えとじやブログ - ひねくれマーケッターのひとりごと

ひねくれマーケッターのひとりごと

ぼそぼそつぶやいていたら、すっかりシリーズ的になって5つめです。

これで一旦終わる予定ですが。

 

これまで、「マーケティングはなぜ楽しいのか」と題して、大学を卒業以来、30数年、マーケティングの仕事しかしたことがない私が、この仕事のどこが好きなのか、楽しいと感じるのかを書いてきました。

1.       ひとのこころを動かす仕事 - マーケターの誇り

2.       アートのサイエンス、サイエンスのアート - 醍醐味の源泉

3.       「ひとがひとに」 - マーケティングの根底

4.       ブランドは「ひと」 - ブランドの本質をつかむ

そして、最後はマーケティングのもう一方の当事者である「ひと」=ターゲットについてつぶやいてみることにします。

 

 

マーケティングはなぜ楽しいのか

~お客さんへの贈り物~

 

さて、実はすでに1で、「ひとのこころを動かす仕事だから楽しい」と書いてしまっているので、結論はそこなんですが、ここでは少し、私が、「買ってほしいお客さんを決めること」=ターゲット、ターゲティングをどのように考えているかについて触れながら書いていきましょう。

 

 

みなさん、ご自身が親しい誰かを思い浮かべてください。 仲の良い友人、恋人や家族、大切な誰か。

そこで、私が

「そのひとが喜んでくれる贈り物を考えてください」

とお願いすれば、おそらくほとんどの方は、何か思いつけるはずです。

あいつは、こういうのが好きなんだよな、とか、あのひと、確かこういうのが欲しいって言ってたよね、この色が好きなはず、こういうものをあげると嫌がるのよね、とか、いろいろ考えられるはずです。

そしておそらく、どういう場面でどういう渡し方をすれば一番喜んでくれるかも想像できるはず。

 

さて、では、

「あらゆるひとに喜ばれる贈り物を考えてください」

と言われたらどうでしょう?

困ってしまいますよね。

そしておそらく、多くの方が「商品券」にたどり着いてしまうと思います。

世の中で最も無難な贈り物のひとつでしょうか。 (そして、とても皮肉なことに、結果として、「ああ、あのひとは私のことをあまり知らない、か、特に気にかけていないということね」ということが伝わってしまうかも知れません・・・・いや、それは商品券に失礼ですね、商品券には「商品券であるべき」ときがありますし。)

 

つまりターゲットを決めると、そのひとに喜んでもらえることは何なのかがわかる、決められる、というわけです。 どんな製品やサービスにすればいいのか、どんなデザインが好まれるのか、どんな広告が響くのか。

ターゲティング。 マーケティングを組み立てるうえで、無くてはならない、最重要の戦略的要素のひとつです。

 

基本5

 

ちょっと余談っぽくなりますが、実は、もしあなたのカテゴリに、あらゆるひとが絶対に使いたくなるイノベーションのチャンスがある場合は、ここ、あんまり悩まなくていいんですね。 例えば、ITを中心としたサービスなどでは、今も「誰が独占的勝利を収めるか」争いがにぎやかですが、そういうことです。 (まぁ、インフラやインフラに近いサービスはそうあるべき、という見方もありますが。)

私がかつて携わっていた日用品のカテゴリでも、そうですね、おおよそ1980年代後半くらいまでは、そういうイノベーションが不可能ではありませんでした。

私が社会人になる直前なので、もう35年ほど前ですか、花王がアタックという洗剤を発売。 文字通り「瞬く間に」No.1シェアを獲得しました。 それまでの衣料用洗剤は、ひと箱4kgくらいの大きさでしたから、洗剤を買う日は他に重いものは買っちゃだめ、「特売!おひとり様2個まで」って言われてもどうせ2個しか持てない、そして、一回のお洗濯にコップ1杯分くらいの洗剤を入れなければならなかったのに対して、いきなり片手で持てる箱に入って「スプーン1杯で驚きの白さに!」ですから、誰もが買っちゃうわけです。

