えとじやブログ - ひねくれマーケッターのひとりごと

ひねくれマーケッターのひとりごと

弊社は病院のようなもので、何かしら問題が起き、痛みなど症状があるときに皆さん駆け込んでいらっしゃいます。 コンサルは医者の役割。 どこに問題があるのかを診断し、最善の策を考えます。

 

今日ご紹介するのは、マーケティング3大疾病の一つ、「ターゲットもやもや病」。

体感する症状は、刺さらない広告・無難なPR・パッとしない商品・投資効率の悪さなど様々ですが、最終的には売上の低下・伸び悩みに至ります。

 

実は、来られる際にはこの病だと自覚していないケースが多く、問診で初めて診断がつきます。 

「ターゲット、もしくはお客様はどんな人ですか」という問いに対し、説明はあるがどうにもよく伝わらないというのが典型的な症状で、重度に悪化したケースではお客様の話が全くでず、「そんなことより、先生、競合が・・・あうあうあう」と続きます。

もやもや1

この「ターゲットもやもや病」、主に3つの類型に分かれます。

①「絞り込んでいるつもり型」、②「移ろい型」、そして③「みんなに愛されたい型」ですね。

 

①「絞り込んでいるつもり型」

ターゲットを定義してはいるものの、有効なマーケティングにつなげるには精度が欠けている状態。 例えば洗濯用洗剤のターゲットで「毎日洗濯している主婦」、化粧品のターゲットで「20-30代の働く女性」など、カテゴリーユーザー全体に属性を掛け合わせただけの定義が典型。 ターゲットの掘り下げが甘く、「人」としての具体的なイメージができていない。 なので、どう相手の心を動かすかを考えられず、結果として上っ面のコミュニケーションになり、往々にして「刺さらない」ものが生まれる。 もちろん、ビジネスは発熱が続く状態。

 

②「移ろい型」

ターゲットを安易に変える状態。 売上が頭打ちになり苦しくなってきたときに、今取れていない客層をターゲットと称して手を広げるケースが典型。 大胆な鞍替えを狙うほどに、それまでの顧客を手放して痛手を負うことが多い。 次は男性だ、次は若者だ、次はシニアだ、という話が役員会議で出始めたら要検査状態なのだが、既存顧客は離れないだろうと安易に進めて致命傷を負うこともあり、なかなかに危険度が高く、手遅れの場合もあるので要注意。

 

③「みんなに愛されたい型」

最近増加傾向にある型。 古くは「誰がターゲットかなんて考えたこともない」というのが主な病因だったが、そうでない場合、仮説としては、売上伸び悩み→「移ろい型」で失敗→最終的に「もう全員がターゲットだ」と行き着いたとも考えられる。 「うちの商品で喜んでくださる方全員がお客様だ!」という言葉が一理あるように聞こえるが、誰がお客様か相手がわからないので、結局お客様理解というよりは、ひたすら手を変え品を変えの自己アピールに努めることとなる。 「クラスのみんなに好かれたい」という願いが往々にして空回りするように、八方美人になって疲弊するか、だれに対しても無難なつまらない存在になるか、いずれにせよ人気者にはなれない。 この病の根底にはターゲットに関する過去の失敗や、ターゲットを絞ることによる売上機会損失への感覚的な恐れ、懸念があるため、患者が治療に専念しなかったり食事制限を守らない、さらには治療を拒否するなど、治療が難航する傾向が見られる。

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繰り返しになりますが、ターゲットもやもや病、病気であることを無自覚の患者さんが多い病気になります。

心当たりのある方は弊社までお問い合わせください。 早期発見、早めの治療が功を奏します。 特に②と③。

 

では、次回はターゲットもやもや病の治療法について、です。

 

K

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ぼそぼそつぶやいていたら、すっかりシリーズ的になって5つめです。

これで一旦終わる予定ですが。

 

これまで、「マーケティングはなぜ楽しいのか」と題して、大学を卒業以来、30数年、マーケティングの仕事しかしたことがない私が、この仕事のどこが好きなのか、楽しいと感じるのかを書いてきました。

1.       ひとのこころを動かす仕事 - マーケターの誇り

2.       アートのサイエンス、サイエンスのアート - 醍醐味の源泉

3.       「ひとがひとに」 - マーケティングの根底

4.       ブランドは「ひと」 - ブランドの本質をつかむ

そして、最後はマーケティングのもう一方の当事者である「ひと」=ターゲットについてつぶやいてみることにします。

 

 

マーケティングはなぜ楽しいのか

~お客さんへの贈り物~

 

