笑」されるんですよね。 全員というわけではありません。 とても喜んでいる方もいらっしゃいます、もちろん。

でも、何となく「苦笑」なんですね、広告業界では。
邪推かも知れませんが、「消費者と広告主のためにはなったかも知れないけど、クリエ-ティヴとしてはもうひとつためにならない広告賞」という印象です。。

選考のプロセスに疑問を感じているから、かなぁ。 確かに、通常の広告賞と違って、広告業界・クリエ-ティヴ系の方は審査員にいらっしゃらないようですが。

 

「作品としての芸術的な価値を評価しているわけではないから」? そもそも広告は芸術じゃないんですけどね、第一義的には。

そこまでいかなくても、「広告表現の新しさ・斬新さを評価されているわけではないから」? その気持ちは理解できます、なんとなく。

「なんとなく、ださい印象があるから」? あ、それ、わかります。 なぜですかね?

と、受賞作品をず~~っと見てみると、なるほど、表現が古くさかったり、そして何より、うまくいえないんですが、どうも「啓蒙的・お説教的」な作品や、「おせっかい」風なモノ、「私って世の中のためにがんばってるでしょ」みたいな自画自賛広告が多いように思います。 このせいかなぁ。 (確かに常連Panasonicさんは、相も変わらずPanasonic啓蒙節です。)

 

今度、誰かつかまえてじっくり聞いてみよ。

 

お。

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  • えとじや店主

    えとじや店主。マーケティング一筋30年。世の中の様々な問題を「ブランド・マーケティング」で解決する腕利きコンサルになるのが夢。なかなか、そうはいきませんが。 ともかく、マーケティングに関わることはなんでも相談に乗ります。スノーボードと音楽が趣味ですが、「うんちく」と「説教」も大好きです。

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    えとじや番頭。消費者リサーチ歴18年。市場や消費者を理解することで、ブランドが強くなり商品が売れる、という経験を何度も味わってきました。 調査をどうやったらいいのかわからない、結果を見てもどう使っていいかわからない、そんなときにはぜひご相談ください。

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    えとじや店員。兼フードコーディネーター・レシパー。兼マーケティングができる中小企業診断士。どんなことでもたいていやっているうちに面白味を見つけてしまい、ハマるタイプです。 リサーチ、マーケティング、料理など、それを繰り返して今に至ります。今度はえとじやでどんな面白いことが経験できるのか、わくわくしています。

  • えとじやお針子

    えとじや店員。お抱え絵師(デザイナー)。パッケージデザイナーとしてメーカーで約7年働きました。マーケティングやリサーチはまだまだ初心者。デザインの力を使ってみんながニコニコできるようなものを作れたら嬉しいです。アニメ、漫画、手芸、落書き、クレイアニメーション…、ちまちま何かを作るのが好きですが、大雑把で不器用…。細やかさを欲しています。

  • えとじやお針子

    えとじやお針子(ライター)。マーケターを5年したあと、マーケティング博士号取得、その後、リテールサービス企業のマーケ部長に。なんと、えとじやクライアント&えとじやブログのライター。 理屈も現実もそのはざまも経験、マーケティングの仕事ってなんなの?どうしたらいいの?という悩みにはいちばん共感できる立場かも。

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