なので、ターゲットは、「洗濯する人みんな」でよかった。

しかし、世の中の多くのカテゴリで、そうした「誰もが欲しい・必要なイノベーション」が実現できなくなってくると、「誰に好きになってもらうか」(つまり誰には好きになってもらわなくてもかまわないか)を決めなければ、いい製品やサービスをデザインできない状況になって、この「ターゲットを決める」ことが必須になった、ということですね。

 

 

さて、本題に戻りましょう。

この「誰に好きになってもらうか・誰と仲良くなりたいかを決める」作業、そして次に「そのひとに好きになってもらえる・もっと好きになってもらえるモノやコミュニケーションを開発する」作業が、まさにマーケティングの楽しいところなのだと思います。

 

 

誰に好きになってもらえば、誰と仲良くなれれば、目標とするビジネスが実現し、かつ、いいブランドになれるかを考え、決める仕事。

前の記事に書いたように、この「ひととひと」(ブランドとお客さん)の間を行ったり来たりする作業です。

そして、「永く一緒にブランドを作り上げていくパートナー」として、ターゲットを決めます。 (私たちはこれを戦略ターゲットと呼んでいます。) もう一方でブランドの戦略を決めるわけですが。

 

そうするためには、このひとたちのことをしっかり理解しないといけません。

どんなひとが、どれくらいいるんだろう、どんなことが好きなんだろう、どんな風に生きている、どんな風に生きていきたいと思っているんだろう、何を探しているんだろう・・・・。 あのひとと、このひとは、一見違うように見えるけど同じようなことに感動するよね、こっちの彼とあっちの彼は、とても似ているようだけど、目指しているものが全然違うよね・・・、と。

 

ところで、いろんな方のお手伝いをしていて、わりとびっくりするのが、この「誰に好きになってもらうのかを決める」前に、ユーザーとノンユーザーに分けてしまうひと(会社)が多いことです。 (そして!、ノンユーザーさんたちをたくさん集めて、なぜ使わないのかを聞いてしまう!!!)

これをやってしまうと、その後、よほどの幸運に恵まれない限り、だだっぴろい荒野をさまよい歩くことになります。

例えば、5%シェアのモノで、使っていない95%のひとを「深く理解しよう」としても、そりゃ無理ってもんです。

順番が違うんですよね。 まず、好きになってもらいたいひとたちを決めて、使ってくれているひとたちに会いにいって、自分たちの仮説や目論見が正しかったかを確認し、(必要であれば戦略を修正し)、その次に、「好きになってくれるはずなのに、(まだ)好きになってない・使ってくれていないひと」について「考える」、というのが正しい順序です。

 

 

さて、同様にブランドや製品・サービスそのもの、その改良品や姉妹品、デザインや広告などを開発する際にも、ターゲットを深く理解することが要求されます。

ここはいよいよ「どんな贈り物が喜ばれそうか」を探る場面です。

前段でしっかり理解できていれば、わざわざ調査したりする必要はないとも言えるんですが、とはいえ、調査することで、改めて・新たに刺激を得られることもあるし、少し具体的に知りたいこともわかってきてたり、そして何より「いよいよ具体的なプレゼントを考えるぞ」という段階なので、自分の妄想だけで痛いプレゼントを用意してしまわないためには、相手に会いにいくのはとても有効だと思います。

また、長期的な戦略ターゲットの中で、(今、)特に大事なグループ(コアターゲットと呼んでいます)にとって、「すごく素敵」と言ってもらえるモノを開発する必要があったりもします。

 

彼ら・彼女たちが、今、どんなことに興味があるのか、最近どんなことを経験したのか、何が特に好きなのか、何に困っているのか、何を伝えると考えや思いが変化するのか、などを探っていくわけです。

そして、それをもとに「これならすごく喜んでくれるに違いない贈り物」=マーケティング活動を考える。

 

 

楽しいはずです。

マーケターは、年がら年中、自分のブランドから、ブランドのお客さんに贈るプレゼントを考え続けているわけですから。

(私は人づきあいが、かなり苦手です(あまりそう見えないらしいですが)が、この仕事は大好きです。)

 

 

追記: マーケティングとは、自分の商品・サービスをことさらに良く見せようとする行為・作業・テクニックだと勘違いされていることが多いように思います。 逆ですね。 相手にとってうれしい贈り物を考え、作ることなんです。