さて、実はすでに1で、「ひとのこころを動かす仕事だから楽しい」と書いてしまっているので、結論はそこなんですが、ここでは少し、私が、「買ってほしいお客さんを決めること」=ターゲット、ターゲティングをどのように考えているかについて触れながら書いていきましょう。

 

 

みなさん、ご自身が親しい誰かを思い浮かべてください。 仲の良い友人、恋人や家族、大切な誰か。

そこで、私が

「そのひとが喜んでくれる贈り物を考えてください」

とお願いすれば、おそらくほとんどの方は、何か思いつけるはずです。

あいつは、こういうのが好きなんだよな、とか、あのひと、確かこういうのが欲しいって言ってたよね、この色が好きなはず、こういうものをあげると嫌がるのよね、とか、いろいろ考えられるはずです。

そしておそらく、どういう場面でどういう渡し方をすれば一番喜んでくれるかも想像できるはず。

 

さて、では、

「あらゆるひとに喜ばれる贈り物を考えてください」

と言われたらどうでしょう?

困ってしまいますよね。

そしておそらく、多くの方が「商品券」にたどり着いてしまうと思います。

世の中で最も無難な贈り物のひとつでしょうか。 (そして、とても皮肉なことに、結果として、「ああ、あのひとは私のことをあまり知らない、か、特に気にかけていないということね」ということが伝わってしまうかも知れません・・・・いや、それは商品券に失礼ですね、商品券には「商品券であるべき」ときがありますし。)

 

つまりターゲットを決めると、そのひとに喜んでもらえることは何なのかがわかる、決められる、というわけです。 どんな製品やサービスにすればいいのか、どんなデザインが好まれるのか、どんな広告が響くのか。

ターゲティング。 マーケティングを組み立てるうえで、無くてはならない、最重要の戦略的要素のひとつです。

 

基本5

 

ちょっと余談っぽくなりますが、実は、もしあなたのカテゴリに、あらゆるひとが絶対に使いたくなるイノベーションのチャンスがある場合は、ここ、あんまり悩まなくていいんですね。 例えば、ITを中心としたサービスなどでは、今も「誰が独占的勝利を収めるか」争いがにぎやかですが、そういうことです。 (まぁ、インフラやインフラに近いサービスはそうあるべき、という見方もありますが。)

私がかつて携わっていた日用品のカテゴリでも、そうですね、おおよそ1980年代後半くらいまでは、そういうイノベーションが不可能ではありませんでした。

私が社会人になる直前なので、もう35年ほど前ですか、花王がアタックという洗剤を発売。 文字通り「瞬く間に」No.1シェアを獲得しました。 それまでの衣料用洗剤は、ひと箱4kgくらいの大きさでしたから、洗剤を買う日は他に重いものは買っちゃだめ、「特売!おひとり様2個まで」って言われてもどうせ2個しか持てない、そして、一回のお洗濯にコップ1杯分くらいの洗剤を入れなければならなかったのに対して、いきなり片手で持てる箱に入って「スプーン1杯で驚きの白さに!」ですから、誰もが買っちゃうわけです。

なので、ターゲットは、「洗濯する人みんな」でよかった。

しかし、世の中の多くのカテゴリで、そうした「誰もが欲しい・必要なイノベーション」が実現できなくなってくると、「誰に好きになってもらうか」(つまり誰には好きになってもらわなくてもかまわないか)を決めなければ、いい製品やサービスをデザインできない状況になって、この「ターゲットを決める」ことが必須になった、ということですね。

 

 

さて、本題に戻りましょう。

この「誰に好きになってもらうか・誰と仲良くなりたいかを決める」作業、そして次に「そのひとに好きになってもらえる・もっと好きになってもらえるモノやコミュニケーションを開発する」作業が、まさにマーケティングの楽しいところなのだと思います。

 

 

誰に好きになってもらえば、誰と仲良くなれれば、目標とするビジネスが実現し、かつ、いいブランドになれるかを考え、決める仕事。

前の記事に書いたように、この「ひととひと」(ブランドとお客さん)の間を行ったり来たりする作業です。

そして、「永く一緒にブランドを作り上げていくパートナー」として、ターゲットを決めます。 (私たちはこれを戦略ターゲットと呼んでいます。) もう一方でブランドの戦略を決めるわけですが。

 

そうするためには、このひとたちのことをしっかり理解しないといけません。

どんなひとが、どれくらいいるんだろう、どんなことが好きなんだろう、どんな風に生きている、どんな風に生きていきたいと思っているんだろう、何を探しているんだろう・・・・。 あのひとと、このひとは、一見違うように見えるけど同じようなことに感動するよね、こっちの彼とあっちの彼は、とても似ているようだけど、目指しているものが全然違うよね・・・、と。

 

ところで、いろんな方のお手伝いをしていて、わりとびっくりするのが、この「誰に好きになってもらうのかを決める」前に、ユーザーとノンユーザーに分けてしまうひと(会社)が多いことです。 (そして!、ノンユーザーさんたちをたくさん集めて、なぜ使わないのかを聞いてしまう!!!)

これをやってしまうと、その後、よほどの幸運に恵まれない限り、だだっぴろい荒野をさまよい歩くことになります。

例えば、5%シェアのモノで、使っていない95%のひとを「深く理解しよう」としても、そりゃ無理ってもんです。

順番が違うんですよね。 まず、好きになってもらいたいひとたちを決めて、使ってくれているひとたちに会いにいって、自分たちの仮説や目論見が正しかったかを確認し、(必要であれば戦略を修正し)、その次に、「好きになってくれるはずなのに、(まだ)好きになってない・使ってくれていないひと」について「考える」、というのが正しい順序です。

 

 

さて、同様にブランドや製品・サービスそのもの、その改良品や姉妹品、デザインや広告などを開発する際にも、ターゲットを深く理解することが要求されます。

ここはいよいよ「どんな贈り物が喜ばれそうか」を探る場面です。

前段でしっかり理解できていれば、わざわざ調査したりする必要はないとも言えるんですが、とはいえ、調査することで、改めて・新たに刺激を得られることもあるし、少し具体的に知りたいこともわかってきてたり、そして何より「いよいよ具体的なプレゼントを考えるぞ」という段階なので、自分の妄想だけで痛いプレゼントを用意してしまわないためには、相手に会いにいくのはとても有効だと思います。

また、長期的な戦略ターゲットの中で、(今、)特に大事なグループ(コアターゲットと呼んでいます)にとって、「すごく素敵」と言ってもらえるモノを開発する必要があったりもします。

 

彼ら・彼女たちが、今、どんなことに興味があるのか、最近どんなことを経験したのか、何が特に好きなのか、何に困っているのか、何を伝えると考えや思いが変化するのか、などを探っていくわけです。

そして、それをもとに「これならすごく喜んでくれるに違いない贈り物」=マーケティング活動を考える。

 

 

楽しいはずです。

マーケターは、年がら年中、自分のブランドから、ブランドのお客さんに贈るプレゼントを考え続けているわけですから。

(私は人づきあいが、かなり苦手です(あまりそう見えないらしいですが)が、この仕事は大好きです。)

 

 

追記: マーケティングとは、自分の商品・サービスをことさらに良く見せようとする行為・作業・テクニックだと勘違いされていることが多いように思います。 逆ですね。 相手にとってうれしい贈り物を考え、作ることなんです。

 

お。

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  • えとじや店主

    えとじや店主。マーケティング一筋30年。世の中の様々な問題を「ブランド・マーケティング」で解決する腕利きコンサルになるのが夢。なかなか、そうはいきませんが。 ともかく、マーケティングに関わることはなんでも相談に乗ります。スノーボードと音楽が趣味ですが、「うんちく」と「説教」も大好きです。

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    えとじや番頭。消費者リサーチ歴18年。市場や消費者を理解することで、ブランドが強くなり商品が売れる、という経験を何度も味わってきました。 調査をどうやったらいいのかわからない、結果を見てもどう使っていいかわからない、そんなときにはぜひご相談ください。

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    えとじや店員。兼フードコーディネーター・レシパー。兼マーケティングができる中小企業診断士。どんなことでもたいていやっているうちに面白味を見つけてしまい、ハマるタイプです。 リサーチ、マーケティング、料理など、それを繰り返して今に至ります。今度はえとじやでどんな面白いことが経験できるのか、わくわくしています。

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    えとじや店員。お抱え絵師(デザイナー)。パッケージデザイナーとしてメーカーで約7年働きました。マーケティングやリサーチはまだまだ初心者。デザインの力を使ってみんながニコニコできるようなものを作れたら嬉しいです。アニメ、漫画、手芸、落書き、クレイアニメーション…、ちまちま何かを作るのが好きですが、大雑把で不器用…。細やかさを欲しています。

  • えとじやお針子

    えとじやお針子(ライター)。マーケターを5年したあと、マーケティング博士号取得、その後、リテールサービス企業のマーケ部長に。なんと、えとじやクライアント&えとじやブログのライター。 理屈も現実もそのはざまも経験、マーケティングの仕事ってなんなの?どうしたらいいの?という悩みにはいちばん共感できる立場かも。

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