 

お。

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さて、今回は、「なぜ楽しいのか」というのとは、ちょっとずれるのかも知れませんね。 より正しくは「なぜ私はブランドマーケティングを楽しいと感じるのか」であり、さらには「これがわからないと楽しくないし、できないとうまくいかないんじゃない?」みたいなことです。

もちろん、あくまで私の個人的な考えとして、ですが。

 

 

マーケティングはなぜ楽しいのか

~ブランドは「ひと」~

 

ひとつ前に書いたように、私は、マーケティングとは「ひとがひとにモノを買ってもらうこと」だと定義しています。

モノ(商品やサービス)を売る、買ってもらうという行為は、突き詰めると「ひととひと」の間に起きていること、ということです。 たとえ間にどんなに複雑な媒介=仕組みやメディアが挟まっていたとしても。

 

さて、ことがブランドマーケティングとなると、この片方の「ひと」が、企業やあなたや店舗ではなく、「ブランド」になる。 (もう一方のひとは、「お客さん」のままです、もちろん。)

つまり、

 

「ひと(ブランド)がひと(お客さん)にモノを買ってもらうこと」

 

になるわけです。

基本4


ブランドとはひとである。

これ、なんとなく、ですが、どうもウケが良くないんですよね。

「ん??」ってなる方が多い。

モノや、形のないサービスが「ひと」であるということが、ピンと来ないのかも知れません。 しゃべったりしないですしね。

要するに「ひとだと考えるといろんなことがわかりやすくなりますよ」ということなんですが。

 

過去にも何度も書いてきましたので、いくつか過去記事を紹介しておきます。

ブランドってなあに?~名前をつけるということ

極意の(^_^)フレームワーク ~4.ブランドってひとなんです(こちらは上級者向けシリーズ記事の中のひとつです・・・)

 

ブランド化できると、ブランドとして強くなると、こんないいことがありますよ、というのが、数多くあります。 詳しくはそういう本を見ていただくとして、例えば、なじみや信頼を蓄積できる、愛着や愛情、あこがれなどを醸成できる、結果として競合へのスイッチの確率を下げたり、価格に対するセンシティビティを下げられたり。 新製品、姉妹品や別カテゴリへの展開がしやすくなったり、参入コストを下げられたり、というのもあります。 さらには、その機能が必要なくなったり、カテゴリそのものが衰退していっても、別の場所で生き続けることができる(ことがある)といったものもありますね。 (若い方は知らないかも知れませんが、Luxって、固形石鹸だったんですよ。 HERMESは馬具屋さんだったし。)

 

そういうのを、ものすごくベタに表現すると、

「好きなひと、信頼できるひとから買いたい、同じものなら好きなひとから買いたい、もう一度買ってあげたい、そのひとが出すんだったら使ったことないものでも『いいかも』と思える、試してあげなきゃという気になる、そのひとを応援したいと思ってしまう」

ということなんだと思います。

これは、機能や価格が優れているのでリピートする、というのと、少し次元が違いますよね。

信頼とか、愛情とか、なじみとか、仲良し、とか、そういう、通常、ひとがひとに対して抱く思考や感情。

だから、ひとだと考えると、わかりやすい、というわけです。

 

そして、さらに、強いブランドには、そのブランドならではの一貫したポリシーやこだわり、価値観、性格、志向、好き嫌い、夢、目標などがあります。 つまり大義、ですね。 だからこそ、大好きになったり(嫌いだと決めることができたり)する。

これらも、ひとだと考えるとわかりやすいと思うんです。

 

 

さて、じゃ、何が楽しいのか、ですよね。 それがお題でした。

 

私は、この「ブランド」という「ひと」に、憑依して考えるのが好きなんです。 楽しいんです。

ブランドXさんなら、どう考えるのか、どうしたいのか、どうすべきか。

または、ブランドXさんは、何をしてほしいと思っているかを考えるのが。

さらに、もうひとりの「ひと」=お客さんに憑依して、どうしてほしいのか、どういうことを魅力的に感じるのか。

これらを行ったり来たりして考える過程が楽しい。

このふたりはどういう関係であるべきか。

自分本位、自分の立場だけで考えていると出てこない発想にぶち当たったりできる。 視座が変わるので、見えなかったものが見えたりする。

これが楽しい。

 

ブランドは、名前を付けられて世に出た途端に、ひとりの「ひと」としての人格を与えられる、とすれば、それは、すでにその親である企業からも、担当者からも独立した(無関係ではない、関係の深い、けど)別人格で、もう企業や担当者の勝手で好き放題にはできない、すべきではない。

そんな、自分からあまり語ろうとしない存在に対して耳を傾ける。

 

実際の仕事では、ある程度人格が形成されているのに、それが何なのかを明確に定義されていないなどのせいで、不似合いな服を着せられたり、苦手なことや無駄なことをさせられたりしていることが多いので、それを、「あなたはこういうひとですよね、こういうことを目指してるんですよね」とはっきりさせてあげる、とか「ホントはこういうのがやりたかったんじゃないですか?」と問いかけてあげるという作業だったり。

それを具体的な製品のアイディアに転換したり、デザインやコピーに移入してあげたり。

また、それらを言語化してひとつのドキュメントに(一旦)封じ込めるのも楽しい。 これでいい? これでよかったのかな? 大丈夫? うまくつかめてる? とか(ひそかに)案じながら。

 

 

独立した人格を持った「ひと」、この捉え方ができると、ブランドマーケティングはがぜん楽しくなる。

 

逆に、担当者や、たとえ経営者であっても、これができないと、ブランドを壊してしまう。 少なくとも、ブランドの「らしさ」を著しく希釈してしまう。 自分の会社の「持ち物」だから、何をやってもいい、と思ってしまうんでしょうか。 そのブランドに似合わない仕事をさせられたりする、持つべきでないラインアップを持たされたり、苦手なカテゴリに参入させられたりする。
もちろん、経営上の、ビジネス運営上の、競合対策上のニーズがあってのことだったりしますが、それにしても・・・というのをよく目にします。

これも、独立した人格を持った「ひと」と捉えて考えると避けられる、いい策を紡ぎだせる、少しはましな手を思いつけると思います。

たとえ話のドツボに嵌ってはいけませんが、せめて「ブランドXさん、こういう課題があるんだけど、手伝ってもらっていい?」くらいの心遣いは必要だよなぁ、と。

 

そのように私は思っています(し、実際そうだよな、と思うことが多々あります)というお話でした。

 

お。

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  • えとじや店主

    えとじや店主。マーケティング一筋30年。世の中の様々な問題を「ブランド・マーケティング」で解決する腕利きコンサルになるのが夢。なかなか、そうはいきませんが。 ともかく、マーケティングに関わることはなんでも相談に乗ります。スノーボードと音楽が趣味ですが、「うんちく」と「説教」も大好きです。

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    えとじや番頭。消費者リサーチ歴18年。市場や消費者を理解することで、ブランドが強くなり商品が売れる、という経験を何度も味わってきました。 調査をどうやったらいいのかわからない、結果を見てもどう使っていいかわからない、そんなときにはぜひご相談ください。

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    えとじや店員。兼フードコーディネーター・レシパー。兼マーケティングができる中小企業診断士。どんなことでもたいていやっているうちに面白味を見つけてしまい、ハマるタイプです。 リサーチ、マーケティング、料理など、それを繰り返して今に至ります。今度はえとじやでどんな面白いことが経験できるのか、わくわくしています。

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    えとじや店員。お抱え絵師(デザイナー)。パッケージデザイナーとしてメーカーで約7年働きました。マーケティングやリサーチはまだまだ初心者。デザインの力を使ってみんながニコニコできるようなものを作れたら嬉しいです。アニメ、漫画、手芸、落書き、クレイアニメーション…、ちまちま何かを作るのが好きですが、大雑把で不器用…。細やかさを欲しています。

  • えとじやお針子

    えとじやお針子(ライター)。マーケターを5年したあと、マーケティング博士号取得、その後、リテールサービス企業のマーケ部長に。なんと、えとじやクライアント&えとじやブログのライター。 理屈も現実もそのはざまも経験、マーケティングの仕事ってなんなの?どうしたらいいの?という悩みにはいちばん共感できる立場かも。

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